9
ファミレスでの告白から三日後、初めての(と思っている)デートをすることになった。約束は、気を使ってくれた里香ちゃん達と別れた後、宗方君と二人で駅に向かいながらだった。
「水無月さんは、どこか行きたいところは無い?」
「二人で? それってデートのお誘いなの、かな?」
「う、うん。夏休みももうすぐ終わりだし、一度くらいは朝から会いたいなぁなんて思って。学校が始まったって、放課後や土日でも出来るだろうけどね。でも、思い出作りもしたいなって」
「そうだね。でも、どこが良いだろう。えっと、宗方君って星座とか興味ある?」
「ギリシャ神話が元になっていたりするのだよね。随分前にマンガの影響で調べた事があって、少しなら知っているし嫌いじゃないよ」
「なら、プラネタリウムでも行く? 私、けっこう好きなんだよね」
人によっては星の色が見えるのだそうだけど、空に輝く星は私にとって見え方の違いが少ないモノのひとつで、せっかくだから同じものを見たいと思っての提案だった。
それに繁華街に近いその場所なら、お店を回ってお互いの好みを知るのに丁度よいとも思っている。なにしろ、宗方君の好きな系統さえも知らないのだから、どんな話題を振ったら喜んでもらえるのかも分らない。
約束の時間よりも十分早く待ち合わせのホームに上がって行ったら、宗方君はすでにベンチに座って待っていてくれた。足音とかで階段を見ていたのだろう、私だと分ると立ち上がって迎えてくれる。
「水無月さん、おはよう。今日の服は、デートを意識してくれたの、かな?」
「おはよう、宗方君。里香ちゃん達に選んでもらったのだから、おかしい所は無いと思うけど、似合っているかな」
三日前に選んでもらった、白いブラウスにデニムのスカート。歩きやすいようにスニーカーを履いて、キャンバス地のトートバッグという格好だ。冷房で冷えすぎない様に薄手のカーデガンを持ってきたので、バックが大きくなってしまったのが仰々しかっただろうか。
「うん、似合ってる。その、可愛い」
「あ、ありがとう。宗方君も似合ってるけど、いつもそういった感じなの?」
宗方君の格好は、淡い色のポロシャツにスリムジーンズ。真新しいスニーカーを履いて、ワンショルダーのバッグを背負っていた。当然ながらカメラは持って来てはいない。
そう、カメラを持っていない宗方君が新鮮で、それがまたチョット素敵な男の子に見えるものだから、目のやり場に困ってしまう。
「いつもはこの前会った時の様に、もう少しだらしない格好だよ。今日のは姉貴にアドバイスしてもらったんだ。その、みっともない格好で来て、水無月さんに恥をかかせたくなかったから」
お姉さんに相談してまで着る物にも気を使ってくれるなんて、凄く特別に思って貰っているようで嬉しかった。それとも、普段からそういった事ができるほど仲が良いのだろうか。
「私ひとりっ子だから、兄弟がいるって羨ましいなぁ。いくつ離れているの?」
「ふたつ。同じ高校の三年生なんだよ。仲は良い方だと思うんだけど、見返りを要求されるから頼み事はしない様にしているんだよね。今回は今日の結果報告です」
「それでも頼るくらい、気に掛けてくれたんだ。それじゃ、良い報告が出来るように楽しもうね」
そうしていると電車がホームに入ってきて、空いている席に並んで座る。急行なので乗っている時間は三十分くらいなのだけれど、お互いの誕生日だとかを教え合っていたらあっと言う間に着いてしまった。
ちなみに誕生日は私が五月で宗方君が四月だったので、二人ともすでに過ぎてしまっていて、少し残念に思った。
さすがに六路線も集まるターミナル駅なのもあって、降りたホームは人が溢れんばかりで歩きにくい。それでも急ぐ必要も無いので、人が空いてから階段を下りて改札を抜け、カップルや家族連れの波に流されるように地下道を移動する。
