第102話 感情の可視化
おはようございます^ ^
また投稿させていただきました。
ぜひ暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪
よろしくお願いします!!
4年前。
『真央』が死んだ後、喜美は研究の果てにトレースバースを作り上げた。
あれはサカキがマーライオンのヘソのイベントで使っていたものと同じ型らしい。
あの『服装研究会』などと題されたイベントで行われていたのは脳情報の上書き。ステージ上でトレースバースを使われた者たちは皆、以前の自分たちの記憶は残っていなかった。しかし『マオ』に使われたトレースバースは『真央』の作ったオリジナルと呼ばれるもの。
そのせいか『マオ』を残したうえで『真央』の記憶を引き継ぐことができたのだという。
また驚いたことにアズマと、このマーライオンのヘソの管理人であるサカキは以前から面識があったそうだ。
当時、営業部長だったサカキはよく自分の元へ資料を届けにくるアズマを気に入り、直属ではないものの部下として信頼していた。
サカキの部下だったアズマは突然、『真央』の死から1週間後に幹部となる。これは喜美の策略だ。イオリとアズマを分断させる為なのだろう。しかしアズマは2週間足らずで、それも懲戒解雇という形でユーゼンを去ることになった。イオリには真実を告げずに……。
表向きの理由は情報漏洩。社内で得た研究記録を不正に他社へ横流ししたからというものだ。だが本当の理由はオリジナルのトレースバースの研究記録、あれを破棄したのが喜美に見つかってしまったからであった。
アズマが去った後、その席を埋めるようにして幹部となったのがイオリ。
それからのイオリは、本格的にエヴァンディール計画へ加担することとなる。しかしそれを望まなかった彼女はサカキを幹部に押し上げ、喜美の息がかかっていない社員を集めて環境を変えようとしたのだ。
情報漏洩で解雇となったアズマと、そのアズマに友好的だったサカキ。事情を知らない者たちは皆、サカキのことも疑った。
おそらくサカキを幹部に押し上げるのは容易ではなかっただろう。
そしてその傍ら、イオリは喜美の命令を受けプロテクトとトレースバースの解析に協力していたのだ。
『真央』の脳に掛けられたプロテクト。
それはトレースバースに関する記憶だけではなく、『真央』のあの独創的な発想までも奪い去ってしまったことが後に判明する。
やがて解析を進めるうち、ついにイオリは何となくだがその解除方法を理解した。4年間、イオリはここに至るまで4年間もの年月を費やしたのだ。
もし喜美の前で解除を試みれば、全て彼の思い通りになってしまう。それだけは絶対に避けたかったようだ。
だがプロテクトの解除はイオリにとって、Eフロアで働く研究員たちを救う希望でもあった。
『真央』ならば……。
唯一、喜美という男と対等な立場で話ができる。
『真央』ならば……。
誰も思いつかなかったことをいとも簡単に思いつき、実行することができる。
『真央』はプロテクトなどという常人が少し見ただけでは理解できない仕組みを作り、今もオリジナルのトレースバースを守り続けているのだから。
イオリは『真央』に縋るしかなかった。
喜美の復讐を、エヴァンディール計画を止められるのはやはり彼女しかいないのだと。
こうして解除方法を喜美に報告せず、密かに自分で行える解除のタイミングを待ったのだという。
しかしそうこうしているうちにサカキはエヴァンディール計画でミスを犯してしまった。彼は既にナバタメの手によって処理されてしまったのだと……。
「だから……私はあなたとアズマくんをここへ呼んだ」
イオリは順を追って、マオとアズマにそう告げる。
「まさか、プロテクトの解除方法は……」
「気がついた、アズマくん? プロテクトの解除方法はここにいるマオと、トレースバースの中にあった真央の記憶を統合させること。保存された彼女の記憶が、正常に稼働してる脳に引き継がれることが最初の条件」
