不愉快な仲間筆頭、召喚
「さて、今日は」
「今日は?」
「10階層と20階層に配置する階層主を召喚したいと思いまーす!」
「ひゅぅぅー!ぱちぱちぱち」
美央がこれでもかとと手を打ち鳴らした。
24階層まで拡張した頃、私たちは唐突に気付いてしまったのだ。
階層主いねえ、と。
いや、本当にどうして今の今まで忘れていたんだろう?
ダンジョンと言えばそういうのが付き物なのに。
少々揉めたが、召喚する階層主はもう決めてある。
比較的ノーマルな1から10階層にはスライムキング、属性階層になっている11から20階層には猫の女王だ。
両方ともシリーズのトップであるキング種、クイーン種。
2種類とも、同じシリーズの魔物を子分として呼び出すことができる。
ちなみに、猫の女王は「キャットシリーズ」のクイーン種だ。猫の王よりも力は弱いが、子分の召喚能力は高い。
魔物一覧を開く。
まずは美央が魔法生物種のカテゴリーからスライムキングを選択。
続いて私が魔獣種に切り替え、猫の女王を選択。
召喚場所は私たちの目の前に設定した。
《召喚しますか?》にyesを押すと、間髪置かずに2つの魔方陣が現れた。
右側の蒼い魔方陣からは、ラピスラズリを溶かしたような色の粘液が、ぼこぼこと溢れだす。
左側の薄桃の魔方陣の中央には穴が開き、ビビットピンクの猫耳がひょこりと覗く。
美央の瞳が魔方陣から発せられる光を反射して光っていた。私の視線に気付いたのか、こっちを向いてちょっと笑った。
「魔物召喚、生で見るのは初めてだね」
「いつも画面越しだもんね」
「ゲームでも曖昧に暈されるよね、こういうシーンは」
「それにしてもさ」
「ん?」
「魔力の消費半端なくない?」
美央が僅かに顔を顰めて見せる。
確かに、予想より魔力の消費が激しい。
「あー……一応まだ余裕あるから大丈夫でしょ」
多分。多分だ。まだ空っぽになる程じゃないから。
青い粘液は盛り上がって人型になり、穴からは何かが宙返りしながら飛び出す。
そして魔方陣は跡形もなく消え失せた。
「貴方たちが新しいマスターカイ?」
「にゃは、これからよろしくにゃ!」
語尾にアクセントをつけて喋る方がスライムキングだ。
透き通ったゼリー状の青い体。眼球代わりに黄緑色の宝石をはめ込んでいる。
にゃんにゃん言ってる方が猫の女王。スライムキングと同じく三頭身で、ぬいぐるみとか遊園地の着ぐるみを彷彿させる。ピンクの二股尻尾がゆらゆらと揺れていた。
よろしく、と声を発する前に。
不意に、視界がぐにゃりと歪んだ。
折れそうになる膝を気力で必死に支える。
「真央っ⁉︎」
美央が驚いたような声がぼんやりと遠く聞こえる。
なにが、起きた?
「あー、多分魔力酔いだネ」
「一気に使い過ぎたんだにゃ」
あ、やばい。歪むを通り越してぐるぐる回ってきた。
なんで美央は大丈夫なんだよ……
「なんか私は平気なんだけど」
「私の方が召喚に使う魔力は多いからにゃ」
そういえば美央が召喚したのはスライムキングだったっけ。
「しばらく使ってるうちに沢山減っても酔わなくなるヨ」
そういうのは早く知りたかったよ…。
邪神たちも教えてくれなかったし。
「うー、ぎぼぢわる……」
「しばらく休めば治るにゃ」
膝のぐらつきを押さえるのにも限界が訪れ、うつ伏せに倒れこむ。
しかし鼻の骨が折れるなんてことはなく、ひんやりして柔らかい何かに受け止められた。
「ベットに放り込んでおいて」
「了解、マスター」
意識を手放す寸前、そんな会話が聞こえたような気がした。
ゴキブリ10万<ケットシー1匹。一応クイーンですから。