閑話:毒人参による音楽紹介 1
「遂に俺たちの冒険が始まったな。」
「まあ、街を出るのは寂しいけどね~。」
「さて、お気づきの人も多いかもしれないけれど、この小説にはサブタイトルなど、ちょっとした元ネタがあるの。今回はそういったネタを補足していくわ。」
「そしてこの小説でノイズ、アヴァンギャルドに興味を持ってくれた人、特に少年少女のディスクガイドになれると嬉しいぜ!」
「本編とは何の関係もないから、興味がなければ飛ばしてくれて構わないよ~。」
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▼Gain 1:The First Annual Report of 毒人参
・The First Annual Report of 毒人参
「これは『Throbbing Gristle』というイギリスのインダストリアルバンド(電子音楽の一種、電気式機械やシンセサイザーを使った硬質な音、メタルパーカッションなどが特徴的、ノイズミュージックから派生した。元はThrobbing Gristleの「工業生産される大衆音楽へのアンチテーゼ」を掲げた“INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE”というコピーから。)の1stアルバム『The First Annual Report of Throbbing Gristle』から拝借されているぜ。」
「バンド名は、「脈打つ軟骨」という意味で、男根の隠語だそうよ。それまでミュージック・コンクレート(具体音楽。従来の抽象的な楽音ではなく、人や動物の声、自然の音や都市の騒音など、具体的な音を録音し、電気的・機械的に変質させ、組み合わせて制作された。)などインテリ向けなコンテンツとして存在していたノイズが、ポップミュージックの文脈として語られるようになるわ。(wiki及びMikikiより) 」
「僕は個人的には『D.O.A./The Third And Final Report Of Throbbing Gristle』が一番好き。特にキャッチーな気がするな~。」
・スワンズ/Swans
「『Swans』はボーカルの『Michael Gira』が中心となって活動しているアメリカのポスト・パンクバンドだぜ。」
「アメリカはニューヨークで発生したNo Waveという様々なメディアアートからの影響を受けたパンクシーンに於いて台頭し、その後現在までコンスタントに作品を発表しているわ。」
「スタイルとしては呪術的な反復というのがキーワードかな。最高にクールだよ。」
・毒人参の最初のライブスタイル
「金属のパーカッションをしこたま叩くというライブのシーンで筆者が聴いていたのは『Einstürzende Neubauten』。「崩れ落ちる新しき建築物」という格好いい名前のドイツのインダストリアルバンドの代表格と言っていいバンドだ。」
「最大の特徴は鉄板や工具などを使って演奏するそのスタイル。ライブではドリルなどの工具でライブハウスを解体したりもするよ。ヤバイね。」
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▼Gain 2:Gain 2:Necro Acoustic
・Necro Acoustic
「『Kevin Drumm』による4枚組のBoxセット『Necro Acoustic』から拝借しているよ。」
「『Kevin Drumm』は電子音楽を中心にハーシュノイズ、ドローン(多くは単音で変化の無い長い音を指す音楽)など実験音楽を続けるシカゴのサウンド・アーティストだ。このアルバムでは耳に刺さるようなノイズ、信号を身体器官が受け取るような妙な感覚になれるノイズを中心にコンパイルされているぜ。体がどうにかなっちまいそうなイカれた作品さ。」
「私はこの作品が大好きで、こういう電子ノイズをシャワーのように浴びていたいわ。」
・ヒュースコア/Hughscore
「『Fred Chalenor』が中心となったRecomended系(Henry CowのChris Cutlerが発足したレーベルRecommended Records)トリオ、『Caveman Shoestore』と、伝説的なプログレッシヴ・ロックバンド、『Soft Machine』の『Hugh Hopper』が組んでできたのが『Hughscore』だ。」
「Rock in Opposition(反対派ロック。自分らの音楽を認めなかった音楽業界への反発として起こった)という音楽運動の文脈のお隣さんという感じだね。ノイズと言うよりはアヴァンギャルド、エクスペリメンタル・ポップの括りになるよ。」