「デパートの催事場で、北海道の物産展をやってるみたいだね」
「ウニとかイクラのお弁当もあるのかな。私はお肉よりお魚の方が好きなんだけど、宗方君って海産系は好き?」
「肉も魚も好きだけど、和洋中で言えば和食が好きかな。焼き魚や煮物とご飯に味噌汁とかね」
「私は辛いのがダメだから、中華とかは苦手かな。家だと和食が多いから、外食は洋食が多くなるかも」
「たしかに、外食だと洋食が無難だよね。まあ、ファミレスやファーストフードなんだけどね」
そうこうして着いたプラネタリウムは、すでに二回目のチケットまで売り切れてしまっていて、午後一番のチケットを買って、始まるまでの時間を他で潰すことになった。
男の子との初めての外出で、三時間もなにをして過ごして良いのか解らず、宗方君を見ると彼も同じように考え込んでいる様子だった。それでも直ぐに何かを思いついたようだ。
「ねえ、水無月さん。もし良かったら誕生日プレゼントでも交換しない? 二階まで下りれば雑貨屋さんなんかが多く入っているから、少し見て回らないかな」
そんな提案をされてちょっと照れくさかったけれど、言った彼の方も恥ずかしかったのか、ものすごく目が泳いでいる。勇気を奮い起こしてくれたのだろうから、それに応えてあげたくてすぐ同意をする。
「そうだね。直ぐには欲しい物が浮かばないけど、見て回っていれば良いものが見つかるかもしれないもんね」
そんな軽い気持ちで店を巡り始めたけれど、こうして一緒に歩いているのが心地よくて、積極的に物を選んだりはしないでいた。だって選び終わったらする事が無くなってしまうし、次は私から提案するのだとするとハードルが高い。そんなだからか、目が行くのは食器だったりアロマだったりと、およそプレゼント交換になりそうもない物になってしまっている。
「宗方君は良いものあった?」
「僕はこういったお店に入る事があまりないから、目移りしちゃって……。ごめん、その、ペアカップとかに目が行っちゃって、ちゃんと考えられていないかも」
どうやら誕生日と言いながら、初デート記念の何かが欲しいようだった。それならペアカップっていうのもアリかもしれない。そろって使う機会なんて無いのだから、本人たちの自己満足で済むのだし、それの事でからかわれる事も無いだろう。
それでも、せっかくなら常に持ち歩けるものが良いと思ってしまうのは、付き合いの浅い私達には早いものだろうか。いや、奇抜な意見ではないだろうから提案するのも悪くは無いだろう。
時間の確認だろうか、スッと宗方君がバッグから取り出したスマホを見て思い出す。実は彼と私は同じ機種で、色違いだけれどケースまで同じ物だった。もっとも、高校入学のタイミングで買ったのならば機種は必然的に絞られるし、学割で実質タダのわりには高性能なモデルだったから被るのも頷けるというものだ。
本体にはストラップホールが無いものの、ケースにはそれが開いていて、彼も私もなにも付けてはいない。そんなだから、彼に見せつけるようにスマホを取り出して言ってみる。
「ねえ、ここ見て。私も色違いの同じのを使っているじゃない。二人ともチャームは何も付けていないから、お揃いの物を付けるのはどうかな」
「でも学校でみんなに見られちゃうよ? いいの?」
逆に何が悪いのだろう。
付き合っている事を知られてまずい人でも居るのだろうか? 二股、とか?
いやいや、宗方君に限ってそれは無いだろう。そもそも同じクラスなのだし、挨拶もすれば話もする。そうなれば、一学期とは明らかに関係が変化している事はバレバレだろうし、良くも悪くも髪を切った事で注目は集めてしまうだろう。
「えっと、付き合っている事は秘密にした方が良いのかな」
「逆に、僕みたいなオタクキャラと付き合っているって知られて、大丈夫?」
「うん? 心配の意味が解んないけど、大丈夫だよ」




