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4-4 協定の是非

 大友凛子さんとの交渉を終えて藤堂館に帰ってきた時には21時を回っていた。日の出と共に起きる今の生活ではそろそろ寝る時間である。オレとしても精神的に疲れたのでさっさとシャワーを浴びて寝たかったのだが、帰宅するなり表門付近で待ち構えていた新体操部2年のちみっ娘4人組によって大広間に拉致された。


 「慎司くん、疲れてるだろうところ申し訳ないけど、報告してもらえないかな?」


 当然の要請であった。グループとして独立してから初の全体幹部会があったのだから気になって寝る気になれないのだろう。明日でいいやと思うのは全てを知っているオレだ。というわけで30分程かけて全体幹部会の件と大友グループとの協定について話した。


 「義務に関する部分はだいたい予想通りかな。うちにとってもいい話だと思う」


 「思ったより魔物討伐を失敗したあと頑張ってるグループが多くてびっくりです」


 「んん。早々に破綻しそうなグループがあることもわかった」


 「ですねえ。そういうところとはお付き合いしたくありませんね」


 救済案はうちにとって何ら問題ないので全員があっさり納得していた。この件で損をするのは本部だけである。所謂税収が半分になるようなものだ。このあたりを本部長に確認したかったのだが、大友さんとの個別交渉が入ったためいまだ未確認である。


 「それにしても武器が3本じゃないって知ったらまた何か言ってきそうですね」


 皆の興味は救済案より他のグループの動向のようである。


 「竜造寺先輩は噂よりまともな人のようなので話し合いで解決できそうですが……」


 「んん。夢見る男の娘は論外」


 「ぷふっ、玲ちゃん、その表現なんかツボに入ったかも」


 「こちらは噂通りの人のようですね。本人はもちろんですが、お仲間さんたちとも関わらないように気をつけましょう。感染したら治療魔法でも治せませんからねっ」 


 「「「 は~い 」」」


 島津くんは完全にネタにされていた。男の娘に留まらず病原菌扱いである。そして誰一人、美里委員長ですら島津くんのグループと揉めそうなことを責めて来なかった。武器の提供を拒否した事自体は責められることはないだろうと思っていたが、グループ間の揉め事にまで繋がってしまえば命の危険がある。正義厨とみられる島津くんがいきなり攻め込んで来る可能性は低いと思うが、身体強化や魔法のあるこの世界は暴力沙汰に発展して命を落とす可能性が日本より圧倒的に高いのだ。美里委員長あたりに窘められるかと思っていた。


 「向こうから突っかかってきたのだから仕方ないわよ。それに、きちんと一線を引いた方がいいと思ったんでしょ」


 チラチラと美里委員長に視線を送ったらそう返された。


 「まあね。ああいう輩は甘い顔すると碌なことにならないからね」


 どこかの労働団体であったり、国家だったりいくらでもそんな存在がある。世間の評判だとか経済的な繋がりだとかでどうしても縁を切れないならともかく、切った方が利益になるならバッサリ切るべきだ。それどころか多少の不利益を被ってでも切るべきたとさえ思っている。


 「ならいいわ。それよりも大友さんのグループとの関わりの方が重要よね」


 美里委員長もすぐに最重要話題に移った。大友さんのグループとの関係をどうするかである。


 実は、ある程度の話はオレと大友さんの2人で詰めてきたのだが、いくらグループリーダーとはいえ独断で決めるのはよろしくないということで互いに持ち帰ってグループ内で話し合うことにしているのだ。そこにはうちに大友さんが作成したポーションの検証をする時間をくれたという意味もある。


 「私は悪くない条件だと思います。ただ、20キロを1時間で走れとは言いませんが、ある程度は体力をつけてもらわないと厳しいと思いますが」


 「そうね。ポーションの効力次第だけど後方支援を受けられるのはありがたいかな」


 「私はやや反対かなあ。ちょっと向こうの人数が多すぎると思うんだよね」


 「確かに。非戦闘員が多いとこっちも危険だよね?」


 大友グループとの協定についてあちこちで意見が上がる。


 協定の内容を簡単に言うと、


 ・大友グループが作成したポーションは藤堂グループと共有する。

 ・藤堂グループがこの地を脱出する際は大友グループの帯同を許可する。 


 要は、ポーションあげるから一緒に街まで連れてってね、ということである。


 「正直言って、最初に要点を聞いた時は断ろうと思ったんだよね」


 「そうね。ポーションは魅力的だけど、負担が重すぎるわ」


 大友グループは60人、うちは28人。倍以上の数を守る事は不可能だ。それに魔素中毒の件もある。高等部女子寮も60匹以上のオークを討ち取ってはいるがそれでは足りないのだ。


