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1-5 チートはないけれど

 悪友その1のライトノベル知識によれば、異世界転移や異世界転生にはステータスという各人の能力値を示すものがあり、主人公はまさにチートと言うべき魔力量やスキルを保持しているものらしい。そして残念ながらこのアメイジア世界ではステータスと唱えれば能力値が確認出来る事もないし、スキルを得るだけで達人級の剣術や槍術を使えるようになるわけではない。


 とはいえ、ステータスやスキルの概念に近いものはこの世界で利用されている。その名を『ランク』という。ただし、ステータスプレートだとか、水晶だとか、鑑定スキルといったもので簡単に計れるものではなく、各ランクの定義のもと、所謂資格試験を行ってそれに合格すればランク取得となるというものだ。


 ランク試験は技能協会と呼ばれる協会管理のもと世界共通であり、冒険者、兵士、騎士といった戦闘に関連する職業はもちろん、商人、料理人、聖職者といった多くの職種においても雇用、昇給、昇格の条件にされている。


 主なランク試験種別としては、身体強化、火・水・風・土・治療等の魔法、剣術・槍術・弓術等の武芸、算術・調理・礼儀作法といった教養といったものがある。


 今のオレたちには必要ないが、今後この世界で暮らす上ではどの道に進むにせよ必要な資格を取得していく必要がある。そして戦闘系のランクはそのまま敵対する魔物や魔獣の戦闘力を示すランクと比較できることから、現在のオレのランクを想定しておく必要もあった。もっとも、敵対生物との相性等もあるので鵜呑みには出来ないが。


 身体強化ランク5

 火・水魔法ランク2

 風・土魔法ランク1

 治療魔法ランク3 

 剣術ランク3

 槍術ランク1

 算術ランク10

 調理ランク1

 礼儀作法ランク3


 「主なランクで言えばこんなものかな」


 道なき道を東南方向に進みながら各種技能を確認する。チートには程遠いランクではあるが、オレとしては十分な初期アドバンテージであると思う。


 身体強化ランク5といえば、Bランク冒険者並だし、騎士採用基準をも満たしている。これだけでノーマルゴブリン数匹を無手で瞬殺出来る。それに、手や足などの部分強化という技を使えばさらに攻防力は上昇する。


 また、魔法についても初心者ランクと言われるランク1、ランク2と自身を定義したが、技能試験の評価ポイントである発動時間や速度といった技術項目については中級者と言われるランク3、4を超え、上級者レベルに達していると思われるし、射程については中級程度にはなっている。ただ、純粋な魔力量の関係から威力が低いのだ。魂の世界では技術は鍛えられても魔力量は増やせない。現在のオレは一般人並の魔力量でしかなく、身体強化にしても属性魔法にしても地球で培った知識と想像力、そして修練による熟達で嵩上げしている状態である。つまり、魔力の増量が急務である。


 その魔力増量に関しては悪友その1によって齎されたライトノベル知識をそのまま当てはめる訳にはいかない。幼少の主人公が日に何度も魔力を使い切って超回復によってチート級魔力を得るというもののことである。そもそも転生でないから幼少期がないし。仮に、それがこの歳で有効であったとしても、魔力切れで気絶でもしたらそのまま2度と目覚められない可能性が高い。敵地ど真ん中なのだから。それに、この世界では、魔力を消費した分だけ回復速度が上がるだけで魔力の絶対量が増える訳ではない。ではどうすれば自身の魔力の源である魔石に貯える魔力量を増やせるか。


 殺して奪え。である。


 この世界において、魔石を体内に保持するのは、人、魔物、魔獣の3種である。魔物は魔素だまりからの自然発生、魔獣は野生動物が魔素の影響を受けて変異したものである。その2種と人を合わせた3種が魔素を体内に取り込み、魔石がそれを魔力へと変じ、その魔力を使って様々な事象を引き起こせる。そして、その3種は自種族以外の2種が死んだときに解放される魔力を取り込むことで自身の魔石を活性化させるらしい。つまり、人、魔物、魔獣はそれぞれの相手が自身を強化する餌ともいえる。もっとも、魔物や魔獣は狂暴であるがゆえ、同種でありながら殺し合うことが多いらしいが。


 つまり、オレのやるべきことは魔物もしくは魔獣の殺害である。


 そのことで躊躇することはない。すでに覚悟は出来ている。それが出来なければ死あるのみであるからして。


 それどころか、いかに効率よく解放魔力を自身の糧にするかを考えている。所謂チートの鉄板であるという『経験値増量』のようなことが出来ないかどうかだ。


 最初のヒントとしてこの世界ではいくつもの英雄譚がある。その中の1つが街を襲った地龍を返り討ちにした冒険者と騎士を称えたものである。実際は、地龍の赤子を馬鹿な冒険者が攫って街に逃げ、それを取り返そうとした母龍が討ち取られたというものであるが、重要なのは、地龍が討ち取られた際に大量の解放魔力が街にも及び、街人の多くがその恩恵を受けたというものである。


 通常、ゲームや小説においては、戦闘に参加したものだけが経験値を受け取ることが出来る。だが、この世界にはそんなシステムは存在せず、近くに居るだけで自身の魔力量を増やせることになる。はっきりいえば、養殖が可能ということだ。それはそれで、持たざる者となってしまった学園関係者500人余りにとっては朗報であるが、オレがこれからやろうとする魔物殺戮においてはマイナス要素である。オレが1人で命がけで倒しても、その経験値というか、解放魔力を全て受け取ることが出来ないことになる。殺した瞬間に相手の魔力は四方八方に拡散してしまい、時と共に魔素へと還元されてしまう。

