後編
怒濤の後編!
死んでいたのは、この旅館の社長。そして第一発見者は女将だった。
「早く警察と救急車を!!」
「ダメだ……筋肉を見た限りもう手遅れだ」
嘉成は倒れた社長の体を一目見てソレを察した。
「女将さん、警察を早く……!」
「え、あ、は、はい……!!」
女将は社長室に備え付けられていた電話から警察へと電話をした。
「これから山の天気が大きく崩れますので到着は明日になるそうです……」
外を見ると風が吹き始め、木々がしなっていた。
「と、とりあえずお客様には内密に……!!」
慌てて社長室を飛び出す女将。残された二人は死んだ社長を眺めるしかなかった……。
「つまり……警察が来る前に俺達が解決すれば良いんだな?」
(何でそうなるのかしら……?)
自信満々の嘉成を見て寧々は不思議そうな顔をした。
「大丈夫だ寧々。犯人の目星は付いている」
「ええっ!? 本当!?」
「お前だ!! お前がやったんだろ!?」
嘉成は突然女将の首を絞め始めた!!
「ぐえぇ…………!!」
「ちょっと!? 何やってるのよ!!」
「大丈夫だ。首を絞めて自白させるだけだ」
―――ギリギリ……
嘉成の手が容赦無く女将の首を締め付ける!!
「ぐ……ぁぁ……」
「早く吐かないと後30秒で死んでしまうとお前の筋肉が言っているぞ!」
「ちょっと!! 止めなさいよ!!」
「わ……私が……殺し……ました……!」
その言葉を聞き手を離した嘉成。女将は咳き込み大きく息をしている。
「このアホ筋肉ダルマ!! 自白の強要は、自白として認められないのを知らないの!?」
「……え?」
「このボケナス! 普通は凶器や証拠を集めてやるもんでしょーが!!」
「大丈夫だ。それも奴の筋肉に聞けば分かる」
嘉成は部屋を詳しく見渡した。
部屋の入口付近に置かれたゴルフクラブ。おあつらえ向きの手頃な銅像。机の上にはタバコが置いてあり社長のデスクの横にはパソコンが置かれていた。そして部屋の両脇には本棚があり沢山の本が置かれていた。
「……灰皿が見当たらないな」
「本当ね」
社長室にはタバコの臭いが染みついており、それは社長が部屋でタバコを吸う事を示していた。
「おい、ゴルフクラブもドライバーだけが無いぞ?」
「それは変ねぇ……」
「凶器は灰皿かゴルフクラブだ……と言いたい所だが女将の筋肉はそう言っていない」
「……?」
嘉成は本棚をジロリと眺め、とある箇所に目を付けた。
「ココに何か引き摺った跡がある」
本棚の一角に、まるで鉄の本を押して入れたかの様な引き摺り跡が残されていた。
「よっと……」
その本を取り出してみると本にしてはやけに重く、ブックカバーを外すとそれは本の形をした鉛の塊であった!!
「何よそれ!?」
「凶器はこれだな」
嘉成は慎重に本を戻した。
「おい、お貧。ゴルフクラブを一つ取って人を殺す様に構えて見ろ」
「アンタを殺せば良いのね。オッケー♪」
寧々はゴルフクラブを一つ取り出し、思い切り上に振りかぶった!
―――ゴンッ!
しかし寧々の振り上げたゴルフクラブは天井にぶつかる。
「あ……」
「やっぱりな。犯人が見知らぬ外部犯なら真っ先にこのゴルフクラブが目に映るだろ? でもこれじゃあゴルフクラブは振り回せない。つまり、犯人は社長室に詳しい内部の人間だ」
「灰皿は?」
「材質によるが、人を呪わば穴二つ殺せる灰皿で鉄製となると大きすぎて持てない。かと言ってガラス製の灰皿は女性の力では人を殺せるほどではない。しかも死んだ社長の頭には傷痕は一つしか無い。つまり後ろから一撃で殺されているんだ」
「つまり鉄の本の角で殺した訳ね……?」
「多分な」
「動機は?」
「社長の筋肉を見る限り……痴情のもつれだろうな」
「筋肉でそこまで解る訳ないじゃない! アホなの?」
「じゃあ本人に聞こうか」
―――スス……
静かに女将が二人の前へと現れた。
「知られたからには殺すしか……無い!!」
その表情は妙に落ち着いていたが、手にした出刃包丁には有無を言わさぬ迫力があった……!!
「見て!折角の推理小説なのに作者の知能の低さが女将を狂わせたわ!!」
「くそっ! そんな気がしてたぜ!!」
「何を訳の解らぬ事を抜かしている!!」
―――ブンッ!
「キャーッ!! 殺すならコイツだけにしなさいよ!!」
「おいっ! 俺を押すな!!」
「若い女めぇぇ……!!」
「あ、やっぱり痴情のもつれだそうだ」
「今そんなこと当たって欲しく無かったわよ!!」
「死ねぃ!!」
「アンタ! ご自慢の筋肉で女将を何とかしなさいよ!!」
嘉成の後ろに隠れる寧々。嘉成は慌てふためいている!!
「俺は巨乳は殴らない主義だ!!」
「女将Gカップあるのかい!!」
「何をゴチャゴチャと―――!!」
戦慄の凶刃が、嘉成を襲う!!
「殴るのがダメなら絞め落としなさいよ!!」
「おお! そうだな!!」
嘉成は出刃包丁を持つ女将の手首を片手で押さえ、もう片手で女将の首を絞めた!
―――ギュゥゥゥ……!!
「やれ! そのまま殺しなさい!!」
「どっちが犯人だか分からねぇな……」
―――カクッ……
初めはジタバタする女将だったが、やがて口から泡を吐き白目を剥いた。
「これで一件落着だな……」
嘉成が振り返ると、そこには静かに震える寧々がいた。
「ん? どうした?」
「べ、別に恐かった訳じゃないわよ……?」
「メッチャ震えてないか?」
「分かってるなら早く抱きしめなさいよ……」
―――ギリギリギリギリ!
「痛い痛い痛い!!」
「あ、すまん……」
「私の筋肉を見て加減しなさいよ……!!」
「お、おう……」
―――キュッ……
「腰が退けてるわよ……貧乳には興味無かったんじゃないの?」
「……好きな女は別だ」
「……今言う事?」
「証人になって貰うか? 一人死んでて一人気絶してるけどな」
寧々は少し力を込めて嘉成を抱きしめ返した……。
「一つ……いい?」
「ん?」
「やっぱりこの小説『コメディー』にすれば良かったわね」
「……だな」
読んで頂きましてありがとうございました!
推理小説は向いてねぇぜ!!