11 聖女騎士の死闘(リラ視点)
「母さん! みんな! お願い、あたしが行くまで無事でいて!」
ジン・カミクラの入団試験直後、故郷がゴブリンに襲われているという報せが届いた。あたしはとびきり脚の速い競走竜を駆って、家族の元へと急いだ。
母は重い病で、姉弟たちはまだ幼い。お姉ちゃんが今すぐ行くからね!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そ、んな……」
夕暮れの農村にたどり着いた時――全てが炎に包まれていた。あたしはその光景を呆然と見つめる。遅かった。間に合わなかった。
「グガガガ……」
村のあちこちでゴブリンたちが蠢いている。
彼らは住人たちを――喰らっていた。
あたしの中で、何かが弾けて飛んだ。
「おのれえええええええええええええっ!」
レイピアを抜き放ち、はびこるモンスターたちを片っ端から貫いていく。
よくも、よくも、よくもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
ゴブリンが次々に死骸と化し、紫色の血液を撒き散らす。レイピアも、あたしの手もべっとりとした血糊で汚れていた。
「はあ、はあ、はあ」
どうにか実家までの道を切り開き、足を進める。産まれ育った生家は――炭化した骨組みだけを残して、崩壊していた。
「母さん……。みんな……」
あたしはその場に座り込む。目の前には、変わり果てた家族の肉片が散らばっていた。
「そんな……そんな」
涙が零れ、火災の熱ですぐに蒸発していく。もう、あたしも燃えてしまおうか……。家族を支えるために皇都で聖女騎士となった。貧しい日々だったけど、家族さえいれば、それで幸せだった。
あたしの全てが今――失われた。
「お前、ウマそうだな」
後方から悍ましい声がした。首を巡らし、振り返る。そこには家屋よりも大きいゴブリンが立っていた。
こいつは――ゴブリンキング。
そうか。こいつがゴブリンたちを統率して、村を、みんなを。
ふつふつと怒りの炎が、あたしの胸にほとばしる。ゆっくりと立ち上がり、敵の親玉に正対した。そして静かに呟く。
来て――ドリュアス。ドラグ・フュージョン。
次の瞬間、あたしは木属性のS級ドラゴンであるドリュアスと竜化を果たし、深緑の竜騎士へと化す。エメラルドグリーンの法衣と九本のアサルトレイピアが宙を舞う。手には通常の二倍以上の長さのあるロングレイピア。
「お前だけは、お前だけは、絶対に許さないっ!」
あたしは九本のレイピアに指示を下し、矢と化した緑色の剣がゴブリンキングに降り注ぐ。
「グアアアアアアアッ!?」
キングが汚い悲鳴を上げる。敵の四肢と、正中線にレイピアが深く突き刺さる。
「これで、最後よ!」
深く腰を沈み込ませ、脚に魔力を貯める。手にした十本目のロングレイピアを左手に持ち換えた。あたしとドリュアスの全てを注ぎ込む。
必殺――エメラルド・ストライク・シュート。
力を開放し、一直線に跳躍。あたしとレイピアは一筋の緑光と化して、ゴブリンキングの胸に突き刺さった――はずだった。
「な、にっ!?」
「フハハハッ! この程度の力でオデを倒せるとでも思ったカアアッ!」
ゴブリンキングが棍棒であたしの剣先を受け止め、力一杯振り払った。
「きゃあっ!」
凄まじい勢いで、あたしは家屋の壁へと叩きつけられた。息ができない。霞む視界で敵を見ると、下劣な笑いを上げている。
ぞろぞろ雑魚のゴブリンたちがあたしに近づいてくる。
くそ……。こんな奴らに……。ごめん。母さん。みんな。お姉ちゃん、仇も取れないで……。
「グガガガガガッ!」
ゴブリンたちが咆哮を上げて、一斉に飛びかかってきた。
もう、だめ。
――その時だった。
「ドラグ・バーストオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
村を焼く炎とは全く違う紅蓮の焔が、ゴブリンどもを一掃した。
「リラ! 大丈夫か!?」
声のほうを見る。そこには必死の形相で駆けてくる竜化したジン・カミクラの姿があった。
「なんで、あんたが……」
「リラ。お前は――俺が守る」
数ある作品の中から本作を選んで頂き、本当に、本当にありがとうございます!
もしよろしかったら、ブックマークでジンとデュランダルを応援してもらえたら、とてもうれしいです!
下にある☆☆☆☆☆評価からも応援頂けたら、さらに幸せです!
ここまでお読み頂き、本当に、本当にありがとうございます!!!
これからも何卒よろしくお願いいたします。