 

 第2のヒントとなったこの世界の人たちによる実験によれば、拳や剣といった近接戦闘で魔物や魔獣を殺した場合、殺した対象が体内に持つ魔石の最大保有魔力の2パーセント程度しか自身の魔石の強化による魔力量増大に貢献しないらしい。そして、距離が離れる程獲得魔力は減るという。ちなみに、殺した瞬間に血まみれになるのも構わず相手に被さって魔力が拡散するのを防ごうとした者も2パーセント獲得。同じく、殺害直後に魔石をくり抜いて懐に入れた者も2パーセント獲得したらしい。あまり気分はよくないが、奴隷に魔石を食べさせた者もいるらしいが、そちらも2パーセントに留まったらしい。


 そして最大のヒントとなったのは、治療魔法の特性である。正確にいえば魔力特性だが、それが明らかになったのが治療魔法であった。通常、治療魔法はほぼ誰でも使える。治療に対する知識と魔力さえあれば紙で指を切ってしまった程度なら自分ですぐに治せる。ただし、他人を癒すことは難しい。その理由は、魔力同士は反発するという原則があるからだ。同じ人間同士であっても、保有魔力の98パーセントが反発しあうらしい。この魔力反発の原則と言われる魔力性質があるからこそ、純粋魔力での攻撃は相手に自動防御されてしまい効率が悪いことから戦闘では火や水、土といった物質を魔力によって生成して攻撃するか、風の刃のように魔力によって事象を起こして敵を攻撃する。しかし、治療魔法とは、傷口もしくは体内に魔力を流してから事象を起こす性質上、魔力反発の原則によって他人の魔力を受け付けにくく、著しくその効果が低下する。


 では、他人の傷や病を治すことが出来ないのか。それを可能としたのが初代聖女と称される治療魔法使いである。別名『七色の魔力を持つ者』とも言われる彼女は豊富な医学知識と変幻自在な魔力操作によっていくつかの条件はあるものの、自身に使う治療魔法と同程度の治療効果を他人へと齎すことに成功したのだ。簡単にいえば、魔力反発の原則を覆すことに成功した。ちなみに、治療魔法ランク5以上であり、この魔力操作技術を持つ者は聖女または聖者として認定される。もちろん、冒険者、兵士、騎士、治療院といった関連職種では高給好待遇で招かれる。


 これらの情報から導き出した、目指せチート級スキル『経験値増量』作戦の内容は当然ながら治療魔法の応用である。いくつかのパターンを用意しているので、その中で最大効率のものを今日の襲撃で見つけ出すつもりである。目標は1割奪取。つまり経験値5倍である。望みすぎである自覚はある。


 「っと、オーク2匹発見」


 山中で木が乱立していることもあってまだ目視出来ないが、微量の魔力を周囲に放って索敵していたお蔭で150メートル先にオークの魔力を発見できた。スキル風に言うなら索敵スキルであり、効果範囲は最大半径200メートルである。もっとも、万能とは言い難く、定期的に魔力を発しなければならないために魔力量の少ない今のオレにとっては負担が大きいし、オレ自身が結構な速度で前進しているために進行方向の索敵範囲は25パーセント減である。しかも、魔力反発の原則によって、魔力を照射された対象が鋭敏であれば簡単に気付かれてしまう。


 それでも今回に限っては問題ない。現実世界での初戦闘ということで、最初から正面からぶち当たるつもりでいるからだ。


 「とはいえ、最初は遠距離攻撃だけどね」


 視界に捉えたオーク2匹はどうやら鋭敏ではなかったらしい。オレの索敵用に放った魔力が微量だったせいで気付けなかったようだ。オレの行く手を横切るように縦に並んで歩く2匹のオーク目掛けて風魔法を用意する。二筋の風の刃だ。出来る限り足音を消し、乱立する木々が射線の邪魔にならない位置まで忍び寄る。そして少しでも威力を上げるべく言霊を利用する。


 「ウィンドカッター」


 魔法の基本は、引き起こす事象に対する知識とそのイメージ力、そして魔力錬成度と魔力量。詠唱なり魔法名を口に出すことはイメージ力の補助となるのだ。少しばかり恥ずかしいが、ここにはオレしかいないのだから構うまい。


 「「 フゴっ!? 」」

 

 ウィンドカッターの魔法は、いまだ初期値でしかない魔力量であること、そして火や水に比べて風に関しては知識、イメージともに乏しいことから大した威力はない。だが、当たり所によってはそれなりのダメージを与えられる。ゲームのようにヒットポイントが1でも機敏に動き回れることなどないのだから。


 体長2メートルを超える巨体のオークだが、1匹は狙い通りに足の腱を切り裂くことが出来たようで転倒している。もう1匹は残念ながら腱を切り裂くまではいかなかったようで、脹脛に出血が見られるものの、手持ちのこん棒を構えつつオレを迎撃する素振りを見せている。


 「流石に動いている対象2匹にピンポイントで当てることは出来ないか」


 少し残念に思いながらもオレは忍び足をやめて猛然と駆け出す。狙いはもちろん立っている方のオークだ。まずはコイツを行動不能に追い込む。殺すのは倒れているオークも行動不能にしてからだ。そうでないと経験値増量作戦が試せない。


 「っしゃ、勝負だ!」


 柄にもなく大声を上げて気合を込めたオレは、セーフモードであった精神世界とは違い本物の殺し合いに飛び込んだ。


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