22.あんた、いったい何者だよ?
「あっ……」
リビングから廊下に出た途端、緊張の糸がぷっつりと切れた。両足からいきなり力が抜けて、僕はその場にへたり込んでしまう。
「あ、あは、あはははははは」
そんな自分の無様さまが滑稽で面白くて、僕は笑い出してしまう。
結局、スマートに決めることはできなかった。というか終始一貫して無様でみっともなかったような気がする。
なにしろ最後にはそのみっともなさでもって親分を説得したくらいだ。
今夜の僕の無様は光り輝いている。
「あはは、かっこわるいなぁ」
「なに言ってんだよ!」
僕の自嘲に、夕声が真剣なトーンで反論した。
「あんた、自分がとんでもないことやらかしたって、その自覚あんのかよ? あんたはあの文吉親分と渡り合って、最後には自分の主張を飲ませたんだぞ。しかも天地がひっくり返っても達成不可能な無理難題を……
ああ、もう! 嬉しいはずなのに、全然感情が追いついてこない! 全部あんたのせいだかんな!」
「ご、ごめん」
「謝るなバカ! なんにも悪くない癖に!」
恐ろしく理不尽な怒りを僕にぶつけて、それから、彼女は言った。
「……かっこ悪いわけ、ないだろ! 今夜のあんたは、過去イチかっこいいよ!」
言葉とは裏腹のマジギレ口調で、夕声はそう言った。
僕は照れればいいのか困ればいいのかわからず、誤魔化すように頬をかいた。
そんな僕を、夕声は涙の浮いた上目遣いで睨み付けて、問いを発した。
「……あんた、いったい何者だよ?」
何者だ、と問われても。別に何者でもない僕にはどう答えたらいいかわからない。
だから、とりあえず僕はこう言った。
「ええと……椎葉八郞太です。ご存知のように」
椎葉八郞太、それが僕の屋号だ。




