17.巫女
翌朝は壮絶な二日酔いに苛まれながら目を覚ました。
下戸のくせに飲み過ぎたのが原因だった。
最初は一杯二杯でお暇するつもりだったのだけど、カワウソのラベルの日本酒がやたらと美味だったのがよくなかった。
文吉親分が僕と酌み交わすお酒を心底楽しんでくれているのがわかって、その嬉しさも度を超えた痛飲に拍車をかけた。
ズキズキと痛む頭に手をやりながら、酒盛りの中で親分が言った台詞を思い出す。
『いいか椎葉くん。首尾良くまやかしを退けることができたとしても、それで終わりではないぞ。夕声ちゃんの乙女心を掴めるか、むしろそこからが男の見せ所だ』
前半はまったく同感だったが、しかし後半部分にはやや飛躍を感じさせた。
僕と夕声の今回の問題は最終的には恋愛という一大要素に集約され、大団円は僕が彼女を『物にする』ことによってのみ訪れる。
文吉親分は事態をそのように捉えていた。
いや、飛躍ではないのか?
夕声を取り戻すためには、彼女を僕の物にする必要があるのか?
……しちゃっていいのか?
※
カウントダウンは進行している。
僕はそのことを忘れてはいけない。
午前九時過ぎ、今日も女化神社を訪れる。
「お祓い?」
社務所の掃除をしていた宮司さんは、僕の持ち込んだ依頼に驚いた顔で応じた。
「ええ、ちょっとその、呪われてまして」
「呪われてるって、ずいぶん断定的に言うね。そういう気がするとかでなく?」
「はい、そこは間違いありません。説明が難しいんですけど……」
僕の説明に、宮司さんの当惑がさらに深まる。無理からぬ事だけど。
「……なるほど。事情はよくわからないけど、まぁ、ご希望なら祓おうか」
「ほんとですか!」
思わず身を乗り出した僕に、まぁそれで君の心が落ち着いて前向きに生きられるなら、と宮司さん。
ううむ、なにか面倒な誤解を生んでしまったようだ。
「それで、最短でいつ頃お願いできますか? それから、費用はおいくらほど?」
「通常は初穂料という名目で任意の額を納めていただいてるのだけど、そうだね、今回は三千円ということでどうだろう?」
そんなに安くていいんですか? と驚いて口にした僕に、商売でやっているわけではないからね、と宮司さん。
「ただし、準備には少し時間をいただくよ」
「あ……やっぱり今日明日ってわけには、いかないですか」
「そうだね。まず祝詞を書かなければならないし、それに神楽を舞える巫女さんも手配しなければ……」
そこまで言って、宮司さんの言葉が不意に途切れた。
「? どうかしたんですか?」
「いや、なんだかおかしいなと思ってね。今まではわざわざ巫女を探す必要などなかったというか……気のせいだと思うんだが、うちには、誰か専属の巫女がいたような……」
「……」
結局、お祓いはお願いしなかった。
時間がかかるということももちろん大きかったけれど、しかし一番の理由は、もちろん巫女のことだ。
この神社の巫女さんは、やっぱり、僕にはあのキツネ娘以外には考えられない。




