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5-4 撃退と追撃

 「ウォォオーン」


 雄叫びを上げつつフォレストウルフが引っ切り無しに1メートルに満たない壁を飛び越えて襲ってくる。


 この半径10メートルの藤堂丸にフォレストウルフを誘引することには成功した。それはそれは大人気である。


 最初に襲ってきた6匹のフォレストウルフには、壁を飛び越えた瞬間を狙って石礫をお見舞いした。魔力の節約を優先して殺傷力低めの初歩的土魔法である。狙いは着地を乱すことだ。散弾の如く発射された石礫は6匹の顔を中心に着弾した。結果、2匹が着地と共に悲鳴を上げ、2匹は脚を引きずることになった。


 テキサスゲートが有効に機能した証拠だ。捻挫か骨折かはわからないが、勢いよく飛び込んで来て足が溝に嵌れば大怪我して当然である。


 オレはまずは無傷の2匹に刀で襲い掛かる。今日の得物は大叔父が打ったという刀である。近接戦には槍よりも刀の方が取り回しが良いのだ。大叔父作の刀は身体強化の延長で魔力を通していることもあり折れることなくフォレストウルフを切り裂いた。向こうも身体強化で魔力を纏っているのだろうが、魔力制御はこちらの方が上だったようだ。


 こうして最初の6匹を始末した後は、オレ自身がスリット嵌らないように注意しつつ襲い来るフォレストウルフを魔法で着地を乱しながら斬りまくった。もっとも、藤堂丸に集まってきた全てのフォレストウルフをオレが斬っているわけではない。出来るだけ中心部に居て坂道を塞ぐようにはしているのだが、テキサスゲートに嵌らずに坂の途中に飛び乗る個体もいる。そいつらは坂道の上で門番よろしく立ちはだかっている新体操部が相手をしている。フォレストウルフにとってはスリット付きの登り坂という悪条件もあって問題なく捌いてくれている。


 ただ、全てが思惑通りに進んだわけではなかった。


 「美里委員長!大友さん! 1分時間を稼いでくれっ」


 魔力、体力、集中力に問題はないが、足場が問題であった。すでに大量のフォレストウルフの死体でテキサスゲートが機能低下を起こしていたのだ。


 「わかったわ!」


 「承りましたわ」


 テキサスゲートが機能不全を起こして四方八方からフォレストウルフに襲われてはたまらない。一旦藤堂丸内を掃除しなければならないのだ。


 美里委員長と大友さんは藤堂丸に大量のフォレストウルフが集まったことで余裕が出来た場所から魔法が得意な娘たちを集めて一時的に藤堂丸の周囲に魔法の弾幕を張ってくれた。その間にオレは全力で死体を外に蹴飛ばす。死体を蹴飛ばすという行為に対する心理的拒否感だとか、蹴った瞬間の肉の感触など気にしていられない。


 「ありがとう、助かった!」


 その後、2度程背後から襲われて危ない場面があったが、死体撤去3回目を行おうかというところで大きな遠吠えがあり、フォレストウルフの攻勢が止まった。どうやら藤堂丸攻略を諦めたようであった。


 「あれが最大規模の群れのボスか」


 いくら死体の山を築こうとも攻勢を崩さなかったフォレストウルフたちを遠吠え1つで制御する一際大きい個体だ。体高1メートルに満たないフォレストウルフたちだが、あの個体だけは2回り程大きい。だが、もっとも目を引くのは紅い目というよりは炎の目と言いたくなるような鮮烈な輝きを放つ瞳だ。


 野生動物が魔獣化したことの証の1つである目の色は輝いているほど魔素浸食度が高いと言われている。つまり保有魔力が多いということだ。身体強化にしろ魔法にしろ強力な発現が可能だと思われる。


 ボスと思われる個体がジッとオレを見つめている。おそらく同族を多数殺したオレを目に焼き付けているのだろう。オレも負けじと見つめ返す。近いうちにお前も狩ってやると。


 どれだけ見つめ合っていたのかわからない。だが、終わりはあっけなかった。ボスは2度目の遠吠えを行ってから悠然と身を翻してオレの視界から去っていった。ボスの周囲に侍っていたフォレストウルフが小さく吠えていたのでボスと会話でもしたのだろう。狼は遠吠えで仲間と意思疎通できるらしいから。


