第100話 統合された記憶
おはようございます!
また投稿させていただきました。
ヘビーな話になってしまいましたが、暇な時に読んでいただけたら嬉しいです♪
よろしくお願いします_:(´ཀ`」 ∠):
どのくらい時間が経ったのか。
一瞬? それとも……あの記憶と同じくらい?
屋上に座り込んだままのマオはふと我に返る。そして震えている両手を組んで、落ち着かせるように強く握った。
「戻ってきたのね!」
すぐ隣で様子を伺っていたイオリが名前を呼ぶ。
真央……と。
イオリは一体どちらの名前を呼んだのだろう。
目の下にクマができており、やつれた姿のイオリは記憶の中とはまるで違う。でもイオリだ。
じゃあ、あの記憶の中の『真央』は?
あれは自分じゃない、でも自分と同じ姿をしていた。
胸が苦しい。心臓が中からギュッと掴まれているような感覚。
プロテクトのボタンを押した時の記憶も、感情も、屋上から落ちた時の感触もすべて鮮明に残っている。
自分は、一度死んでしまったのか?
トレースバースが頭に刺さったはずなのに、どうして自分の中には『真央』と『マオ』の記憶が同時に存在しているのだろう。
「イオリさん。私は…………ユーゼンにいた、あの真央なの?」
マオはおずおずとイオリに尋ねた。
「真央はもういない。あの日、屋上から落ちた彼女のもとへ駆けつけた時にはもう……。頭を強く打ったみたいでね、辺りには脳の欠片が散乱していた。それを見て私は思った。あぁ、彼女は本当に死んでしまったんだと……」
額に手を当てたイオリは、そのまま目を擦るような仕草をする。マオの耳にはイオリの涙声が静かに届いた。
「楽しかった、本当に……。
彼女と笑い合って過ごしたこと。
ただひたむきに、真っ直ぐに生きてきた彼女がこんなことに巻き込まれて命を落とすなんて、許せない」
「イオリさん……」
「だから彼女の記憶をずっと残しておきたかった。あの時あなたが投げたトレースバースは傷だらけだったけど、ちゃんと使えたのよ。私はそれをいいことにあなたの記憶を保存してしまった」
今のマオには『真央』の想いもよく分かる。
こうして自分が死んだ後も記憶を保存されているなんて複雑な心境だ。
トレースバースに関わる記憶を残しておきたくはなかった。しかしイオリの気持ちを思えば、その行動を咎めるなんてこと『真央』にはできない。
イオリもまたそんな『真央』の想いを分かっていたのだろう。重々しいため息をつく。
「それは良くないことだと、あなたの望まないことだとは分かっていた。でも自分を止められなかった。私があのトレースバースを、あなたの脳に刺して使ってしまった……」
「なら私の見た記憶は、もしかして……」
マオの言葉にイオリが静かに頷く。
「真央が捨てたはずの、トレースバースに関わる記憶。喜美所長はこのことを知らない。知っているのは私だけ」
イオリの手のひらで大切そうに握りしめられるトレースバース。よく見るとあちこちが傷だらけになっていた。
屋上から落ちた時についた傷なのだろう。マオはイオリにどんな言葉をかけていいのか分からない。
まるでそれが『真央』自身のようにも思えて仕方がないのだ。
「マオ、伝えなくちゃいけないことがある」
涙ぐむイオリはマオの目を見てはっきりと言った。
「あなたを作ったのは私。彼女の散らばった脳の半分と、AI、医療クローニングを使って、私が初めて作った存在。それがあなたなの」
「私が……作られた………?」
そんな馬鹿な話……!
