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女化町の現代異類婚姻譚  作者: 東雲佑
二章 むじな
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9.なかよく、かしこく、たくましく

「そっか。お前らが通ってる学校って、ホクショーだったんだな」


 夕声がそう言うと、三人の小学生は順番に「なかよくー」「かしこくー」「たくましくー」と返した。

 なんだそれ? と首をかしげる僕に「ホクショーの校訓だよ」と夕声が解説する。

 聞けば彼女も北竜台小学校の卒業生なのだそうだ。


 水沼さんから話を聞いた日の夜だった。

 我が家には夕声と、それから子ダヌキトリオの松・竹・梅が集まっていた。


「それじゃ君たち、水沼先生って知ってる?」


 僕が聞くと、子ダヌキたちはやっぱり声を合わせて「知ってるー」「ねっけつー」「ぽじてぃぶー」と答える。

 やれやれ、世間のなんと狭いことか。


「おい。そんなことより」

「ああ、うん」


 夕声に促されて、子ダヌキたちに来てもらった本題を思い出した。


「君たちが前に言ってたことって、ほんとだったんだね」

「まえ?」「はて?」「なんぞ?」


 三人揃ってこてんと首を傾げる。


「ほら、入学したばっかの頃にお前ら言ってただろ。なんか学校に乱暴者の悪い奴がいるとかって」


 三人分の「あー」が綺麗に重なった。思い出してくれたようだ。


「ごめんね。最初に君たちから話を聞いた時、きちんと取り合わなくて」


 四月の後半のことだから、もう三週間も前になる。神社の社務所ではじめてこの話を聞いたとき、僕も夕声も話を掘り下げて聞こうとはしなかった。

 語られた悪事のスケールが小学生サイズだったこともあるし、学校に通い始めたばかりの子供が空想にとらわれるというケースも……

 いや、いまさら理由を並べたところで言い訳にしかならない。


「……ごめん! すまない! ……申し訳ない!」


 もう一度、三人に向かって頭を下げる。心から謝罪する。

 そんな僕の態度に、子ダヌキのトリオも、それに夕声も、ひどく驚いた顔をしていた。


「い、いいよー」「気にしてないよー」「というか忘れてたよー」


 大人の僕に神妙な調子で謝罪されて、子供たちが慌ててとりなしてくる。

 三週間前、僕は三人の訴えを真面目に聞かなかった。


 だけど、水沼さんの話を聞いたいまとなってはもう、捨て置くわけにはいかない。


「もう一度、詳しく話を聞かせてもらっていいかい?」


 三人の目をまっすぐに見ながら、そう切り出した。

 僕のシリアスさが伝わったのか、子ダヌキたちもまた真剣な調子で『ホクショーの天邪鬼』について語り出す。

 とはいえ彼らの証言から浮かび上がるのは、やっぱり小学生サイズの悪事とささやかすぎる被害ばかりなのだけれど。


「悪事っていうより、ほとんどイタズラだな」

「うん。だけど、悪意を持った奴がいるのは確かみたいだ」


 たとえその悪意が小学生サイズだったとしても、それでも悪意は悪意だ。


「君たちはそいつが何者なのか、全然わからないのかい?」


 一縷の望みをかけて質問してみたものの、返ってきた答えはやっぱり三人声を合わせての「わかんなーい」だった。


「たしかお前らさ、『そいつはタヌキと人間と両方の敵だー』みたいなこと言ってたよな? てことは、そいつも化生ってことか?」

「んー、たぶん?」「おそらく?」「めいびー?」

「なんだよ、それさえはっきりしないのかよ」


 夕声が「やれやれ」と口にする。おい、それはひょっとして僕の真似か?


「まぁ、下手人があたしらの御同類だってなら、そんなに心配することもないんじゃないか? やってること無茶苦茶しょぼいし、大それたことはできないだろ」

「確かにその手の類が犯人ならそうかもしれないけど、本当に怖いのは犯人が人間だったときだよ。生徒以外の子供が紛れ込んでたくらいの話ならいいけど、もしも変質者が侵入してるとかだとしたら……考えるだけでゾッとする」


 というか、考えるだけで頭にくる。絶対安全なはずの学校に侵入して子供たちの安寧を脅かす不埒者……そんなのがいるなら、ちょっと許せないぞ。


 ……と。


「ん? みんな、どしたの?」


 そこで、僕は全員の視線が自分に集中していることに気がついた。

 子供たちと夕声は、きょとんとした顔で僕を見ていた。


「なぁ、ハチ。あんた、どうしてそんなにマジになってくれてるんだ?」


 

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― 新着の感想 ―
[一言] あら、ここの子達って北竜台小だったんですね てっきり長山小かと思ってましたわ
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