「私の脳は……正常といえるんですか?」
マオはイオリに問う。
「そうね。確かにあなたの脳の半分にはプロテクトが掛かっている。けれどもう半分、私は脳の足りない部分にAIを組み込んだ。AI部分そのものにはプロテクトが掛かっていないし、感情の形成をする役割もきちんと果たしている。あくまでその面から見れば正常に稼働していると判断できるのでしょう」
イオリは夜空に浮かぶ満月を見上げて続けた。
「これは賭けだった。プロテクトの解除なんて誰もやったことが無いもの。正直なところ、私もこれで本当に解除できるのか分からなかった。それに解除にはもうひとつ条件があってね……。感情の可視化、アズマくんもマオもそれは知ってるでしょう?」
「勿論。人間の声や表情、心拍数などから数値を割り出して、感情を目に見えるようにすることですよね。真央さんがよく言ってました。脳波でも感情の可視化は可能だって……」
「そう。真央はその技術をプロテクトに応用していた」
「プロテクトに?」
アズマが驚いてイオリに尋ねると、イオリはマオを見る。
「感情と脳波は深いところで繋がっている。『幸せ』の感情と、『悲しみ』の感情では測定できる脳波が違うの。あのプロテクトの機能は、脳波を常に測定し感情を数値化していた。これが『鍵』の役割になっていたのよ」
『真央』の記憶を『マオ』に統合させる。
ちょうど目の前にある鍵穴に『鍵』を差し込むように。
イオリが言っているのはそういう意味なのだろう。
「プロテクトを解除するには真央の作ったトレースバースを使うことが必須。さらに真央の記憶を入れられた人物が、当時の真央と同じ感情を抱かなければ解除されない仕組みだった。そうじゃないと脳波の数値が同じにならないから『鍵』が回らない」
「さすがは真央さんだ……。この仕組みを短期間で作り上げるなんて。悔しいですが、僕にはよく理解できません」
アズマは観念したように笑う。
この仕組みは……。
『真央』自身にトレースバースが使われることを初めから予測していなければできない。もしかすると『マオ』が生まれることも、こうなることも彼女には全部分かっていたのかもしれない。
いつかプロテクトの解除が必要になった時、それを行えるのは文字通り『自分』しかいないのだと、そう言っているようにも思える。
「凄い……。そんな複雑なことをやってのけるなんて」
思わず口から出たマオの言葉にイオリが微笑んだ。
「彼女は天才だったから。真央にとってはこれで良かったのかもしれない。あなたの頭の中にあるAIは、真央の行動を学習している。だからあなたの行動原理は、全て真央が元になっているの。でもね、あなたが今凄いと感じたその気持ちはあなただけのもの。あなたは真央と同じじゃない、違う存在だった」
アズマが首を傾げる。
「どういうことですか、イオリ?」
イオリは気づいたようだ。
『真央』がどうやってトレースバースを作ったのか、『マオ』がまだそれを思い出せていないことに。
「残念だけど、プロテクトの解除は失敗だったようね。
何が原因かは分からない。元々よく分からない仕組みなんだもの。けどもう時間がないわ。何か別の対抗手段を考えないと……」
その時だった。
イオリの言葉を遮るかのように屋上の扉がゆっくりと開いたのだ。
いつも読んでいただきありがとうございます!!
今回は謎の解明要素を多めに入れてみましたっ笑
ありがたいことに、この謎が気になる……!や、これは〇〇じゃないか?と気にしてくださっている方もちらほらといらっしゃり……。
まだ謎は残っていますが、それが少しでもスッキリしていただけてたら嬉しいです……!!
(そして先の展開予想が鋭い方に出会い、時々驚き……笑)
こうして皆様に楽しんでいただけるよう、楽しんで続きを書きたいと思います♪
評価•ブックマーク•感想などありましたら何卒よろしくお願いします……!!
(いつも励みになっています笑)
では続きを書いてきます!




