14 追放サイド:没落への道(その4)
「く、くそが! なんでこんなことに!」
俺様はグングニルのダンジョンをなんとか抜け出し、宿の酒場へと戻っていた。すでにかなり遅い時間だったが、飲まずにはいられなかった。
「ライトニングめ……何故、出てこない!」
契約したはずのドラゴンが召喚に応じないなど聞いたことがない。ただの下僕に過ぎないトカゲの分際で……おのれぇっ!
俺様は怒りのままに、手近な椅子を蹴り上げた。派手な音を立てて、椅子が転がる。客どもが一斉にこちらを向いたが、睨み返すとすぐに視線を逸らす。根性なしどもが。
「お、お客様! 困ります!」
「うるせえ! 貴様、帝国竜騎士団ラウダ・ゴードン様に向かって、舐めた口を聞くとどうなるか教えてやろうか!」
「ほう。どうなるか、ぜひ教えてもらいたいものだな」
やけに落ち着いた声音がした。この俺様相手に生意気な……。いいだろう。憂さ晴らしに後悔させてやる。俺様は首を巡らせ、思い切り怒鳴り返した。
「いい度胸だ! 教えてやるから、表に……え。お、おまえは!」
相手の顔を見て俺様は息をのむ。そこには銀髪隻眼の長身の男が座っていた。そいつはカウンターで琥珀色のウイスキーらしきものを静かに飲んでいる。
「その髪、その眼帯、その白いコート……あんた、まさか」
俺様は自分の指先が震えているのに気がつく。両手をきつく握りしめ、どうにかそれを抑えつけた。
俺の目の前にいる男――そいつは「隻眼の銀狼」と恐れられている北方氷雪連合の騎士団長グライン・オズワルド!
まずい。こいつは確かSS級のはず……。
「で、舐めた口を聞くと、どうなるのか教えてもらえるかな」
「あ、いや。ははは。なんでもねぇよ。なんでもねえんだよ……。邪魔したな。ははは」
俺様は慌てて酒場を抜け出し、宿泊している部屋へと駆け込んだ。外は相変わらず雪が振っていた。
ドアを閉めて、息と鼓動をどうにか整える。全く、今日はなんという日だ。ダンジョンでは散々な目に会い、竜化もできない上に、北方氷雪連合のグラインにまで絡まれるとは……。
「くそったれがあ!」
部屋の水差しを床に投げつけ、溜まりに溜まった怒りを発散する。ちくしょう。何故、こんなことになった?
ジン・カミクラ。
まさか本当にあいつを追放したからなのか? い、いやそんなはずはない。
「そんなはずはない!」
堪らず叫ぶと、突然、部屋のドアがノックなしに開かれた。
「誰だ!? 勝手に入ってくるな!」
振り返ると、そこにはダンジョンに置き去りにしてきた小隊の部下たちが立っていた。どいつもこいつもボロボロで実に汚らしい。おまけにひどい匂いだ。
「貴様ら……何、勝手に入ってきてやがる。しかも、そんな薄汚い格好で、くせぇだろうが!」
俺様が怒号を上げると、副長が一歩前に歩み出た。な、なんだよ。初めて見る反抗的な目だった。
「小隊長、いやラウダ・ゴードン。あなたを拘束させてもらう」
「はっ? な、何を言ってやがる。貴様、正気かあっ! おい、てめら、そいつこそ捕らえろ!」
俺様が命令を下達しても、誰一人として動かない。動こうとしない。それどころか、全員が敵意剥き出しの瞳を俺様に浴びせていた。
「お、おい。冗談だろ? 俺は、小隊長だぞ。い、今ならなかったことにしてやるから、とっとと自分の部屋に戻れよ」
「ひっ捕らえろお!」
副長が叫ぶと同時に、部下たちが一斉に俺様に飛びかかってきやがった。
「ひ、ひいっ!」
なんだ! なんなんだよ!
状況を理解できないまま窓を突き破り、俺様は雪の降りしきる外へと飛び出した。
「な、なんでだ! なんでこんなことに!」
全部、あいつのせいだ! ジン・カミクラ! 全て、おまえのせいだあああっ!
許さんぞ! 許さんぞ!
必ず、復讐してやるかならあっ!!
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