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37 元・宰相アルスタークの野望

「おのれ……あのドラゴン坊主めが……」


 ワシはリベル軍から追い出され、ヘヴンズタワーを見上げていた。宰相の地位を失ってしまった。長年、苦労して築き上げた物資の横流しルートや、裏資金の全てが無に帰した。全てが、だ。


「くそう……。これでは今までのような裏の生活ができなくなってしまうではないかあっ! 魔族の遊女たちを侍らせ、人間の臓物を食い、魔物の子供たちを戦わせる! ワシの至高の楽しみを奪いやがって!! あの小僧め……」


 自慢の白ヒゲを擦りながら、怒りに震える。このままでは、このままでは済まさんぞ……。しかし。しかし! 今のままでは復讐どころか、明日の生活すらままならない。なんとかしなくては……。


「おやおや。ご老人。お困りのようですね」


 唐突に、氷のように抑揚の全くない声がした。周囲全てが凍てつくような、そんな声音。まるで空気までもが冷えていくような錯覚を感じた。


 ワシは、ゆっくりと振り返る。


 そこには、真っ白なスーツと外套を身に着けた長身の優男が立っていた。髪と瞳は薄い紫で、肌は極限まで白い。まるで生気がない。生命を全く感じられない顔である。


「だ、誰だ、おまえは!」


 ワシの声は勝手に震えていた。目の前の男は、普通ではない。表には一切のオーラを出さずにいるが、内に秘めた力が僅かに漏れ出ている。そんな感じなのだ。


「私はアルスターク。未来のあなたです」


「は?」


 こやつ、今、なんと言った? 未来のアルスターク? た、確かにワシの名前はアルスタークじゃが……。


「な、何を戯けたことを言っているのだ。み、未来のワシだと? 百歩譲って、仮にそうだとして、何故、ワシより若いのだ!!」


 男は引き笑いのように肩を揺らした。あの癖は――確かに、ワシと同じ……いや、いやいや! そんなことぐらい偶然だ。偶然に決まっている!


「まあ。あなたが信じる、信じないは、この際どうでもいいんですがね。とにかく私は未来のあなたなので、今、落ちぶられては困るのですよ」


 ワシだと主張する男がじりじりと近づいてくる。なんだ、この圧倒的な嫌悪感は! ワシは背中にびっしょりと汗をかいていることに気がつく。これは恐怖――だ。


「ち、近寄るな! それ以上、近づくなあああ!!」


「怯えることはありませんよ。あなたは今から、未来を享受するのです。全ての魔王を超え、いずれは竜王さえも食い殺せるでしょう」


 魔王を超える? 竜王を食う、だと?


 男は胸のポケットからおかしな道具を取り出した。見たこともない黒い筒のような形状をしている。


「これは、拳銃というものです」


「け、拳銃? な、なんだそれは! それでどうするつもりだ!!」


「こうするのです」


 激しい音と閃光が二度瞬いた。その直後、ワシの胸に二つの穴が穿たれていた。


「ぐはあっ!」


 口から大量の血が溢れ出す。激しい痛みが胸部に駆け巡る。


「な、なにを、した……」


 しゃべる度に血が喉を上ってくる。息ができない。急激に寒さが身体中を襲う。霞む視界で男を見ると、何かを言っている。もはや声は聞こえない。


「こ、こんな、ところでえ……」


 ワシはその言葉を最後に崩れ落ちると、自らの血に塗れて絶命した。

数ある作品の中から本作を選んで頂き、本当に、本当にありがとうございます!


もしよろしかったら、ブックマークをして頂き、ジンとデュランダルを応援してもらえたら光栄です!

下にある☆☆☆☆☆も押して頂き、ご評価も頂けたら、さらに幸せです!


ここまでお読み頂き、本当に、本当にありがとうございます!

これからも何卒よろしくお願いいたします。

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