表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/69

3-7 義務ポイントを払おう

 「よそのグループは置いておいてうちの支払い方法を考えよう。と言いたいところだけど、参考になるからちょっと考えてみようか」


 「まず、本部は問題ない。施設や食糧、備品関係の維持管理運用を請け負うことで義務ポイントが半減しているからね。問題はオレたち以外のグループだよね」


 オレたちは藤堂館に移ってから一度も学園施設に行っていない。これからも用が無ければ週に一度の食糧等の受け取り以外に自主的に行くことは少ないだろう。だが、ある程度の情報は本部から入って来る。防災トランシーバーによって毎日。


 グループリーダーにはトランシーバーが貸与されている。ちなみにこれは義務ポイントが掛からない。そしてグループリーダーには毎日報告義務がある。グループメンバーの安否報告である。オレはこの安否報告を本部の連絡員とするときに軽く雑談することにしており、その中からある程度の情報を得ている。


 また、もっと詳しい内情を得るコネクションも出来た。あれだけ嫌っていた元事務局長である。といっても3日程前からの伝手ではあるが。しかもオレからアクションを起こしたわけではなく、向こうから相談という名目で連絡が来たのだ。


 簡単にいえば、独立グループが誕生した翌日から複数のグループが意気揚々と魔物狩りに出発したが、全滅こそなかったが這う這うの体で逃げ帰ってきたらしい。死者も出ているそうだ。この時は、再び魔物の逆侵攻があるのではないかと本部は考え、全グループに警戒情報を発した。結局、魔物の再侵攻はないまま今日まで過ぎているが。


 とにかく、想定以上に魔物討伐が進まなそうということで本部長として意見が聞きたいというのが相談名目であった。最初はなぜオレに? という疑問があったが、教員内の武闘派である体育教師2名が本部に入らずに独立グループを設立したので戦闘に関して相談する者がいないということだった。うちは戦闘訓練してから攻勢に入る予定であることなどを伝えたが、その後も夜になると連絡が来るのだ。その情報によると義務ポイントを払えそうなグループは少ない。


 「まず、オレたち以外のグループが最低限掛かっている経費を考えてみようか」


 オレの言葉に真っ先に反応した娘がいる。


 「はいっ! 私たちと違って寮や部室にいる他のグループの人は1人あたり1日100ポイントが必要です」


 元気が売りの新体操部1年生である甲斐成美かいなるみさんだ。うちのグループの中で唯一魂の世界で鍛錬しなかったのに転移初日から身体強化を使えるようになった娘である。


 「そうだね。食糧、施設、備品の通常使用ならセットで100ポイントというのが決まりだからね」


 「他になにもなかったとして、10人のグループだったら、100×7日×10人で7,000ポイント。そこから防衛義務分の30×7日×10の2,100ポイントを引いた4,900ポイントを支払う必要がありますね」


 闊達な性格で同級生である甲斐さんと一緒にムードメーカーになっている韮崎文香にらさきふみかさんが後を受けてくれた。


 「うわっ! うちは28人で1,780ポイントを払うだけなのに」


 わずか10人のグループでうちのグループに迫る義務ポイントを負い、うちのグループの3倍近いポイントを返済しなければない計算だ。

 

 「なんでこんなことになるんだろう?」


 「魔物に返り討ちにあって怪我人もいるらしいし払えないグループが出てきますね」


 「このグループでよかったぁ」


 うちのグループの娘たちはあまり細かい計算をせずにこの5日間を過ごして来たのだろう。そしてそれは他のグループのメンバーも似たような物だったのと思われる。だが、うちの娘たちはリーダーで大人のオレや美里委員長がいるからそれでもなんとかなるが、他のグループは違う。


 「一応言っておくけど、オレが悪辣なことをしたわけじゃないからね?」


 念のため、うちだけが優遇されるようにとオレが何かしたという美里委員長の発言を否定しておく。オレは当然の予防線を張っただけなのだから。


 「う~ん、よくわからないんですけど、うちは明らかに負担が少なく済んでますよね?」


 オレを揶揄することを避けつつも疑問を呈するのは、天文部2年の朝日悠あさひゆうさんだ。少しゆったりしたしゃべり方をする大人しい娘だが、魔法習得には熱心で最近は得意な風魔法以外も使えるようになりつつある。


