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女化町の現代異類婚姻譚  作者: 東雲佑
一章 狐火
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4.やれやれ、まるでライトノベルだな。

 夕食はデリバリーのピザを頼んだ。自炊をするにも材料はなにもなかったし、それに引っ越しの日くらいは店屋物でも許されるだろうと思ったのだ。


 四種類の味が一枚で楽しめる人気のピザは、だいたい三十分ほどで到着するとのことだった。


 テレビの時計表示は七時十六分を示している。

 ピザを待つ間、僕は観るともなしにバラエティ番組を見ながら、さっきお隣さんが言った言葉の意味を考えていた。


『なんといっても、ここはもうオナバケが目と鼻の先ですから』


 結局、それがどういう意味なのかは聞きそびれてしまった。あの後すぐに電話が鳴って奥さんが家の中に引っ込んでしまったからだ。

 謎めいた固有名詞だけを残して。


 やれやれ、またか。

 こうも頻出すると嫌でも気になってしまう。


 バスに続いて、ここでもまたオナバケ。


 謎めいたオナバケの、僕はその尻尾すら掴めずにいる。

 会話の文脈からして地名であることは確かなのだけど、逆に言えばそれしかわかっていない。

 どんな漢字を当てるのか、そもそも本当に日本語に由来する地名なのか、それすらも定かでない。


「やれやれ」


 僕はもう一度村上春樹的なため息をついてみた。やれやれ。

 でも、まあいいさ。

 バスの運転手さんやお隣の若奥さんの言葉から推察するに、今日から僕の暮らすこの町(ここは竜ヶ崎ニュータウンの北竜台エリア、さらに詳細にはその端っこに位置する長山という地区らしい)は、謎のオナバケにだいぶ近いらしい。


 それに、と僕は思う。

 それに事の成り行きから言って、もうすぐ謎のオナバケは僕の前に現れるはずだ。これだけ立て続けにさらには思わせぶりに話題が出来(しゅったい)しているのは、つまりそういうことだ。


 そして、僕はその謎めいた土地と、あるいはその場所に深く関係する人物とえにしを得て、なんらかの事件に巻き込まれて行くことになる。

 ああ、きっとそうに違いない。


「……ライトノベルならね」


 と、僕が三度目のため息をついたところでインターフォンが鳴った。

 お待ちかねのピザが届いたのだ。


 僕は財布を手に『今側』の玄関へと急ぐ。注文内容と配達商品に相違がないことを確認し、配達員(ピザボーイ)のお兄さんに代金を渡す。

 毎度ありがとうございますと元気に挨拶してくれた背中を見送って、熱々のピザを手に家の中に戻る。


 玄関を閉めようとした時。

 ピンポーンと、チャイムが……玄関のチャイムが鳴った。


 インターフォンのブザーとは違う音だった。

 それに、音がした場所も違う。


 玄関チャイムは、屋内を横断する長い廊下を歩き詰めた反対側、こことは違うもうひとつの玄関で鳴ったのだ。『昔側』の玄関から。


 もう一度チャイムが鳴った。

 まるで「さっさと出ろ!」と催促するように。


 とにかく、急いで上がり(かまち)を上がって、「はいはい! 今出ます!」と叫びながら廊下を小走りに走る。ピザを手に持ったまま。

 そうして三度目のチャイムが鳴るのとほぼ同時に、僕が『昔側』の玄関を開けると。



 引き戸の向こうには、一人の女子高生がいた。



 もう一度言う。

 そこには、玄関先には女子高生が立っていたのだ。制服のスカートに学校名の入ったジャージの上を合わせた出で立ちの。竜ヶ崎第一高校。


「おっす」


 女子高生が言った。


「……お、おっす?」


 僕も返した。なぜか若干疑問形で。


 それから。

 それから、完全に面食らっている僕には構わず、女子高生はいとも直入に自己紹介らしきものを口にした。


「あたし、オナバケの栗林夕声(ゆうごえ)


 やれやれ、まるでライトノベルだな、と僕は思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、プロローグ以来の夕声さん! そして早速気になっていたオナバケからの来客ですね 越してきたばかりの主人公を尋ねるJKは一体どんなご用件なのやら
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