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前編

 人里離れた山奥に小さな寂れた旅館があった。


 そこはパワースポットや温泉で密かに知る人ぞ知る穴場として名を馳せており、僻地にあるにも拘わらず客は絶えない。


  ―――バルルルル……


  ―――バタン!

  ―――バタァァン!!


「ちょっと! もう少し優しく閉めてよ!」


 旅館の下にある駐車場に停めた車から一組の男女が現れた。女は酷く苛立っており、男は半袖短パンにサンダルを履きならし大自然を眺めている。


「旅館はこの先か……」


 駐車場に置かれた看板には『この先500m』と薄れた文字で書かれていた。


「何で旅館の目の前じゃないの!?」


 女が今にも激昂しそうな怒りっぷりであるが、少し歩いたその先で二人はその答えを知る事となる。


「……げ!!」

「ほほぅ……」


 長い吊り橋が二人の目に留まり思わず下を覗きに行く。下は崖になっており、落ちたらまず助からないだろう。


「ふん、こんなもの」

「ま、待って……置いてかないで!」


 震える女を捨て置き、男は一足先に吊り橋を渡った。旅館は古く歴史を感じる造りであったが、中からは人の笑い声や話し声が程々に聞こえてくる。


「たのもー!」


 男が旅館へと入ると、着物を着た年配の女性がスタスタと現れお辞儀をした。


「いらっましゃいませ。御予約でしょうか?」

「あー……おーい!お前名前なんだっけー!?」


 未だ吊り橋を慎重に渡る女へ大声で呼びかける男。そして吊り橋からは小さく「田中だ!いい加減に覚えろ!!」と返事が……。


「田中です」

「あいすみません、本日田中様は御二組程おりまして……下のお名前をお聞かせ頂けませんでしょうか?」


「寧々です」

「田中寧々様ですね……確かに御予約頂いております。長旅誠にありがとうございます。それでは御部屋へご案内致します。御荷物は御座いますでしょうか?」


 男は未だ吊り橋の真ん中でしゃがみ込む寧々を見て指差した。


「アレだけです」

「では彼方様も後程御部屋へ御運びしておきますね。ささ、此方へ……」


 通された部屋は、外が一望出来る見晴らしの良い部屋だった。


「うは! 何処見ても木しかねぇのな!」

「山の中で御座います故。反対側の部屋からは多少麓の街並みが見えますが……」


 ―――ガラッ ポイッ コロコロ……


 荒々しく開け放たれた襖から、震えた寧々が放り込まれた。


「ちょっと扱いが雑じゃ無い!?」

「お前にはそれ位がお似合いさ!」


「何よそれ!?」

「お前みたいな貧乳の事だよ」


「はぁ!? こんなナイスバディを捕まえて何をのたうち回ってるのこのクソ野郎は!?」


 クネクネを体を揺さぶる寧々。事実、ボンキュッボンの推定Fカップのド迫力3Dのロケットおっぱいは、見る者を全て魅了する程の迫力があった。


「俺はGカップ以上じゃないと巨乳と認めない(キリッ!)」

「誰もアンタなんかに認めて欲しくないわよ!! それにアンタだって大した筋肉無いクセに偉そーにして!!」


「バカヤロウ! この美しいしなやかな筋肉が目に入らねぇのか!?」


 やたらポーズを決めて筋肉を見せつけ始めた男。


「外国の怪しいボディビルダー位筋肉無いと私は認めないわよ!!」

「あれは『見せる筋肉』だ!! 俺のは『使う筋肉』だから良いんだよ!!」


「……ではごゆっくりどうぞ。御食事は夜の六時からとなります。御部屋に御持ち致しますのでどうぞ御寛ぎ下さいませ」


 部屋で言い争いを始めた二人をそっと残し、従業員は静かに襖を閉めた。



「大体何でアンタなんかと穴場旅館に来なくちゃならないの!?」

「仕方ねーだろ!! 皆で応募したけど俺達だけ当たったんだから!!」


「アンタ由紀か悟に譲りなさいよ!!」

「ダメだろ『本人様のみ』って書いてあるんだからよ!」


「あーもー頭きた! 数少ない読者様にコイツの本名バラしてやる!!」

「止めろ!! 俺は『男』で通すつもりなんだぞ!?」


「みなさーん! コイツの本名【嘉成(かなり)助平(すけべい)って言いますよー!!】名前の通りスケベですー!」

「止めてくれー!!!!」


 男……いや、助平はガックリと膝を落としその場に項垂れた。


「……頼む、せめて名字で呼んでくれ」


 助平……いや、嘉成は机の上に置かれた煎餅をバリボリと貪り、それを見た寧々は自分の分の煎餅を素早くバッグへと入れ込んだ。


「む、この煎餅美味いぞ」

「あっそ」


 寧々は手荷物を部屋に置き、一つ伸びをした。


「さーて、スッキリした所で温泉に行こうかしら♪」

「ココ……混浴だぞ?」


「……マジ?」

「……大マジ」


 とりあえず温泉に向かった寧々。チラリと脱衣所を覗き誰も居ない事を確認した。


「アンタはそこで誰か来そうになったら足止めしときなさい」

「……報酬を聞こうか」


 嘉成は指でお金のポーズを取った。


「さっきの煎餅あげる」

「スイス銀行に振り込んでおいてくれ」


 温泉の入口の暖簾の前で警備の如く佇む嘉成。寧々はタオル一枚で景色を一望出来る温泉へと入っていった。



 ……


 …………


 ………………


「まだか?」


 壁掛け時計に目をやると、寧々が温泉へと入ってから20分が経とうとしていた。普段三分と掛からぬ鴉の行水並の嘉成にとって、女の長風呂は到底理解出来る物ではなかった。


 そこへ温泉に入ろうと此方へ歩いてくる一人の男。嘉成は手で入口を遮った。


「すみません、唯今貧乳女が中で死んでおります故……後少しだけお待ち下さいませ」

「へ! 女が入ってるのか!? そりゃあ好都合だ!!」


 嘉成の手を押し退け温泉に入ろうとする男。嘉成は思わず―――


  ―――ボカッ!!


「ぐ……むぅ…………」


 男は白目を剥きその場に気絶してしまった。


「……その辺に捨てておこう」


 嘉成は男を軽く持ち上げると適当な部屋の襖を開け、中へと放り込んだ。


「キャア!」

「な、なんだこの男は!?」


「ルームサービスです」


 嘉成はピシャリと襖を閉め、再び暖簾の前で腕組みをして待ち続けた。


 それから五人程気絶させた後、ようやく寧々が風呂から上がってきた。


「……遅いぞ」

「いやぁ気持ち良かったよ! アンタも入ってきたら?」


 浴衣姿の寧々はコーヒー牛乳を腰に手を当てながらグビグビと飲んでいる。


「プハァ……!!」


 お決まりのヒゲみたいな飲んだ跡をつけて寧々は大きく生きる喜びを噛み締めていた。



「キャーーーーー!!!!」


 その時、近くの部屋から布を引き裂くような戦慄の悲鳴が二人の耳へと聞こえてきた!!


「何だ!?」

「何かしら……?」


 思わず駆け出す二人は開けっぱなしの『社長室』と書かれた部屋を覗く。するとそこには頭から血を流しうつ伏せに倒れ込む男の姿があった―――!!

読んで頂きましてありがとうございました!


後編も宜しくお願い致します!!


マジで宜しくお願い致します!!


本当に宜しくお願い致します!!

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