 「悠ちゃん、それは当然だよ。だって、うちは学園施設使ってないんだもん」


 朝日さんの疑問に答えたのは同じ天文部2年の矢部桜さん。この娘も風魔法を得意とする娘である。


 「それだけじゃないと思うわ。だって、私たちは炊事、洗濯、掃除を全部自分たちでしてるわ。でも、寮で暮らしている人たちは違うわよね」


 正解を導き出したのは調理部の部長である羽鳥那奈はとりななさん。火魔法が得意で、中等部女子寮防衛戦では火の玉を連続して放っていた自称炎の料理人である。火魔法一本に絞って日々研鑽を積んでいる料理人である。


 「羽鳥さんの言う通りだね。もし、他のグループの人たちが自分で出来ることを自分でやるなら本部提供のサービスを受ける必要はない。そうすれば2割以上義務ポイントを減らせるはずだよ。ちなみに、施設の利用だってうちより贅沢なんだから義務ポイントを払って当然だと思うよ」


 寮は冷暖房完備だしね。


 「確かにそうね。うちが優遇されているのではなく、他が贅沢してるわけね」


 どうやら美里委員長も納得してくれたようだ。それに、美里委員長だって基準書作りには参加してたのだから経緯は知っているはずだ。オレはサービスには対価が必要だと言っただけだということ知っているはずである。オレはただ、うちのグループがそのサービスを受ける気がないことを言わなかっただけである。この藤堂館に引っ越すことを含めて。


 「ちょっと極端なことをいえば、ブランドものを買うために借金して首が回らなくなりそうなのが他のグループって感じでしょうか?」


 控えめな言い回しながらも言ってることがキツイのは天文部1年のたて立山涼子たてやまりょうこさん。風魔法のなかでも風の刃が得意というだけある。


 「今の生活ですら地球での生活に比べれば不便だし、安全でもないから贅沢意識を持てと言ってしまっては厳しすぎるかもしれないけどね。とはいえ、きちんと考えて行動しないとこうなることを皆も覚えておいてね」


 一応引き締めておく。彼女たちもあまり真剣に義務ポイントについて考えていなかったようなので。


 「一応言っておくと、魔物の襲撃後に皆で作った水堀や土塀や櫓があるでしょ? ああいう防衛施設の普請とか、食糧確保のための菜園建設とか本部が仕事を募集してて、それが義務ポイントの返済に充てられるんだよ」


 作業ごとに微妙にポイントが違うようだけど、時給10ポイントは保証されているから1日7時間働けばいい計算になっている。ただ、そうなるとグループとしての活動に時間を割けなくなる。


 「日雇い労働ですよね。でもそうなると魔物討伐に行ったり、魔法の練習時間がとれませんね」


 そうなのだ。それでは本部付きになった方がマシなくらいである。


 「んん。だから他のグループは魔物討伐に本部の人を帯同させようとした」


 「義務ポイントの返済とグループ方針を一致させたいい案だと思ってたんだけどねえ」


 本部にとっては寄生行為による解放魔力の吸収を比較的安全位置から本部員に行わせることが出来る。グループにとっては義務ポイントの返済と魔物討伐による自己強化が行えるという一挙両得の案である。双方にメリットを提示しているこの制度は基本返済ポイントも高く、倒した魔物の数によるインセンティブもある。うまくいけば週に1回の寄生行為容認で1週間分のポイントが賄われる設定になっているのだ。しかも余剰ポイントは繰越可である。

 

 「んっ。皆失敗した上、本部員にも死者が出た。リーダーの言う通りだった」


 長野玲さんの死者という言葉に皆顔色が悪くなる。オレが得た情報の大半は朝一でうちの娘たちに伝えている。当然ながら独立グループ設立から2日目に7人、3日目に5人の死者が出たことを知っている。負傷者はその3倍以上であることも。ちなみに4日目の昨日の死者は0である。雨が降った事もあり、どのグループも魔物討伐を見送ったからだ。


 「まあ、そういうわけで、現在はどこのグループも経営が苦しく、期限内に返済するにはギャンブルをする必要があるという現状だね。島津くんと大友さんのグループを除いては」


 「島津先輩のところは運が良かっただけですよね」


 「大友先輩のところは堅実さが良い方に出たのでしょう」


 島津くんのところは魔物討伐に向かったのだが、出会ったのは魔獣ではない巨大猪だったのだ。それも2日連続で。彼らはこれを仕留め、苦労の末持ち帰って本部に食糧として売った。貴重なたんぱく源であり、本部との交渉の末200グラムあたり10ポイント折り合いが付き、合計で2万ポイント程稼いだのだ。それでも彼のグループ54名分には足りていないが、十分期日内に返済できるだろうと思われる。