「綿密に編まれた楽曲が私好みだわ。」
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▼Gain 3:荒野ニオケル毒人参
・荒野ニオケル毒人参
「日本のバンド『bloodthirsty butchers』の7th『荒野ニオケルbloodthirsty butchers』から拝借しているぜ。」
「ロックバンドとして非常に有名だから知っている人も多いかも知れないけれど、初期は特にノイズロックの側面も持っていたんだ。」
・毒人参のここでのライブスタイル
「いや、特に参考にしたものはないんだが。」
「筆者は『John Zone』の『Ipsissimus』を聴いていたようだよ。『Mike Patton』、『Joey Baron』、『Trevor Dunn』らMoonchild Trio参加による5番目の作品。」
「情報量が多いわね……。爆発的なインプロヴィゼーション(即興)、淀みなく力強いパッセージがヤバいわ。『John Zone』のサックス兼指揮、『Mike Patton』の引き絞るようなヴォーカルが特徴的よ。」
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▼Gain 4:A Sucked Orange
・A Sucked Orange
「イギリスの実験音楽家『Steven Stapleton』によるプロジェクト『Nurse With Wound』のアルバム『A Sucked Orange』から拝借されているぜ。」
「聴く悪夢と言っていいくらい不愉快だったり、シュールで不条理だったりするイメージが強い『Nurse With Wound』だけれど、このアルバムはジングルのような短いセグメントで構成されたコラージュ作品で聴きやすいわ。まあやっぱり悪夢的なのだけれどね……。」
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▼Gain 5:Mercurial Rites
・Mercurial Rites
「アメリカはケンタッキーのノイズバンド『Hair Police』のアルバム『Mercurial Rites』から拝借したよ。」
「80年代のノイズバンドのいいところを取って現代にソフィスティケートした……した?いや、Lo-Fi感と言い、完全にその時代の音を再現したような郷愁すら覚えるダークで重量感のあるノイズが特徴の2000年代のバンドよ。」
「モダンなエクスペリメンタルレーベルTypeからのリリースというのもあって、聴手の間口はそこはかとなく広いと思うぜ。」
・アヤカの卒業制作
「明確なイメージはないが、実際に体の音をサンプリングした作品は少なくないぜ。」
「例えば『Matmos』はアルバム『A Chance to Cut Is a Chance to Cure』の中で形成外科手術の音をサンプリングして楽曲を作っているよ。」
「サンプルしている素材イメージの重々しさに比して、非常に聴きやすいエレクトロニカ~サウンドアート作品になっているわ。私は別にパクってない。」
・アラン・ラム/Alan Lamb
「『Alan Lamb』はオーストラリアの芸術家、サウンド彫刻家として知られているわ。」
「1kmを超える長さのワイヤーを使った『Primal Image』という作品が有名だ。」
「その長さから発せられる重低音、風の強さなどによって変化する倍音列など。その振動は最大で120dBを超えるらしいよ。よくわからないね!」
「やがて振動はバランスを崩し減衰していく。こういった過程を彼は脳の機能や胎児の成長を思わせると言っているわ。」
・サインホ/Sainkho Namtchylak
「トゥバ共和国の歌手兼ボイスパフォーマーの『Sainkho Namtchylak』。」
「歌とともに起こる、ホーミー、叫び、うめき声、舌打ち、鳥のさえずりや、虫の羽音を思わせる高音と多彩なボイスパフォーマンスが聴くものを圧巻させるよ。」
「最初期はインプロヴィゼーションによる作品から、近年はエレクトリックサウンドと歌謡、ボイスパフォーマンスを織り交ぜたキャッチーなものまで、作風も多岐に渡るわ。」
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「以上、これらは俺達の冒険の助けにはならないが、これらを聴きながら読む「まほしそ」もオツなもんだと思うぜ。」
「では、またね~。」