 「だよね。残念だけどうちの娘たちの危険を増やすわけにはいかないからね」


 「でも、持ち帰ったってことは検討に値する何かがあるのよね?」


 「うん。内心では断ろうと思いながら話を聞いてたんだけど、いくつかオレの方に誤解があることがわかったんだよ」


 「誤解?」


 「そう。オレの認識では、大友グループは『命を大切に』という合言葉で活動してるグループで、安全のために労役をこなしてるだけの将来性のないグループだと思ってたんだ」


 「そうではなかったのね。あっ! もしかして今日の私たちと同じことを?」


 「正解。大友さんたちはさ、ある程度魔力に馴染むまで我慢してただけなんだよ。開墾作業をしながら身体強化の熟練度を上げ、労役で疲れた身体に鞭打って魔法訓練をしてたらしいよ。もちろんオレの目で確認したわけじゃないから程度のほどは不明だけどね」


 「それにプラスして錬金術の実験をしてたのね。離れてたから気付かなかったわ。大したものね」


 「うん。オレが皆に20キロを1時間で走れるようになれって言ったのと同じで、大友さんも長距離移動に備えて非戦闘員希望の娘たちにも日頃から体力増強と身体強化の習得と熟達を指示してるみたい」


 「すごい娘ね、大友さんって」


 「あの娘は大物だと思うよ。自然と周りに人が集まるのも当然だよ。しかも、集まった娘たちを自然に受け入れる度量も器量もある。まさに女王様って貫禄を感じたよ」


 「べた褒めね」


 「今日話した限りじゃ褒める部分しか見当たらなかったよ」


 気付けばうちの娘たちは議論をやめてオレと美里委員長の話をジッと聞いていた。


 「なんか受けても大丈夫そう?」


 「最低限の自衛が出来るなら、私たちが攻めで大友先輩たちが守りを担当すればイケるかな」


 「私たち、まだ攻めの経験ないのにちょっと偉そうにしすぎじゃないの?」


 「「「 確かに 」」」 

 

 「気持ちの問題よっ! それにもうすぐ魔物討伐に行くでしょ」


 「その前に山中走破訓練が先だよ」


 「んん。いずれにせよ、うちのリーダーはハーレム拡大希望」


 「女88人に男1人・・・・・・」


 「アラブの王様も真っ青ね」


 「「「 ハーレムキング! 」」」  


 「おまえらなあ。お子様がハーレムメンバーを気取るなよ!?」


 「そうよ。中東には王子が1,000人以上いる国があるんだからアラブの王の方が上よ」


 「美里委員長まで何言っちゃってるの?」 


 「1人10人産んでも負け」


 「ハーレム王ってすごいのね。奥さんもだけど」


 結局、大友グループの戦力を確認することや、ポーション共有ルールの詳細決め、行軍時の指揮権等いくつかの不安事項の解決が図れるなら協定を結んでもよいという意見が多かった。もっとも最終的な判断は交渉を行うオレに一任という形だが。


 オレは一任を受けることが出来て助かったと思っている。大友グループと組むことには他にも問題があるからだ。今はまだうちの娘たちに言うのは避けたかったし、他のグループと組むことを真剣に考えたことがなかったので自分の中でしっかり検討してみたいと思ったからだ。早速今夜から検討だ。








 翌日の異世界20日目は北方に向けての行軍訓練が行われた。グループ結成から今日まで、最も遠くまで出かけたのが2キロ先の学園ということで長距離移動訓練が実施されたのだ。


 元々身体を動かすことに慣れており、さらには得意系統が身体強化である面々はかなりの余裕を保ったまま10キロ先の所謂境界線に辿り着いた。


 また、調理部と天文部の16人も疲れた様子を見せるものの、全員が遅れることなく付いてきた。途中で足を取られて転倒した者、足元に集中しすぎて顔を枝にぶつけた者、集中が切れて身体強化が解除されてしまった者と色々いたが、およそ1時間で走破してみせたことには拍手を送りたい。


 「予想以上にいい感じだね。これなら近いうちに魔物討伐にも行けそうだよ」


 「よっしゃぁ」


 「高評価いただきましたあ」


 若干名女の子らしくない叫び声が聞こえてきたけど、大したことではない。


 「じゃあ、少し休憩したら別の山を越えながら戻ろうね」


 



 翌日、調理部と天文部は重度の筋肉痛で立ち上がれなかった。主に脹脛ふくらはぎと腿、股関節をやられたらしい。平地での走り込みと山地は別モノだから仕方ない。そしてこの日の午前中は治療魔法の講義と実習となったのであった。





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