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 階段を降り切ると、すでに宗方君は保健室の前に居て養護教諭と何か話をしている。


「宗方君、お待たせ。先生、こんにちは」


「はい、こんにちは。それじゃ、二人とも気を付けて帰りなさいね」


「「はい」」


 養護教諭は直ぐに保健室に入ってしまったので、私たちは寄り添うように昇降口へと向かって外に出た。昇降口から正門にかけては生徒がたくさん残っていたけど、特に声をかけられることも無かったので、いつも通りに駅に向かって歩き出す。


「この後、僕は時間があるんだけど……。水無月さんはどうかな」


「私も予定は無いよ。そうだね、どこかに寄ろっか」


「帰り道にある、ちょっと古びた感じの喫茶店に入ってみたいんだけど」


「喫茶店かぁ。ちょっと敷居が高いかも。でも、宗方君と一緒なら大丈夫かな」


 私の家の最寄駅で一緒に電車を降りて、ちょっと遠回りの道を歩いて行くと、目的の喫茶店にたどり着く。パッと見は営業していない様にも見えるけど、扉には『営業中』の札が掛かっているので大丈夫なのだろう。


 カラァンっと扉を鳴らして店内に足を踏み入れると、私たちの他にお客さんは見当たらない。店内は古い映画とかに出てきそうな良い雰囲気が広がっていて、カウンター席が四脚と二人掛けのテーブルセットが六セットある。

 コーヒーチェーンなんかに比べれば、店内はとても小さいが決して狭くは感じない。

 カウンターから離れたテーブル席に着くと、メニューを広げて二人して一緒に覗き込んで注文を決めていく。さすがに喫茶店だけあってコーヒーの種類が多いけれど、品書きの後ろには味の特徴が書いてあるので、チョイスし易かった。

 顔を上げてカウンターを見ると、年配の店員さんがすぐにお水をもってやって来る。


「ケーキセットを二つ。僕はベイクドチーズにモカで」


「私は、モンブランとお勧めブレンドでお願いします」


 しばらく待つとコーヒーの良い匂いが立ち込めてきて、カウンターに目を向ければサイフォンの中でコーヒーが立ち上がって行く。

 運ばれてきたコーヒーの香りを堪能してから一口含むと、ほのかな酸味があったので甘いケーキには合いそうだった。後味がさっぱりしていて、口に残らないのも好みと合う。

 ケーキは栗のコクと味がしっかり出ていて、甘さ控えめのスポンジとの相性も良かった。宗方君のチーズケーキも美味しそうだったけど、さすがに一口頂戴とは恥ずかしくて言えない。


 ケーキを食べ終わったところで、気になった事を聞いてみる事にした。


「ところで、保険の先生とはなにを話していたの」


「あっと。その前に聞いてもらいたい事があるんだけど、いい?」


 なんだろうと黙って頷くと、どことなく話しにくそうな表情で話し始める。内容は宗方君のお母さんのことだった。


「姉貴から聞いているかもしれないけど、家の母さん頭が固いんだ。明日会ってもらう事になっているけど、もしかすると目の事で酷い言葉を吐くかもしれないんだ」


「別れろとか言われているの?」


「いや。何か言ってきてもおかしくないのに、僕には何も言ってこないんだ。姉貴にも話していない様だし……。だから、水無月さんに失礼な事を言いだすんじゃないかと心配なんだよ」


「親の反対を押し切ってまで、私みたいなのと付き合うのは良くないんじゃないかなと思うんだけど」


 別に悲観している訳では無いけれど、親として心配しているだろう事は理解するし、なにより宗方君に迷惑はかけたくないので、そんな言い方になってしまった。

 それなのに彼はため息をひとつ吐くと、私の手を握って訴えかけてくる。


「前にも言ったけど、たかが色の区別がつき難いだけで自分を貶めないでほしいな。かわいくて真面目で、前を向いて生きようとする君が眩しくって、益々好きになったんだから、そんなこと言わないでよ」


「うん、ごめんね。明日はどうなるか判んないけど、ちゃんと認めてもらえるように頑張るね」


 本当に恥ずかしいなぁ、なんて思ってカウンターを横目で見ると、店員さんはこちらの話など興味ありませんよって感じでサイフォンの手入れをしている。さりげない配慮に感謝だ。

 結局、養護教諭と何を話していたのかは聞きそびれてしまったけれど、今聞いて良い話ではないのかもしれない。

 彼のお母さんのイメージは、宗方君や美空先輩のように優しい感じの、おっとりした話しかけやすそうな人だと思っていた。それなのに頭が固いだのと教えられれば、背が高くって目付きのチョット厳しいイメージの人に一転してしまう。


 怖い人なのかなぁ。拒絶されたら、やっぱり嫌だな。

 だからこそ引いてはいけない。

支えてくれる人がいるのだから、ちゃんと目を見て話しをしよう。ちゃんと話を聞いて、その上で話を聞いてもらって、すれ違わない様に妥協点を探して折り合いを付けたい。

 だって、こんなに思ってもらっている宗方君と別れるのは辛いもの。

 こんなにも心が求めてしまっているのだから、別れるのはどうしても嫌だもの。


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