 大友さんのところは魔物討伐には行かず、本部主催の作業に参加することでポイントを貯め、それ以外の時間をオレたち同様に知識の共有や魔法訓練に宛てている。また、彼女たちは女子寮各階にある共有キッチンで自炊しており、しっかりとポイントを節約している。


 他のグループが期日内に義務ポイントを払いきるのは難しい。島津くんのところのように運よく野生の獣を仕留めるか、本部メンバーを連れて魔物討伐に行くかのどちらかしかない。もしくは、有用な私物を売るかだが、それを本部が認めるかどうかはわからないのでとても案とは言えない。


 まあ、オレとしては本部と独立グループの関係を維持したいので、本部長から相談があれば上限を決めた借金を認めるとか、遅延損害分を乗せての返済期日延長を認める等の救済を進言するつもりである。


 「さて、ここから他のグループがどう巻き返すかはともかくそろそろうちのグループの返済の話をしようか。皆はどうすればいいと思う? ちょっと話し合ってもらえるかな」


 オレや美里委員長が決めてしまえば簡単だが、少しは考える力を付けないと万が一オレたちがいなくなった時に困ることになる。


 「私たち後衛組も少しなら身体強化が使えるようになったし、本部員を連れて魔物討伐に行けないかな?」


 「あたしは反対です。少なくとも魔物のテリトリーまで往復で20キロはあるんですよね。魔法より身体強化が得意な私でも自信があるとはいえません」


 「同意します。20キロという距離を甘く見てはいけないと思います。しかも平地でも大変そうなのに山道ですよ。魔物を倒しに行く前に北の方へでも行軍演習するべきだと思います」


 オレたち大人が黙って見守る姿勢に入ったのを確認したうちの娘たちが活発に意見を交わし合う。


 「じゃあ、魔物討伐はなしということでいいですか?」


 ある程度魔物討伐案について出尽くしたと判断した富山姉妹の姉である富山美音(みおん)さんが皆に確認する。高等部2年というこの中で最年長である。調理部も新体操部も部長がガンガン仕切るタイプではないので代わりを買って出てくれたようだ。


 「「「 異議なし! 」」」


 全員一致で魔物討伐案は否決された。そして視線がオレと美里委員長に注がれる。


 「私も魔物討伐じゃない方がいいと思うわ」


 「オレも同じだね。付け加えれば、これから先も義務ポイントの支払いに魔物討伐を使いたくないと思ってるよ」


 リーダーとサブリーダーの同意を得られてホッとしたのもつかの間、オレの言葉の意味を考え始めてくれた。まあ、明らかに自分で考えろと言わんばかりの言葉と態度だしね。


 「あっ! わかりました。情報漏洩ですねっ」


 「んんっ、それだけじゃない。本部員は私たちの足について来れなくなるはず」


 「他にもありますよ。連携の取れない相手と一緒に戦うのは危険です」


 「本部員は後方待機だから一緒に戦わないわよ?」


 「一緒にいるだけで問題が発生することもあるんじゃないですか? たとえば、ハンドルサインを理解出来ないとか、人によっては指示を聞かないで魔物を呼び寄せる行為をしちゃうかもですよ!」


 「そうね。人数の指定は出来るけど、誰が来るかは本部次第だもんね。へんな人が来てこっちが危険に陥るのは避けなきゃ」


 おぉ~あっという間にオレが危惧していたことが列挙された。うん、これならオレに何かあっても大丈夫かもしれない。


 オレが少女たちを満足気に眺めているとジト目がきた。当然美里委員長だ。 


 あ、うん。言いたい事はわかる。本部員の寄生については本部長発案なの知っているでしょ? だからさ、オレは反対しなかっただけだよね。ルール策定会議に参加していた旧対策会議のメンバーや新たにグループを立ち上げる予定の代表者たちが承認したんだからオレは悪くないでしょう。彼らにとっては有効な制度でオレにとっては避けたい制度ってだけじゃないか。強制されるなら論破して潰すけど、選択制なら問題ないから沈黙しただけだよ。


 「皆、大正解だよ。ということで、だいぶ時間が経っちゃったしオレの希望を言うね、明日本部主催の菜園作りをしに行こう。それで義務分は稼げるよ。ついでに身体強化の練習にもなるしね」


 美里委員長が何か言おうと息を吸い込んだ瞬間を突いて議論終結を宣言した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