 「ふぅ……さすがに疲れたな」


 正直言って、あのボスに配下と共に突撃されたら無事では済まなかった気がしていた。うちの娘たちや大友さんのグループが残り少ない魔力を振り絞って総出で援護してくれないと勝てないと思う程の圧力を感じた。


 「あぁ、あの遠吠えは魔力威圧だったのか」


 今になって気付くようでは勝てるはずがない。自然と命拾いしたことへの安堵と至らなさへの苦い思いが湧いてくる。結局は苦笑いを浮かべつつ美里委員長と大友さんの下へと戻ることにした。


 「あっ」


 坂道を登ろうとした時に視界に入ったのはボスによる威圧の遠吠えの影響を受けている娘たちだった。



 



 「お疲れ様。まだ油断は出来ないからしばらくはこの場で待機ね」

 

 立ったまま震えている娘は座らせ、比較的平気な娘には持ち場で警戒に当たってもらっている。


 「慎司くんもお疲れ様。無事でよかったわ」

 

 「さすがでしたわ。お強いだろうとは思っておりましたがここまでとは思いませんでしたわ」

 

 美里委員長と大友さんはボスの遠吠えにもなんとか耐えられたようだ。


 「とりあえず最後の遠吠えは撤退の指示みたいだね」


 「そうね。後ろを警戒しながらゆっくりと南へ向かっているみたいだから油断しないほうがよさそうね」


 「あれだけの統率力があれば釣り野伏せの可能性もありますわね」


 お嬢様の口から釣り野伏なんて言葉を聞くとは思わなかった。苗字的に島津くんが言うならピッタリなんだが。


 「早く帰って寝たいところだけど、しばらくはここで様子見しよう」


 大友グループと藤堂グループの決定はすぐに所属員に伝えられ、少し離れていた同じく右翼を担当していたグループや本部にも伝えられた。どのグループも付き合ってくれるようだ。


 「こちら本部の大河内だ。グループ長は応答してくれ」


 今だ視界内に捉えることが出来るフォレストウルフを警戒しつつ休息を取っているとオレと大友さんのトランシーバーから本部防衛担当で全体の指揮を取る事になっていた大河内先生から通信が入った。大河内先生はグループ長による同時通信をお望みのようだ。


 藤堂丸での迎撃戦についてはすでに大友グループの娘が本部に走ってくれているのでこちらの状況は掴んでいると思われる。なぜトランシーバーで報告しないのかというと、オレは激戦でお疲れだったこともあるが、大友さんは通信ではなく中央付近の状況を直に見てきて欲しかったようだ。敵の様子はもちろんだが、味方の損耗率や士気の高さ等を確認するためだ。残念ながら本部に行ってくれた娘はまだ戻って来ていないので結果は聞けていない。


 「本部では先ほど右翼で大量のフォレストウルフを討ち取ったという報告を受けた。ボス個体が退却を指示したのだろうという遠吠えも聞こえた。中央と右翼では敵は撤退中だ。左翼はどうだ?」


 「左翼の島津です。左翼でも撃退に成功しました。すでにフォレストウルフは辛うじて視界に入るくらいの位置まで退いています」


 なんとなく敵愾心を感じ取ってしまうのはオレの心が狭いからだろうか。


 「そうか。皆疲れているだろうが、フォレストウルフの姿が完全に消えるまで警戒を維持してもらいたい。その後問題なければ非常事態宣言は解除されるだろう。見張りを多めに出してもらうことにはなるだろうが」


 「待ってください!」


 「提案がありますっ」


 大河内先生が防衛担当者として襲撃の終息とその後の警戒態勢について話しているのを遮ったのは左翼の守備についていたグループリーダーたちだった。


 「俺たち左翼のグループは追撃を進言します」


 左翼を代表して島津くんの声が聞こえてきた。オレと美里委員長と大友さん、うちの3隊長、佐伯副社長と臼杵専務などのグループ内幹部たちは顔を見合わせる。


 (なに言っちゃってんの男の娘君)


 (わたくしたちより夜目の利く相手に夜間戦闘を挑むのは感心できませんわ)


 (相手が潰走してるならともかく、整然と退却してるのに)


 (左翼は余力があるってことなのかな? こっちは魔力きついよ?)


