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主従コンビがやってきた

「起きろ、起きろ、真央!」


耳に突き刺さるような大声と激しい振動で、沈みかけていた意識が再浮上する。

僅かに目を開けると視界いっぱいに美央が飛び込んできた。


昨日は消費魔力が多い魔物を階層主として召喚した。魔力酔いでぶっ倒れて、ベッドに運ばれた。

一眠りして、さっきようやく魔力が全回復した所だ。

けれどぬくい寝床が案外心地よく、起き上がらずにだらだらしていた。 

気持ち良かったのになんで起こすんだよ……


「うぅ……なんだよ美央、もうちょい寝かせてよ」

「寝てる場合じゃないよ、起きて起きてほら早く!」

いつにも増してハイテンションだ。何があったのだろうか?

正直言ってまだ掛け布団と戯れていたいのだが。


「新しい冒険者が来たんだよ!それもとびっきり、からかいがいのありそうな!」

「何だって!?」

その叫びを聞いて、一瞬で眠気も吹っ飛んだ。

そりゃ寝てる場合じゃない!しかも美央がわざわざ言いに来るってことは、相当に面白そうのが来たってことだ!

「起こしてくれてありがと、美央!」

こうしちゃいられない。私は掛け布団をはね飛ばし、ベッドから飛び降りた。

「おい真央!」

顔面を毛布で(したた)かに打ち付けた美央が怒声を上げた。


***

眠気覚ましの缶コーラを煽り、迷宮の核(ダンジョン・コア)を覗きこむ。

映し出されているのは、長身の青年と小柄な少年の二人組。装備もかなり良質な物だ。

この前ゴキブリに押し流されたへっぽこ3人組よりは確実に強いだろう。

まずは背の低い少年の方を覗いてみよう。


ストロベリーブロンドの猫っ毛に群青色の瞳。

顔立ちは少女と言っても通じそうな程可愛い。というかそこらへんの女子よりうんと可愛い。

深紅の宝石が嵌められた一振りの剣を腰に携えている。


名前:ミールィ・リライムル


年齢:15


種族:人間


性別:男


レベル:34


職業:冒険者


職種:魔法剣士


称号:リライムル子爵家三男


スキル:なし


状態:なし


「現在進行形で貴族…けど職業は冒険者?どゆこと?」

私がそう言って首を傾げても、美央は楽しそうに笑うだけ。


「次はノッポのほう見てみてよ。真央、コーラもう1本飲む?」

「飲む飲む。ついでにポテチも欲しい」


きっともう片方に何かがあるのだろう。



名前:ジュラメント


年齢:19


種族:人間


性別:男


レベル:39


職業:護衛騎士


職種:暗殺者


称号:なし


スキル:なし


状態:なし


焦茶色の短髪にくすんだ緑色の瞳。

平凡なパーツが普通の位置にあるだけなので地味なはずなのに、奇妙に整っている顔。

長い手足を持て余した様に歩いている。

腰に巻いたベルトにはナイフホルダーがくくりつけられており、微かな金属音を響かせていた。


職業欄にある、見慣れない『護衛騎士』の表記。

これを見て私は、美央が「面白そう」と言った理由を瞬時に理解した。


そもそも護衛騎士とは、貴族の子息・子女につけられる役職の人間のことだ。

役目は3つ。

1つ目は、爵位継承者候補の身を守るSPとして。これが一番重要だ。

2つ目は、右腕となり支えていく腹心として。

3つ目は、まだ世間を知らない護衛対象に下々の一般常識を教える先生として。

この3つを満たし、護衛対象と相性が良さそうな人間が選ばれる。

高位の貴族には、代々護衛騎士の座に就く一族があったりする。が、多くは腕の立つ冒険者を雇っている。

護衛騎士をつける時期は、大抵の場合10歳だ。

終身雇用ではなく、双方の同意があれば契約を解消して新たな護衛騎士を雇うこともできる。

恋愛関係に発展することもある。その場合、7割が親に契約を解消させられ、2割が正式に結婚し、1割が駆け落ちする。どうなるにせよ若干ごたつく。


「ね、遊びがいありそうでしょ?」

私が飲み終えたコーラの缶を指先で(もてあそ)びながら、美央は口の端を吊り上げる。


そこまで大きく年齢が離れていないから、多分、腹心としての役割を重視して選ばれたのだろう。

そうだとしたら、付けられて4年もたっているのだから、ある程度強い信頼関係を築いているはずだ。

絆をダシにして互いを枷にした罠を仕掛けるも良し、仲間割れを促してド修羅場を作り出すも良し。

悪戯(イヤガラセ)の幅が広がるな。


「様子見で弱い魔物をぶつけようか」

「戦闘スタイル確認だね」


迷宮の核(ダンジョン・コア)を操作し、待機中の魔物に指示を出した。

1階層のスライム2体とゴブリン1体に指示を出して、2人がいる方へ移動させる。

あと30メートルの距離まで近づいた時だ。

「魔物3、低級です」

ここまで無言だったジュラメントが、腰からナイフを2本抜きながら淡々と告げた。

完璧に見えない位置にいたはずなのに、バレている。

いかにもなファンタジー世界らしく、索敵系の能力を持っているのだろう。

暗殺者は盗賊の派生職種(ジョブ)なのかな?武器もナイフっぽいし。


「3体ともボクが相手する、お前は手を出すなよ!」

ミールィが剣を鞘から抜き、正面に構える。

さて、どんな風に戦うのかな?


ミールィが剣に嵌め込まれた宝石を、すっと撫でた。

すると、宝石の色が変わった。ルビーのような深紅から、ペリドットのような明るい黄緑色に。

そのまま静かに上段に振り上げ、先頭のゴブリンを目視した瞬間、勢いよく振り下ろした。

剣の軌跡をなぞるように風の刃が生まれ、ゴブリンへ一直線に飛んでいく。

反応する暇もなく魔法を受けた哀れなゴブリンは、袈裟斬りに腹を割られて吹っ飛んだ。

裂かれた腹からは傷だらけになった内臓《R18を超越するため自主規制》


「美央、今日の昼飯って何?」

「スパゲッティだよ」

「ボロネーゼとかじゃないよね?」

「カルボナーラに変えるよ」

生の血と内臓(あれ)を見た後では、少々きつい。


同じ要領でスライム2体も呆気なく切り飛ばした。

ジュラメントはゴブリンの死骸に手を突っ込んで、何かを探すようにぐじゃぐじゃと掻き回し始める。

20秒くらい経過し、手を抜く。錆びたような赤色の石ころを摘まんでいた。多分あれが魔石だろう。


「うえ…結構強くない?」

「わかる。全体的に魔物のレベル上げた方がいいかな?」

「けどさ美央、そうしたらこの前の冒険者たちみたいな駆け出しにはキツくなるよ」

「バランス難しいな。どんな罠を仕掛ければいいのか分かんないや」

「弱点も何にも分かんないもんね」


魔石を回収し終わった2人は再び歩き始めた。

しかし先程よりも緊張感は薄れている。

「ダンジョンマスターが変わったという話は本当のようですね」

「けど、雑魚ダンジョンなんじゃない?ビートバグが出てきたのはこのダンジョンって話だし」

「1階層だから魔物も弱いのでしょう。慢心すると駆け出しの頃のようにスライムを頭から被る羽目になりますよ?」

「るっさいな!今はもうそんなヘマしないんだから!」

2人は微妙に顔を青くした。


ああ、それが弱点(トラウマ)か。

だったら、存分にそこを攻めてあげよう。




























 

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