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 文化祭の二日目は、波乱を予感させるような曇り空だった。

 雨の予報は出ていないものの、宗方君とはいつもより早い時間にホームで待ち合わせて、何本か電車を見送ったりして時間をかけて一緒に登校した。昨日の話からくる不安が消えないのもあって、少しでも長く一緒に居たいと思ってしまったからだった。


「宗方君のお母さんは何時ごろ来るの」


「午前中だと言っていたから、一般公開の始まる時間には来ていそうかな。ごめんね、不安にさせちゃって。姉貴にもフォローをお願いしてあるけど、僕もちゃんと支えるから」


 たぶん、その為に養護教諭と話をしていたのだろうと思うのだけど、どんな事を聞いていたのかは見当が付かない。

 そんなだから、布団に入ってもなかなか寝付けなくって、いろんな事を考えてしまった結果、今日は少し寝不足気味だったりする。しっかりしなければいけないのに、不甲斐ないと思ってしまって、それを悟られての言葉だったと思う。


 最初に考えたのは将来の仕事の事。

 昔は学校で色覚検査があって、入社試験でも当然の様に行われていたそうだ。当然、障害が認められれば落とされる可能性は高かっただろう。でも最近は、色の判断が出来ないと危険が及ぶ仕事でなければ、わりと仕事に就く事が出来ると聞いている。

 選択肢は狭くは成ってしまうが、ゼロではないと説明すればいい。

 飲食店だって、調理は無理でも接客ならできそうだし、コンビニの品出しやレジ打ちなんかもできるだろう。


 炊事が出来ないと思われているかもしれない。

 確かに焼き具合が判りにくい料理は有るし、なんでも作れるとは言えない。それだってちょっと工夫すれば、いろんな料理を作る自信はある。

 唐揚げなんかだったら、家庭用のフライヤーを使っても良いし、二度揚げして余熱を用いて中まで火を通す方法だってある。煮物だったら問題無い訳だし、調味料なんかは容器に名前を書いておけば、間違った味付けにはならないだろう。

 今だって料理はしているわけだし、それでも不安だと言われたなら、お弁当でも作って来る事で納得してもらえないだろうか。


 ままならないのは洋服選びだろうけど、美空先輩に言われた様に分る人に聞けばいいのだ。宗方君に選んでもらっても良いし、写メして里香ちゃんなんかに意見を貰っても良いと思っている。

 色が解ったって、センスが無い人は酷い組み合わせを着るらしいのだから問題ないはずなのだ。今だって、おかしくない組み合わせを写真に残してあって、その組み合わせから外れない様に着まわしているのだから、大丈夫だと言いたい。


 家事だってそれなりに出来ている訳だし……。

 なんて所まで考えが進んだら、『そんな考え、ちょっと前までなら思いもしなかっただろうな』なんて思い至って、いい意味で自分は変われたんだなって嬉しくなった。

 宗方君が声をかけてくれなかったら、あの言葉を伝えてくれなかったら、今の私はいなかっただろう。こんな私にしてくれた宗方君には感謝しきれないし、魅かれる思いは事ある毎に強くなっていく。


「大丈夫?」


 掛けてもらった言葉に応えるでも無く、考え事に沈み込んでしまった私の肩に手を置き、宗方君が改めて聞いてくる。


「大丈夫。なにを言われても答えられるようにってね、昨日からいろいろ考えていたものだから、つい」


 置かれた彼の手に手を重ねて、微笑んで安心させるように答えを返すと、電車がホームに滑り込んで止まる。


「それじゃ、一日楽しみましょうね」


 降りる人の流れに乗って改札へ向かう。大半が同じ学校の生徒なので、手を繋いだりとかは恥ずかしいので普段だったら出来ない。

 けれど、やっぱり不安なんだろう。さっきは迷う事無く手を重ねたのだから。


 顧問の先生に顔を見せると出欠名簿にチェックしてもらえて、そこから自由行動となる。

 今日もお弁当を作ってきているので、展示教室の受付裏で預かってもらって、宗方君の所に向かった。今日はまだ美空先輩には会っていないけど、フォローしてくれるそうなので、どこかで宗方君からの連絡を待っているのかもしれない。

 待ち合わせの場所に行けば、お茶のペットボトルを三本持った彼が渋い顔でスマホを眺めている。どれもキャップが開いていないので、飲んだお茶が渋かったわけでは無いのだろう。


「遅くなってごめんね。その顔だと、早々にご挨拶になりそうだね」


「一般公開まではまだ20分くらいあるのに、正門前に着いたってメールが来たよ」


「お茶だけで良いの? お菓子か何か買ってこようか」


「いや、タイミング見て姉貴が持って来てくれることになっているから」


 ならば大船に乗った気持ちで応対しよう。力を抜いてリラックスして。


 一般公開の放送が入ると直ぐに女性がやって来る。

 美空先輩に似たほんわりとした感じの人で、一見して頭が固いだの厳しいだのとは感じない。うちの母親の方が口うるさい感じに見えるだろう。

 それでも目は私を見てはいない。視線は宗方君に向いていて逸らす事は無かった。


「秀正、早くからごめんね」


「かまわないよ、母さん。彼女が、会いたがっていた水無月さん。水無月さん、これが僕の母」


「初めまして、水無月みしろと言います。宗方君とはクラスが一緒で、夏休みからお付き合いをさせて頂いています」


「秀正の母です。見た感じは可愛らしい普通のお嬢さんなのね」


 その言葉で気付いてしまった。やはりこの人は、私たちが付き合うことに反対なのだと。自分の息子が、「普通の見た目に騙されて、異質な女に付きまとわれている」とでも思っているのだろう事が窺えてしまった。

 横を見れば宗方君が顔をしかめているので、彼も同じ事を感じ取ってしまったのかもしれない。


「こんな所じゃゆっくり話も出来ないだろうから、とりあえず空き教室に移動しようか」


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