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 帰ってきたテスト結果は、目標には届かなかったものの満足できるものだった。宗方君も悲観するほど悪くなくて、「姉貴にブッ飛ばされないで済みそう」なんて言っていた。

 その美空先輩は大学の近くで独り暮らしをするそうで、引越しも既に済んでいると連絡をもらっている。もっとも頻繁に実家に戻って来ているようで、勉強しに行くと必ずと言っていいほど会う事ができた。


 一年生最後の終業式を迎え、クラスの女子でカラオケに行く事になった。

 春先の私だったら速効で断って、里香ちゃん達とファミレスでも行っていただろうが、宗方君のおかげで人と関わる事ができたうえに、クラスに溶け込む事ができたのだから、喜んで参加させてもらう事にした。

 宗方君には感謝し尽くせない。


「水無月さんって、カラオケとかは大丈夫だった?」


「うん。中学の頃も里香ちゃん達と行ったことあるから大丈夫だよ。こんな広い部屋は初めてだけど、歌うのは好きな方だよ。遠野さんは?」


「私は歌うのが苦手なんだ。聞くのも演奏するのも好きなんだけどね」


「ねえねえ。清水さんって、歌下手だよね」


「まぁ、里香ちゃんは上手い方ではないと思うけど。田辺さんはカラオケ得意?」


「陸上部の一年の中ではトップ、と言えるくらい得意なんだ」


 そんな話をしている最中も好きな子は次々に選曲して歌い始め、入れ替わりでドリンクバーに行ったりしている。

 そろそろ一巡するくらいには予約が入っていそうなので、私も選曲する事にした。十八番(おはこ)もあるけれど、最初からじゃ後がきついので無難なところで様子を見ようかな。


 誰とも被らないであろうマイナーなバンドの曲を選曲しておいて、烏龍茶を取りに行こうと立ち上がると、最初に歌いきった西崎さんが腕を組んでくる。


「水無月さん、一緒に飲み物を取りに行こうよ」


「うん。西崎さんの歌、迫力あって聞き惚れちゃった」


「ありがと。水無月さんはマイナーなのを入れてたけど、そっち系が好きなの?」


「何でも聞くよ。女性ボーカルの新譜が出ると、たいがいはダウンロードしちゃうくらいだから」


「じゃぁ、リクエストとかしたら歌ってくれる?」


「うん、知ってる曲ならOKだよ。なんだったら一緒に歌う? アイドルグループ系も聞くからね」


「お! 楽しそうだねぇ。どの曲にしようかなぁ」


 飲み物を注ぐのに結構待たされてしまって、戻った時にはひとつ前の曲が始まっていた。慌てて席に着いて烏龍茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせる。

 なにしろ、この中の誰も私の歌を聞いたことが無いのだし、里香ちゃん達には上手いって言われていたけれど、ここの皆に受け入れられるか判らないのだから。


 いつもの様に丁寧に歌いきると、概ね好評だった。そう、田辺さんだけは愕然とした顔を向けて来ていて、おそらく豪語した彼女の評価以上だったのだろう。最初の曲は聞けなかったけど、次の曲の出来は『ふつう?』だったので、この話題に触れないようにした。


「ねえねえ、水無月さん。この曲は大丈夫だよね」


「大丈夫だよ。あ、でもこの人のだったら新譜のこっちも歌えるけど?」


「ほんと! じゃぁ入れとくね。すっごい楽しみ」


「え? リクエストも受け付けてるの? じゃぁ、私の代わりに歌ってよ」


「遠野さんは、そんなに歌うのが嫌い?」


「どっちかって言うとね。新しい曲に触れられるから来るようなものだから」


「じゃぁ、遠慮なく歌わせてもらおうかな」


「どんどん入れとくから、よろしくね」


 こんな感じでリクエストを受け続けて、延長の一時間は私と西崎さんと本間さんで歌い続けになってしまった。さすがに喉が痛くなってきたので、再延長は遠慮してお店を出ることになる。

 こんなに歌ったのはいつ以来だろう。そして、こんなに楽しめたのもずいぶん久しぶりだった。中学の卒業式以来だから一年振りかな。


 みんなと別れて本屋を覘くと、宗方君がカメラ雑誌を立ち読みしていた。

 脅かそうと思ってそっと近づいたのに、あともう少しのところで雑誌を戻してこちらを振り向かれてしまった。


「いつから気付いていたの?」


「入って来た時から。そろそろかなって思っていたから、人影が見えると確認していたんでね」


「そっか。ごめんね、待たせちゃって」


「好きで待っていたんだから、そんなに気にしないで。それより楽しめたみたいで良かったよ」


 そう言ってもらえるほど、私の顔は上気していたみたいだ。歌い続けだったので少し汗もかいているし、なんか本当に申し訳なく思う。


「うん、楽しかった。機会があったら、また行きたいなぁ。だから、ほんと」


「気にしないで良いからね。君が楽しめたなら、僕も嬉しいんだからさ。それより帰ろっか」


 電車に乗っている間は、どんな曲を歌ったかとか話せたけれど、歩き始めたらなんとなく寂しくなってしまった。


「秀正君。四月からも同じクラスになれると良いね」


「そうだね。修学旅行もあるからクラスが同じ方が良いけど、違うクラスでもかまわないとも思っている」


「どうして?」


「その分、みしろさんの交友関係が広がって、楽しい事が多くなるならいいかなって」


「なら、やっぱり一緒のクラスが良い。秀正君が見つけてくれたから、今の私があるんだもん。楽しい事も苦しい事も秀正君と一緒が良いな」


「う~ん。先を越された気分で悔しい。でも、案外思い通りになるかもしれないよ」


 なにに対して先を越したのか解らないけど、どうして思い通りになると思ったのだろう。学校からなにか話でもあったのだろうか。

 なにげに養護教諭と仲が良いようだし、学年主任と話している所を見た事も有る。宗方君は教師の間で顔が広いようだった。だから、先に何かを聞いているのかもしれない。


「修学旅行は海外だから、君の目の事をちゃんと理解しているクラスメイトが必要だろうと思うんだ。そうすると、清水さんや遠藤さんや僕が候補になるだろうから、可能性は高いんじゃないかな」


「そっか。うん、少し元気が出て来た」


「それとね。クラスが別れたって朝も迎えに行くし、遅くなるようなら送るから。喜びも苦しみも分かち合って、一緒に歩いて行こうよ」


「それって、プロポーズのようだよ」


「みしろさんが先に言ったよね? でも、嘘偽りない僕の気持ちだから。嫌でなければ手を取って欲しいな」


 そっと差し出された手を躊躇する事無く取って、微笑み合って歩み続ける。

 もうすぐ家が見えてくるので今日はあと少しだけれど、新年度もその翌年もこうして二人で歩けるように、ちゃんと支え合えるように頑張っていこうと思う。


 その先も自信を持って共に歩いて行けるように……。


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