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 片付け始めるとスマホが震える。やっと両親が着いたようで、美術部の展示教室に居るとのメールだった。


「お父さん達、美術部の展示のとこに居るって」


「それじゃ、急がないとね。待たせちゃ悪いし」


 ゴミは分別して、持ち帰るものはバッグに入れて、展示教室に向かう為に立ち上がる。宗方君は残っていたクラスメイトの様子を気にしていたけれど、気になるくらいなら挨拶しとけばよかったのにって思う。

 展示室の店番(?)は遠藤さんだったので、両親は受付の所で彼女と話し込んでいた。


「おまたせ。遠藤さんごめんね、お母さん達が邪魔しちゃった様で」


「ううん。お客さんいないし、大丈夫だよ」


 受付から少し離れた所に両親を引っ張って行き、宗方君を紹介する。


「えっと、お付き合いしている秀正君です」


「――宗方秀正と言います。よろしくお願いします」


「――みしろがいつもお世話になっています。貴方のおかげで明るくなれたねって、お父さんとも喜んでいるんですよ」


 やっぱりみんな緊張しているようで、挨拶に微妙な間が出来ていた。お父さんなんか、「娘をよろしく」なんて頭を下げている。


 宗方君が写真部なのを知っているので、両親は「写真部の展示も見に行く」と言ってきて、軽い挨拶を交わしただけで別れる事になった。

 さすがに親を連れて、彼氏と彼氏の部活展示なんか見に行けない。宗方君がからかわれるであろうネタを提供する趣味は無いのだから。

 両親が出て行くと遠藤さんが手招きしてくる。


「交際の許可をもらったって感じ?」


「私が変わった理由を心配していて、知りたがっていたからね。会ってもらって安心させたかったし」


「そっか。二人の仲はそこまで進んでいたのか」


「名前で呼び合っている事? さっき始めたばかりだよ」


 遠藤さんの質問に答えていると、宗方君がこめかみを抑えながら口を挟んでくる。


「午前中に名前で呼んでいいか聞いたら、そこから名前呼びになっちゃってね。さっきもクラスの男子が居るとこで、名前で呼ばれたうえに両親が来たって言い出すし」


「あ! 私は名前じゃない方が良かった?」


「名前で呼ばれるのは嬉しいんだけどね。あれ絶対に勘違いしていて、からかわれるパターンだったよなぁ」


 付き合っている事はみんな知っているのだし、今更からかわれるネタではないと思っていたのだけど違うみたいだった。だから噴き出していたのかもしれないと思い至った。

 遠藤さんはニッコリ笑いながら、宗方君に「ご愁傷様」なんて言っているので、申し訳ない事をしたと反省する。


 少しは反省するけど、名前呼びを止めるつもりは無い。周りだってその内に気にならなくなるだろうと思うし、今更取り繕ったとしても意味も無い。


「秀正君はお姉さんの目の事を知っていたから、私の目の事も受け入れてくれたのかなって思ったんだけど……」


 最上階の廊下の、突き当りまで連れて行って聞いてみた。どうしても午前中に感じた寛容さの理由が知りたかったためだ。


「姉貴の事は、ほんと最近知ったんだ。母さんが『秀正の彼女に挨拶したい』って言い出した後に忠告されたんだよ。『目の事を知っているから、きっと反対されるよ』ってね。それで、どうしてもって時は私が助けてあげるって言ってくれたんだ」


 その時に自身も色覚異常なのだと打ち明けられたそうだ。もっとも、特定の条件下で識別できない色があるくらいで、生活に不便などないらしい。そのせいもあって、家族の誰も気づいていなかったそうだ。


「だから、身内にいるからだとかではないよ。そうだな、昔はテレビだって白黒だったし、今だってマンガは白黒だよね。昔の絵とか色が変わってしまっていても、迫力は伝わってくる。だから色なんて無くても、物事は相手に伝えることは出来るんだからなんの不思議もないでしょ」


 だからだろう、彼が私に色の話をしたのは最初の時だけだった。まるで彼も色の無い世界に居る様に、色と言う情報を口にしたことはほとんど無い。

 そして色覚に障害を持つ者に対する働きかけは、養護教諭を中心とした学校関係者にも及んでいて、カラーユニバーサルデザインを参考にした配色の配布物作りをしているのだと、合わせて教えてもらった。


「最初にも言ったよね。僕にとって色は付いているに越したことは無いけれど、必要不可避なものじゃないんだよ」


 そうだった。

 彼は初めから、色とは不明確な移り変わる情報だと言っていた。だからこそ、それを削り取って行く事で物事の本質に迫ろうとしていた。その中で、私を見つけてくれたのだから。

 だからこそ、そんな宗方秀正君を私は好きになった。

 言葉通り何物にも惑わされる事なく、私の本質を好きになってくれているとしたら、こんなに嬉しいことは無い。

 そう思ったら居ても立っても居られず、秀正君に抱きついてしまう。

 慌てた彼に微笑んでそっと目を閉じて軽く顔を上げて待つと、少し躊躇った彼はサッと私の髪を上げ、額にそっと軽いキスをくれる。


「今はここまでで……」


 そう言って抱きしめられると、顔が見えなくなってしまった。

 意気地無しって言ってやろうかと思ったけれど、見なくても火照っているのだろう事も解ってはいるし、私の顔も火照っているのだから止めておいた。


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