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15 アレシュの訪問


エルネストはロドルフの家に通いながら修行を続けた。

表向きは修行と言ってるが、実際は魔王を倒すための研究と実践である。

師匠は魔術に関する書物はほぼ読破しているので、あまり広まっていない魔術でも知識だけはしっかりある。

それをどうやって実用化するか、2人で試行錯誤を繰り返した。


そして月の満ち欠けが一回りするくらいの時が過ぎた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



アレシュは元々はどの領地にも属さない傭兵だった。

10歳頃から近所の大人に剣技を習い、傭兵となってからは実践で覚えていったので戦い方は自己流だ。

その強さを買われて魔王討伐の勇者に選ばれたが、正統派の剣技を身につけているベアトリスの指示に慣れるのにはかなり難儀した。


魔王に惨敗して王都に戻ってから、アレシュは

改めて剣技を習うため養成校へ入った。

自分よりはるかに歳下の子どもたちの中で基礎から習うのもちろん気恥ずかしいが、周りからはそう見られないように陽気に振舞った。

なぜか人に慕われやすい気質のアレシュはすぐにその環境に馴染んだ。

そして訓練を続けて基本を体に覚えさせ、無駄な動きを矯正していった。


その日も午前の訓練を終えて帰る準備をしながら生徒たちと雑談していると、気になる話題が出てきた。


「新しい勇者パーティが森に向かったそうだ」


そう言ったのは王都の役人の子息なので間違いはない。

聞いてみると、数日前にもう出発していたらしい。

そのパーティがどんなメンバーでどれくらい強いかわからないが、あの桁違いに強い魔王に太刀打ちできるのかは疑問だ。

エルネストは王都の端にある師匠の家にいると聞いてたので、アレシュは比較的近くにいるセスのところへ向かった。


セスは魔術師の訓練所に通っているはずだが寄ってみるといなかった。

住んでいる寮に行ってみても不在だ。

どこかで飯を食ってるのだろうかとアレシュが考えていると、セスと同じくらいの歳の魔術師が「昨日から師匠の家に行ったよ」と教えてくれた。

結局は街の外れまで行かなくてはならない。

食堂で腹ごしらえをしてから、アレシュは2人の師匠であるロドルフの家へと歩き始めた。




賑やかな通りを過ぎ、住宅や緑の多い地域を過ぎて、建物がぽつぽつと立つ寂しい地区までやってきた。

そこまで来てからアレシュは思い出す。ーーロドルフの家がどこにあるのか具体的に知らなかったことを。

彼は高名な魔術師だったらしいが、この辺りには古びた粗末な家しかない。方向を間違えたかもしれない。


その時、常人よりはるかに優れたアレシュの聴力が、仲間の軽い叫びを感知した。

方向と距離に当たりをつけ、アレシュは走り出した。


少し走ると狙いをつけた場所に二階建ての家があった。

粗末な門から中に入り、家のドアを乱暴にノックする。


「おい! セス、どうした!?」


ガンガン叩いていると急にドアが開いたので後ずさりする。

本能的に腰の剣に手をかけた。


「やかましい、何の用だ」


目の前には不機嫌丸出しでエルネストが立っている。

アレシュは安堵して腰から手を離した。


「さっきセスが叫んでただろ」

「それで来たのか。獣みたいな耳だな」

「たまたま近くに来てたんだよ!」


本気で呆れているエルネストにツッコミを入れると、中からひょこっと赤毛の頭が現れた。


「あれ? アルどうしたの?」

「セス、無事か?」

「お前の叫びを聞いてアレシュが飛んできたそうだ」

「ええっ!」

「だから違うって!」


3人でわあわあ言っていると、ロドルフも中から出てきた。

白髪と白い髭が特徴的だが、日焼けした立派な体躯は引退した魔術師というよりも兵士っぽい。

ロドルフに促されて3人は家の中に入った。




セスはアレシュに冷たい茶を出し、エルネストとある訓練をしていたと話した。


「その訓練が初めての感覚でちょっとびっくりしただけ」


詳しく話そうとしたが、アレシュは魔術について専門外なので断った。

「ところでアルはどうして来たの?」と言われ、元々の用事を思い出す。


「さっき聞いたんだけどな、新しい勇者パーティが魔王討伐に行ったらしいぜ」

「そうなの?」


目を丸くしたセスの隣で、大きな音と共にエルネストが立ち上がった。


「それはいつだ? 今日か?」


エルネストは乱暴にアレシュの肩を掴む。

普段の冷静さからは信じられないほどの迫力に、アレシュは気圧された。


「いや、旅立ったのは数日前らしい。あまり詳しく聞いてねえが」

「急がないとまずい。アレシュ、セス、今から後を追うぞ」

「はあっ?」

「え、今!?」


ぽかんとする2人だったが、エルネストは落ち着きなく瞬きを繰り返しながらブツブツ言っている。

そんな彼を見るのは初めてだった。


「エルネスト、落ち着け」


黒髪の頭にガツンと拳骨が落ちてきた。

ロドルフが呆れ顔でエルネストを見やる。


「お前の転移を使えばすぐに追い抜ける。ちゃんと支度をして.......」

「俺は落ち着いている。支度はローブと武器があれば十分だ」


どこが落ち着いてるんだよとアレシュが突っ込む前に、エルネストはセスとアレシュの腰に腕を回してきた。

覚えのある、ふわりと体が浮き上がる感覚ーー。




それからアレシュが見たものは、驚いた顔のベアトリス、冬用のローブが並んだ洋品店、そして雪の積もった木々といくつもの塔がそびえる禍々しくて巨大な城だった。


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