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 宗方君は隣で『全てを出し尽くした』感を出して潰れている。

 今日は二学期の終業式で、さっき通知表を渡されたばかりだった。彼の通知表を見させてもらったけれど、一学期と大差ない数字が並んでいるのだから、そこまで脱力しなくてもと思ってしまう。


「そこまで悲観する成績でもないと思うけど」


 少しは元気付けようと思って声をかけたのだけれど、それでも起き上がれずに遠野さんから「うざったいよ」なんて椅子を蹴られている。


「だってさ。あれだけ頑張ったのに、成績が伸びていないんだもん」


「中間テストが悪かったんだし、周りだって頑張っていたんだから、しょうがないんじゃないかな」


「それにしたって、みしろさんに教えてもらったのに結果が付いていけてない。君は上がっているのにだよ。は~、情けない」


 落胆は昇降口を出ても続いていて、早く気持ちを切り替えてもらおうと、ある提案をしてみる。


「ねぇ、秀正君。実は、タブレットが昨日届いているんだけど、よかったら家に来て設定とかしてくれないかな」


 元々はパソコンで絵を描くつもりだったので、お年玉を足しても如何かって感じだったのだけれど、身の丈に合った道具ならば今の貯金でもどうにかなる。

 パソコンだと家でないとできないけれど、タブレットであれば出先でも描く事が出来るし、スマホと同じメーカーなので何かとデータのやり取りがスムーズだったりすると聞いたので、買おうと思えば直ぐ買える状況だったのだ。


「えぇ! お正月に買いに行くのかと思ってた。てか、家に行っても良いの?」


「うん。お母さんもいるし、問題は無いよ」


「えっと、信用が、ない?」


 笑って誤魔化したけれど、ちゃんと信用はしているよ。それでも家で二人きりの状況は、緊張もするのでまだ避けたいと思っている。


「秀正君はカメラ、どうするか決めたの? 買いに行くなら付き合うよ」


「僕はお年玉が入らないと買えないんだけど、買いに行けるのは親戚回りが済む四日以降かなぁ」


「欲しいものは決まっているんだね」


「うん。画質は求めたいけど上見たらキリ無いから、使っていて楽しめるのが良いなって思っていて。ちょうど良いのが最近出たから、それにしようと思っている。今使っているのとは互換性が無いから、一から揃える必要があって予算が厳しいんだ」


 感覚的なものだから『使っていて楽しい』ってどう言ったものか分らないけど、気に入った物があるのならそれが一番だよね。

 私はネットで気に入ったケースを見つけたので、迷う事無く注文していた。かわいい猫が蝶々と戯れているイラストが入っていて、一目見て惚れ込んでしまった事から本体などと合わせてポチっとしてしまったのだ。


「ただいま~」


「お邪魔します」


 家の前までは来た事のある宗方君だったけど、家に入るのは初めてで緊張しているようだった。そんなに緊張しなくてもと思っていたのだけれど、居るはずの母から返事が無い。

 リビングに入ると、ダイニングテーブルの上にメモが置いてある。


『ごめんね。急に用事が入っちゃったので、お昼は適当に食べておいて 母』


 えっと、二人だけってこと? 急に緊張してきちゃって、頭が上手く回らなくなってしまったようだ。


「あのね、お母さん出掛けているみたい。とりあえず私の部屋に行こうか」


「い、いやダメだよ。こ、ここでも出来るだろうからさ。ね?」


 確かに部屋で二人きりって言うのは更に緊張するし、間違いは起きないだろうと思っているけど、親からあらぬ誤解は受けたくない。「そうだね」と緊張を隠して返事をすると、部屋から届いた箱ごと一式持ち出してテーブルに置く。

 昨日、一通り箱から出して間違いが無いかは確認してあるけれど、フィルム張りとか綺麗にできないので直ぐに箱に戻してしまっていた。


「フィルムとか貼るのも苦手なので、貼ってくれると嬉しいな」


 こういう物には詳しくないので、初期設定や通信設定、スマホとのデータリンクやテザリングの設定、フィルム貼りとケースの取り付けまで、全てやってもらってしまった。さすがにパスワードは自分で入力したけど、それだって宗方君に言われたからで、知られて困るとも思っていなかった。


「ガラスフィルムって、貼り辛いんだよねぇ。透明感は抜群なんだけど」


 そんな文句も口にしていたけれど、綺麗に貼ってくれていた。私がやっていたら、埃が入ったり割れたりしてかもしれないほど、見ていて難しそうだったのに流石だと感心した。

 実は少し前にスマホのフィルムも貼り直してもらっているので、安心して任せられたのだけれど、本当に手先が器用なところが羨ましい。


「お昼はどうしようか。有る物で良ければ作るけど、卵とじうどんくらいかな」


「手作りは嬉しいんだけど、人の目が無い所で二人ってのが落ち着かないんで、外に食べに行かないかな?」


 本当に意気地なしなんだから。

 なんて思ってみても、臆病と言うよりも私を思って慎重になっているのだろうし、それも彼の良い所なのだからお言葉に甘えよう。

 私だけ私服はさすがに変なので、制服のままで近所のファミレスに向かう事にして、母にはメールを入れておく。ほんと、メールは受け取るくせにメモ紙で済ませようとするところは、いいかげんに直してもらわないと困るのだけどね。


 今日が終業式の所が多いからかファミレスも混んでいて、二人だから良いかなとカウンター席の方に案内してもらう。

 そう言えば、駅や学校に近いファミレスってカウンター席は無い。客層の違いか建てた時期の違いなのか分らないけれど、普通はお一人様くらいしか利用しないだろうとも思うので、この時間帯に空いている事に不思議な感じはない。

 私たちは四カ月ほどこうして肩を並べて座っていたし、そのまま食事をする事も有ったので違和感が全くない。どちらかと言えば近く感じるので、私はテーブル席よりも好きだなぁ。


「私はこうして隣り合って座る方が好きなんだけど、秀正君はテーブル席の方が好き?」


「どうだろう。今は僕らしかいないから良いけど、見ず知らずの人が隣に居たら嫌かもしれない。まあ、言い出したら電車はどうするんだとかなるけどね」


「それって独占欲? 庇護欲?」


 ちょっと意地悪して聞いてみる。ちなみに私はどちらでも嬉しいのだけれど。


「独占欲と言えるほど縛り付けるつもりも無いし、庇護できる力が有るかは疑問だけれど、二人の時間を満喫したい排他的欲求って感じかな?」


 それはそれで嬉しいけれど、口に出すのは思いっきり恥ずかしくは無いのだろうかと心配になる。いくらカウンター席は空いているとは言っても直ぐ後ろにはテーブル席もあるのだし、引っ切り無しにドリンクバーへ向かう人が通るのだから。


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