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学年末考査の最後の科目が終了して、思わず机に突っ伏してしまった。全てを出し切った感が否めないが、後悔するほどの悪さ和感じていない。
卒業してしまった美空先輩に教わったヤマは、ある程度当ってはいたものの、覚えきれていなかった所や自信の無い部分もあって、自己評価としては『取敢えず全て埋めた』と言うレベルだった。
隣を見れば、宗方君は魂でも抜かれてかのように呆けていて、力を出し尽くしたのか絶望感に浸っているのか判断が難しい。
「ねえ、秀正君。あの、大丈夫? 魂、抜けちゃってない?」
「大丈夫じゃないかも。張ったヤマが半分くらいしか出なかった。赤点では無いと思うけど、どうだろう。順位が上がるほどだったかなぁ」
「お姉さんに聞かなかったの? 私が教わったヤマはだいたい出ていたよ」
「そこはやっぱり、自分の力で乗り切らなくっちゃって思って。でも聞いときゃ良かったって、今更ながらに思うよ」
まあ、いつまでも頼れるわけでは無いのだから、来年度からはちゃんと点が取れる様にする必要があるだろう事は分っている。
でも、そうだな。遊びや部活だけじゃなくって、勉強の日を決めて宗方君と頑張るのも良いかもしれない。図書館でも良いし、お互いの家でも良いだろうけど、終わった後はいつもの喫茶店に行ってケーキセットで癒しを受けたいなら図書館だろうな。
「そう言えば、清水さんはどうなったか聞いている?」
「う~ん、難しいみたいだよ。そもそも土日関係なしで部活だし、どうしても欲しいって感じでもないから」
「まぁ、『忘れるために他の人を』ってのも変かもね。良いんじゃないかな、急がなくっても。出会いなんて、これからいくらでも有るでしょ」
「そうすると、水無月さんにも宗方君以外の出会いがあってもおかしくないと」
「「え?」」
急に遠野さんが会話に割り込んできて、その内容に二人してビックリする。
「だって、進級したらクラスが別れるかもだし。いまの水無月さんなら、男の子がほっとかないでしょ」
「み、みしろさん。ぼ、僕を捨てないで」
「え? 捨てないよ!?」
「でも迷惑はかけたくないから、他に好きな人が出来たらちゃんと言ってね」
「逆に、私が捨てられないかが不安」
「将来を約束できるように、ちゃんと頑張るから」
「え! そのつもりだったからしたんじゃないの? 私、初めてだったのに」
「え!」
ひどい。
口では悲しませないだの永久就職だのと、将来を約束する様な事を言っていたのに、そこまでの気持ちは無かったなんて。
思わず涙ぐむと、近くに居た女子達が私を宗方君から守る様に近寄ってくると同時に、宗方君は男子に教室の後ろまで引っ張っていかれてしまった。
「水無月さん。やっぱりあのオタクは獣だったのね」
「無理やりなんて可哀想に」
「男の言葉なんて信じちゃだめよ。不潔なんだから!」
口々に、そう言って慰めてくれる。
宗方君はと言えば男子に攻め立てられているけれど、何やら反論をしている様だった。往生際が悪いのだろうか。
それより、こちらも誤解が有る様なので訂正しておかないといけない。
「えっと、無理やりだったわけじゃないよ」
「それにしたって、いやいや連れ込まれたんじゃないの?」
「引き込んだのは私だし」
「え? 水無月さんの部屋って壁が薄いって……」
「部屋じゃなくって玄関のとこだから」
そこまで話すと、後ろに固まっていた男子もこちらを向いて黙り込み、女子も得体のしれないモノでも見るような目を向けてくる。
「だから言ってるじゃないか。みしろさんと僕は、そこまでの関係になっていないって」
「じゃあ、どうしてしたの? 私はてっきり……」
「みしろさん、落ち着いて。君と皆の認識に大きな違いがあるから」
「認識の違い?」
「そう。皆は全然先の話をしているから」
「先の話?」
「そう。子作り的な行為の話で、僕たちはそこまでの関係にはなっていないよね」
「う、うん。キスまでだけど。え? なんで皆はそんな勘違いを??」
なんだろう、この何とも言えない雰囲気は。でも、そうか。変な誤解をしていたから、玄関でって話した時に見てくる目が変わったのか。
遠野さんは肩をがっくりと落していて、重い口をやっと開いた。
「あなたが、したとか初めとか言ったんじゃない。将来を誓ったとかの話しでそう言った発言が出たら、だれだってそっちの話だと思うでしょ?」
「だって、神様の前で誓いを立てるのはキスでしょ?」
「神様の前でおっ始めたら引くわよ。てか、高校生にもなってキスぐらいであの発言って、重すぎでしょ」
「え? 私の気持ちって、重い? 嫌いになっちゃう?」
「大丈夫。重いとは思わない。ファーストキスが大事だったのも解っているから。でも、発言には注意してくれると助かる」
「はいはい。もう、二人の世界に入ったまま出てこなくていいから」
酷い言われようだけれど、そもそも不安を煽ってきたのは遠野さんじゃなかったっけ? それでも、心配してくれた事には感謝と謝罪を。
「遠野さん。あの、誤解を与えてごめんなさい。それと、心配してくれてありがとう」
「いいえ、最初にからかったのは私だし。気にしないで。水無月さんがそんな軽い女の子だなんて、思い違いでも失礼だったもの。私もごめんね」
「僕には無いの? 男子に詰め寄られて怖かったんだけど」
「ない! この中で女子をエロい目で見た事ない男子なんて居ないでしょ? そもそも、酷い奴だって連れて行かれた訳じゃなく、羨ましい奴だって感じだったんじゃないの?」
男子の誰もが反論せずに、目を逸らせて聞こえないふりをしている。男の子だから興味もあるのは分るけれど、自分の彼女がどうだったとか話す人とは、間違っても付き合いたくはない。無いからね、宗方君!




