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「あのね。私も、好きな人がいるんだ」


 突然、里香ちゃんが呟く。

 里香ちゃんからそんな話を聞くのは初めてだったので、ちょっとビックリして遠藤さんの方を見ると、何故だか喜んでいる様には見えない。彼女に里香ちゃんへの僻みがあるとは思わないので、喜べない理由が何かあるのだろう。


「そっか。里香ちゃんから好きな人の話を聞くなんて、もしかして初めてかな? それで、お相手は誰? クラスの人? 部活の人?」


「部活のひとつ上の先輩。入部した時から憧れていて、一昨日の部活の帰りに『よかったら付き合わないか』って言ってもらえて……」


 そう言ったものの、そこには嬉しいと言った感情は見受けられず、声のトーンも幾分低い。遠藤さんの表情からも、『実りにくい恋の話』なのだろうと予想が付いてしまい問いただす。


「遠藤さんは知っていたの?」


「うん。一学期には憧れている先輩がいるって聞いていたの。でもね、彼女がいるって話だったから」


 それってもしかして、遊びで付き合おうって事なのだろうか。


「えっと、里香ちゃん? その先輩は彼女さんと別れているんだよね?」


「先輩は『クリスマスの後に別れた』って言っていたよ、でも……」


 クリスマス後って、里香ちゃんに声をかけるまで一週間も空いてないじゃない。本当に大丈夫では無さそうなので遠藤さんを見れば、今にもため息でも吐きそうな表情で重い口を開く。


「私も心配になってね、クラスの陸上部の子にそれとなく聞いてみたの。そしたら元カノさん、その先輩と同級生のマネージャーだって言うし。最後に見た時も普段通りだったって言うのよ。付き合いも長いらしくって、部内でも公認の仲だって話だったのね」


「そう言うのを聞いちゃうと、二股って言うよりも遊びで声をかけたって感じ、なのかなって思えちゃうね」


「先輩を悪く言わないで」


 里香ちゃんは『悪く言うな』って言ったけれど、『そんな人じゃない』って否定はしなかった。たぶん、里香ちゃんも解っているのだと思う。

 それでも憧れていた人に、好きになった人に告白されたのだから嬉しくないわけは無いのだろう。


 このタイミングでこう切り出し方をしたって事は、付き合えないと気付いていて、おそらくは断って来たのだろうと思った。だから、ハッキリと確認をする。


「それでも、断って来たんだよね」


「――うん」


 辛かったのだろうなと思って、そっと肩を抱き寄せて胸の所で頭を抱える。


「残念だったね。でも勇気を振り絞って、えらかったね」


「うん」


 里香ちゃんはそれだけ言うと、声を殺して泣き出す。震える肩が痛々しくて少し力を込めると、遠藤さんもこちらに寄ってきて背中をさすってあげている。

 どれくらそうしていただろう。インターホンの呼び出し音が鳴り出して、それぞれが体を離して顔を見合わせる。遠藤さんがインターホンに出てくれて、一時間だけ延長すると伝えてくれる。


「ちょっと待っててね」


 延長の意味を理解して部屋を出ると、お手洗いで予備のハンドタオルを濡らし、ドリンクバーにある氷を包んで部屋へと戻る。


「はい。少し目元に当てておいた方が良いよ」


「ありがとう。――やっぱり私はみしろチャンがいい。あんな冴えない男なんか振って私と付き合おうよ」


 恋が実らなかったとはいえ、人の彼氏を捕まえて『冴えない男』なんて言われたら、黙って聞き流すことなんて出来ない。


「あのね、里香ちゃん。秀正君は背だって普通にあるし、顔だって人並みに整っているし、乙女かってくらい直ぐ照れるし、冴えない人なんかじゃないよ。多少はオタクっぽいし、積極性に乏しい所は有るけど、私にはもったいないくらいの人なんだからね!」


「それ、褒めてるの? 『見てくれは人並みの、気弱なオタクです』ってきこえるのは私だけかなぁ。ねぇ、里香ちゃん」


 遠藤さんが呆れたように、タオルで目元を冷やし続ける里香ちゃんに同意を求め、里香ちゃんの口角が微妙に上がっているのは、同意なのか笑っているのか。


 声をかけて来たのは彼だし、プロポーズっぽい事も言われたし、排他的欲求なんて言われた事も有るのだけれど、それを言い出したら自爆もいいところだし、失恋者を前に惚気話をしたくは無い。

 それでも、宗方君を認めてもらいたい思いは強くあって、うまく説明できないもどかしさがあって何とも歯がゆい。


「私だったら何処にだって一緒に行ってあげるよ、服だけじゃなく下着選びだって。何かあればすぐに駆けつけるよ、足早いし持久力もあるもん」


「そうね、私だって水無月さんのためなら協力は惜しまないよ。絵と言う趣味も共有できるしね」


 里香ちゃんだけでなく遠藤さんまで私を口説いてきて、ふざけている事も解ってはいるので反論をすることにした。


「秀正君だって駆け付けて助けてくれるよ! 好きなモノだって似通っているし、きっと頼めば下着だって一緒に選んでくれるんだから! 絶対に私だけを包んでくれて、他の人には手も触れさせないくらい愛し続けてくれるんだから!」


 それを聞いた二人は顔を見合わせたかと思うと、呆れ顔をこちらに向けて口々にとんでもない事を言って来た。


「無理。重すぎるよ」


「リア充なんか、滅んでしまえ~」


 親友とは言え、遠慮のない言葉にムッとしてしまう。それでも、直ぐにお腹の底から笑いあえたのだから良しとしよう。

 里香ちゃんにも遠藤さんにも素敵な出会いが訪れて、三人で恋バナが出来るようになると良いななんて、かなり本気で思ってしまった。


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