邪神界の危機
『ちょっと、負のエネルギーの蓄えがほとんどもうないんだけど!』
『『『まじかよ!』』』
幼い少女の悲鳴に三人の男の驚愕の声が重なる。
声を聞いて残る三人も幼女に注目した。
『なんでなんで?どうしてこんなことになったのよっ!』
『そりゃ決まってるでしょお、憤怒ちゃん』
キイキイと喚く「憤怒」と呼ばれた幼女に答えを返したのはねっとりとした声の女だ。
『クソ神どもがポンポン勇者つくりだすせいで魔王も魔獣も殺られまくってるからよぉ』
『いいや、それだけじゃないね。俺らの信仰心も減ってるからってのもあるよ』
軽い調子の若い男もそれに続く。
『あのクソ神信仰が広まって俺らを崇拝する教徒は狩られてるからなぁ』
『……僕らだっていちおう神様なのにね』
『『邪神だけども』』
寝転がって気だるげに声を上げた青年に、モグモグと食べ物を頬張っていた女、ツンと澄ましていた少年が合いの手を入れた。
そう、ここにいる七人の男女は大きな罪を犯して神界を追放された邪神たちである。
「強欲」「色欲」「悪食」「怠惰」「嫉妬」「傲慢」「憤怒」と呼ばれる彼らは、自分たちで造り出した小さな空間に逃げ込んだ。
人間の感情から生まれる負のエネルギーを集めて命を保つ。
そうしないと自分たちの存在を保てずに消えてしまうのだ。
そして余った負のエネルギーで魔王を誕生させたりして世界を混乱に陥れ、さらに負のエネルギーを集めるというサイクルを繰り返していた。
『……なんであんたは追放されたっけ、リーダー?』
『色欲と組んで威張り散らしてた上司を殺したからだよ』
『あいつホントムカついたよね。権力に物を言わせてかわいい女の子いっぱい侍らせてたしさ』
『『『『『『お前が言うな、色欲』』』』』』
ハモったツッコミにツボりげらげらと笑い転げる様はとにかく下品だ。話の内容もゲスく、えぐい。
『それはそうとして、ほんとうにどうするです?後がなさそうな感じがするです』
ひとしきり笑い、涙をぬぐったところで「悪食」と呼ばれる女邪神が言った。
そして邪神たちは残り少ない負のエネルギーの使い道についてようやく話し合い始めた。
『……新しく魔王を創り出すのはどう?』
『それだとすぐに倒されちゃわないかしらぁ』
『人間を魔王に堕としても同族に刃向うのを躊躇して狩られちゃあ意味がないし』
邪神たちは200年ぶりくらいに真剣に討論した。
大量の案が出され、いいところを組み合わせ、削り、たまに対立して取っ組み合いのけんかが起こって中断したりしたが、4時間後、結論が出た。
『異世界召喚して、そいつを魔王に仕立てよう』