地震
ゆさゆさゆさゆさ
立ち上がれない揺れに沙伎はどうすることも出来ずに身を縮めた。屋根から埃が降り注ぎ、そこいらに置いたものが転げだす。
沙伎はとっさに手を伸ばし、いっしょにおいていた人形と貝殻の簪を摑んだ。
大切な宝物を胸に抱き、揺れが収まる事を念じる。
屋根が崩れてくるのではないかと生きた心地もしなかったが、きしみを上げる柱が倒れるよりも早く揺れは収まり、サキは宝物を胸に抱いたまま家を飛び出した。
婆のいるはずの機屋に走る。
機屋は傾いていたが、婆さまはその外で座り込んでいた。
良かった。
声もなくサキも婆さまのそばに座り込む。婆さまがサキをぎゅっと抱いた。
サキの父は戦で死んだ。
工事のための人手に連れて行かれたはずなのに、なぜか戦で死んだのだそうだ。
もっともサキの父が連れて行かれたのは随分前のことなので、死んだと聞かされた時にもサキは、父の顔を思い出すことが出来なかった。
サキの父だけでなくて、サキの里の男は相当な人数が連れて行かれて戻って来なかった。
人は死ぬ。
本当に、簡単に、死ぬ。
戦と雷と地震と。
度重なる災いは、容赦なくサキの里の里人を減らした。
働き盛りの者から死に、母親が死ねば残された幼子の生命もおぼつかない。働き手が減って暮らしにくくなった里からは去って行く者も多く、残っているのは年寄りばかりだ。そして年寄りばかりの里はこんな時、身動きが取れなくなる。
倒れてくる家をどかせる力もなく、揺れる大地を踏みしめて立つ足もない。
ただ揺れに翻弄され、一刻も早く収まることを祈るばかりだ。
地震の嫌なところは、決して一度では終わらないところだ。
沙伎が婆さまのところにたどり着いてすぐにまた揺れ、夜が来るまでに何度も揺れた。
大きく傾いでいた機屋は、何度めかの揺れで倒れた。
その夜、里人はまとまって屋外で休んだ。倒れてまではいなくても、地震のたびに揺れて埃を降らせながら軋みを上げる家の中でなど、休めるはずがない。もっともしょっちゅう揺れる屋外でも、寝られないことに違いはなかった。
あの時もそうだ。
前の地震の時。
地面は何度も何度も揺れて、その度に心臓が跳ね上がるような気持ちを味わった。
痛みに呻く声や、すすり泣く声が、呆然と座り込む人々の沈黙に染みてゆく。
心細さと、先への不安と、どこかすてばちな気持ちと。
それでも前の地震とは違って、懐には阿礼に貰った人形と簪がある。宝物をぎゅっと押さえていると、少しだけ気持ちが落ち着いた。
うつらうつらとした浅い眠りは、揺れや悪夢ですぐに覚まされてしまう。
朝日を見たときには途方もなくほっとした。
朝が来ても地面は揺れ続けるのだろうが、朝が来ないよりはずっとよかった