 (んんっ。ただの考え無しのおバカ)


 目と口で無声会話をこなす右翼側。当然オレも反対だ。ただでさえ疲労度が高いし、何よりも見逃してもらったような状況で追撃など考えるまでもない。


 「俺は反対だな。うちの連中は向こうの最大規模の群れを相手にして余力がない」


 竜造寺くんが真っ先に反対を表明した。中央はあのボス個体が率いる群れを相手にしていたのだろう。きっぱりと余力がないと宣言したのも頷ける。


 「右翼も余力がありませんし、わざわざ不利な状況に飛び込むことには反対です」


 「わたくしも藤堂先輩と同意見ですわ」


 オレと大友さんも反対を表明した。


 「っぐ。追撃戦が最も戦果を上げられるはずです。この機を逃せば全員が必要十分な魔石の活性化を遂げられないかもしれないんですよ!?」


 島津くんが言っているのは、フォレストウルフが再度襲撃して来ないことを気にしてのことだろう。前回の全体幹部会でも話が出たが、こちらにも被害が出るとはいえ襲撃を受けること自体は悪くないどころか望むところなのだ。その襲撃を受けた今は学園施設に籠もっているような戦う意志と力を持たない人たちにも解放魔力のお裾分けが出来ている。だから追撃戦でさらなる解放魔力を、と考えているのかもしれない。学園から距離が離れるので微々たるものだろうが。


 「そうです。最も被害を受けやすいのは撤退時だと大河内先生も魔物討伐の際の注意点として話してくれたじゃないですか!」


 「フォレストウルフも遠距離攻撃で傷を負ってる奴が大勢います! 今が好機なんですよ!」


 島津派ともいえる面子が執拗に追撃を主張している。理が全くないわけではないとは思う。だが、リスクとリターンでいえばリスクの方が圧倒的に高い。天秤で量るまでもない。


 「大河内先生。議論している時間がもったいないです。追撃の指示を出してください」


 島津くんは黙ったままの防衛担当に決断を迫っている。


 「島津。俺は防衛に関する権限を本部から預かっているだけで攻撃に関する権限を持たない」


 大河内先生も成功率が低いと思ったのか、それとも権限を持っているはずの防衛についてですら指示に従わなかった独立グループが権限外の指示を引き出そうとすることに不快感を持っているからか、理由はわからないが追撃指示を出すことを拒否した。


 オレはもちろんのこと、大友さんも追撃指示が出されても従うつもりはないようだったが。


 「っく、そうですかっ。ですが、俺たちが出撃することにまで反対しませんよね?!」


 島津派はどうしても追撃戦を行う心算らしい。オレにはそれを止める権限はないし、そのつもりもない。オレたちは独立グループなのだから。


 「フォレストウルフが視界から消え去った時点で非常事態宣言は解除される。その後は規定の見張りさえ出してくれれば各グループの自由だ」


 大河内先生もそう言うしかない。強引な論法を取れば、例えばフォレストウルフの後退が偽装の可能性があるとか、防衛担当として非常事態宣言を解除しないことを本部長に進言したりできるだろうが、そこまではしないようだ。


 「ではそうさせてもらいます。一応他のグループにもお伝えしておきます。俺たち左翼は追撃戦に移ります。参加を希望するグループは俺たち左翼に続いてください。みなさんが全体の利益を考えることのできる人たちであると願っています。では準備があるので失礼します」


 島津派の面々は追撃準備のために通信を切り、トランシーバーからは中央の防衛を担当しているグループが議論する声が流れている。オレたちは黙って休息に入った。





 数分後、最も視界の利く南門の櫓からもフォレストウルフが消えたことで非常事態宣言が解除され、左翼の島津グループと島津派4グループ、中央から1グループの計6グループ120人余りが追撃に出発した。


 そして明朝。集計の結果、追撃によって37頭のフォレストウルフを討ち取り、37人を失ったことが明らかになった。




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