運命のナインエル
「かくかく、しかじか」
<あーそれはまずいっすねー。弾頭はなんとか足りそうですけど、宇宙船がねえ……>
「核弾頭載せて、ぶつけりゃいいんでしょ? 一機じゃ全部載せきれないとか?」
<いいえ、一応全部載るんですよ、一機でも。ただ……>
「ただ?」
<帰れ……ないんですよねえ、一機では>
一郎と田中山は顔を見合わせた。留守を守っていたタカヒロは視野の端で大福を食っている。
<いやその……ぶつけるって言っても相手も速いんで、脇をこう並走しながら細かい石を避けつつ、小惑星の真ん前の少し下、決まった位置に出ないといけないんですよ。手前で石に当たって壊れたら終わりだからオートパイロットでドカーンとぶつけるわけにはいかないんです。で計画では二機を連結して行って、前に出たところで弾頭を積んだ一機を残して逃げるはずだったんですが、一機だけだとパイロットも一緒に……>
ああ、頭の中でスティーヴン・タイラーが大きな口を開けて歌っている。あの有名な映画みたいに、誰かが残る。その時、一郎たちの後ろで、もごもごとくぐもった声がした。
「もれ、ほくはゃるほ」
タカヒロ?。
タカヒロは口の中一杯の大福を飲み下すと、一郎たちの方を見てもう一度言った。
「ボクがやるよ」
一郎と田中山はまた顔を見合わせた。え? え?。
「タカヒロ、お前その意味がわかってるのか?」
一郎が言うとタカヒロは表情一つ変えずに言った。
「だってさぁ、ボクが入る宇宙服って、ぬぁいんだもぉん」
そうだ、さっき淡島さんは「ちなみに宇宙服ですが……爆破の時に強い放射線が放出されるので、その時はたとえイブーシギンの中でも着ていないと死んじゃいます。即死です」と言っていた。
「君たちがあっちに行ってる間にぃ、調べてみたんだよぉ。そしたらボクの入るサイズがぬぁいでやんのぉ、9Lってそんなにめずらしいのかなぁ?」
「「めずらしいっしょ!」」
一郎と田中山は声を揃えて食い気味に言った。タカヒロは一瞬不服そうな顔をしてみせたが、すぐに事もなげに言った。
「そっかぁ。やっぱ無理ならぁ、ボクが行くわぁ」
そしてゆっくりと右手を一郎の前に突き出して、こう言った。
「お茶」