これでは自分が『真央』のコピーだと言われているようなものだ。
そう思った時、マオの脳裏に数々の記憶が駆け巡った。
ヤヨイがスカート姿の自分を見て驚いていたこと。
キーラボで聞いたアズマの悲しげな告白。
人の名前が文字化けして見える理由。
クローンボットを自分だけ上手く動かせなかったこと。
よくよく考えれば自分が関わっているのは皆、きっと彼女と交流があった人物。そして彼女の脳にはプロテクトがかかっていた。
クローンボットお披露目会の日、頭の中を覗かれたくないと思った。この自分の気持ちは……いや、自分の気持ちではない。そもそもこれもプロテクトの効果なのだろう。
つまり自分は『真央』の脳をプロテクトごと引き継いで生まれてきた存在だというのか……?
そう考えれば納得のいく話だ。
それは『真央』であり『真央』ではない。
『真央』になりきれなかった偽物。
「嫌だ……、嫌だ。そんなの認めたくない!」
「事実よ。真央の死後、喜美所長は私たちに散らばった脳を集めさせた。そして私に言ったの。『新しい身体を用意させるから、その脳を使って天才を作ってみせろ』と」
「イオリさんはその命令に素直に従った。どうして?
あの時、ヨシミ所長の本性を見たでしょう。そんなもの作ったら……今度は私が利用されるとは考えなかったんですか!」
イオリのしたことは『真央』が命をかけて守ったものを、台無しにする行為だ。現にトレースバースは今、エヴァンディール計画に利用されている。
どうしてこんなことに……。
「あの時断わっていたら……アズマくんは殺されていた。喜美所長は敢えて私に作らせたのよ。屋上での出来事の口封じと、都合良く私を手駒にするためにね。
私はユーゼンを去ることも、誰かにこの状況を話すことも許されなかった。あなただって喜美所長の考えそうなことは分かるはずでしょう!」
その言葉を聞き、少し離れた場所にいたアズマは驚いて訊ねる。
「僕が殺されていた!? どういうことですか、イオリ。
そんなこと……あなたは僕に一言も言わなかった」
イオリは肩をすくめる。
「言ったところで、どうしようもない。さらにあなたを苦しめただけ。あなたは結果的に真央を突き落としてしまった。それがもみ消された事実だとしても、あなたの心にはずっと消えないで残ってる」
「ちょっと待ってください、ふたりとも!」
堪らず話を遮ったマオ。
イオリとアズマが揃ってこちらを見た。
「何か誤解してます! アズマさんは……真央を突き落としたんじゃない。助けようとしてくれた!」
「どういうこと?」
イオリのいた場所からはそう見えてしまったのだろうか。
マオはアズマに問いかける。
「アズマさん、どうしてイオリさんに黙っていたんですか。違うって……、突き落としたんじゃない、私が勝手に落ちただけだと、なぜそう言わなかったんですか?」
「言えるわけないじゃないですか。あなたを死に追いやった原因は僕たちにもあるのに。あの時、あなたをもっとちゃんと守ってあげればよかった。僕が喜美所長に……トレースバースを渡そうなんて言わなければ、こんなことには……っ」
アズマは遠く、屋上から柵の向こう側を見つめた。
記憶の中のアズマとイオリ。
今、この場にいるアズマとイオリ。
『真央』の死がきっかけで、すっかり変わってしまったふたり。
でも深いところでは変わっていない。
彼らは自分よりも人のことを考えて行動している。
やっぱりあの頃の、優しいふたりのままだ。
記憶に入り込んだ『真央』がマオにそう告げているようだった。
いつも読んでいただきありがとうございます^ ^
ついに記念すべき100話!
応援いただきありがとうございます!
アズマもイオリも、本人も真央とマオの境界線が曖昧になっております……_:(´ཀ`」 ∠):
今日はJRの駅に設置されたストーブ(個人的には楽園と呼んでいるスポットwww)の前で書いてました笑
楽園は暖かいや……。
みかん食べたら最高に美味しく感じます(´∀`=)
ついでに餅もストーブの上に乗せて焼いたみたい……笑
→(やりません!)
これからお仕事の方も朝ごはんをしっかり食べていってらっしゃいませ〜♪
ではまた続きを書いてきます!!




