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 お昼を食べに宗方君と向かったのは、四階にある空き教室。飲食などで自由に使える教室のひとつで、ふたつ隣りが写真部の展示教室になっている。

 わざわざ写真部の部員に見られそうな場所を選んだのは、けっして優越感などでは無く、お湯が欲しかったからだと説明された。そう、「お弁当にも暖かいお味噌汁が欲しいよね」って私が言ってしまったせいで、ポットを持っている写真部の近くに来ざるを得なかったのだ。


「水無月さん、お待たせ」


 くっつけた机の上にお弁当を広げていると、宗方君がお湯を入れたお味噌汁をもって戻って来る。


「ごめんね、余計な事を言ったばっかりに。恥ずかしい思いをさせちゃったよね」


「恥ずかしくは無いよ。付き合っている事も皆に知られているわけだし、お弁当を作ってもらった事は気付かれていないからね。お揃いのカップだったら気まずいけど、違う柄を用意したから問題ないし」


 母にも少し手伝ってもらって二人分のお弁当を作って来たわけで、お湯を用意できると聞いていたから味噌玉を作ってもらった。カップは宗方君が家から用意してくれて来たので、その辺は織り込み済みだったみたいだ。


 文化祭なので飲食関係のお店も多く出ているけれど、タイミングが悪いと待たされたり食べられなかったりするらしい。そもそも、ガッツリと食べられる物など出すお店自体が無い。

 それをお姉さんから聞いてきた宗方君が教えてくれたので、私からお弁当を作って来る事を提案して今に至るのだった。

 ふりかけを使った混ぜ込みおにぎりに、ミートボールや卵焼き、冷凍物のチキンカツとブロッコリーにプチトマト。こんな簡単なお弁当で申し訳なかったけれど、お味噌汁があるおかげでちゃんとしたお弁当に見えなくもない。おにぎりは一緒くたに持ってきたけれど、弁当箱はちゃんとふたつに分けてある。

 さすがに、ひとつの皿を突き合うのは躊躇いがあるし、知り合いにからかわれるのは得策でも無い。


「冷凍食品とかで手抜き感満載だけど、何か食べられない物とか入ってなかったかな」


「柑橘系以外は好き嫌いが無いから、大丈夫だよ。てか、じゅうぶん豪華だよ。おにぎりだって味付けを変えてあるし、ぜんぜん手抜きなんかじゃないよ」


「ありがとう。それじゃ、いただきます」


「いただきます。――うん、美味しい」


 どうやらお口に合った様で、嬉しい限りだ。

 午前中にお姉さんと話したことを、聞かせてあげたり本人の口から聞いてみたりと、あっと言う間に一時間が過ぎて食事も残さず食べ終わった。

 飲み終わったカップはウェットティッシュで軽く汚れを落として、ジッパー付きのビニール袋に入れてから宗方君に返すと、宗方君も同じように拭いてからバッグにしまい込んでいた。


「それじゃ、私は部活の方に行くね。宗方君も撮影がんばって」


「うん、水無月さんも頑張ってね」


 パパッと弁当箱をまとめてバッグに入れて、彼に手を振ってから美術部の展示教室に向かった。


 午前中は、抽選会や依頼の受付などで忙しかった様だけど、私の受け持った時間帯は閑古鳥が鳴いていた。お昼時なのもあって、飲食関係のクラスで列を成しているのかもしれない。

 覗きに来る生徒がいないわけでは無いけれど、展示されている絵を見るわけでも無く受付まで来て、無料配布の栞を持って行く程度だった。

 その栞は部員の子が描いた物で、アニメなんかの二次作が多く作られている。明日は一般公開もあるので、遠藤さん達の描いた風景画や肖像画なんかの栞も用意されているけれど、こちらも名画の模写などが多い。

 交代の時間になってやって来た先輩にその話を聞いたら、微笑んで肩を叩かれる。


「毎年そんなもんだよ。明日だって部員の保護者やOB・OGが来るくらいだから、基本暇じゃないかな。だから貴女も、好きなものを好きなように描いて、来年はいっぱい展示できるようにね」


「はい、がんばります。とは言っても、まだちょっと描きたいものが定まらないんですよね。子供向けに塗り絵でも作りましょうか」


「あぁ、良いかも。即興で色付けのパフォーマンスくらいなら、私でも出来そうだわ」


 私だって部員になっていなければ寄らなかっただろうし、宗方君と知り合っていなければ写真部の展示だって行かないだろう。だからこう言った展示が暇なのは納得もできるのだ。

 そう考えると、文化祭で部活の展示をやる意味がよく解らなくなってしまう。やっぱり保護者向けのアピールなのだろうか。


 この後の予定が全くないので、依頼作業の様子を見に行ったものの、あらかた終わっていて書き方の参考になるものではなかった。それでも一年の子が声をかけてくれて、初めてパソコンで絵を描かせてもらった。

 専用のペンを使って描くのだけど、カツッとした固い感触と音に力加減が解らなくって、手が震えてしまってウネウネした線になってしまう。ガラス面に描くものだから、狙った所に線が描けなくってなかなかに難しい。

 そんな悪戦苦闘する姿を皆に笑われてしまったけれど、それはバカにした笑いでは無くって、仲間に対する暖かなものだと自然に感じたのだった。


 それにしても部分的に拡大して描き込めるし、透明な紙を重ねるように分けて描けるなど、紙と鉛筆ではできない機能が満載で羨ましい。

 今なんて、描き進めれば気になるところが出てきて、消していくと余計なとこまで消しちゃったり、紙がしわくちゃになったりしているのだから。もう少し描きたいものが決まってきたら、そっちに転向するのを考えてみるのも良いかもしれない。

 なにせ聞いた話ではスマホとかタブレットでも、これと似たような感じで描けるそうなのだ。私の持っているスマホでは画面が小さすぎるけど、リビングに置いてあるタブレットだったら描けそうだなんて思い付いてしまった。


 今日はトラブルもなく、時間通りに文化祭一日目が終わった。

 やって来た顧問の先生に挨拶をして廊下へ出ると、皆と別れて保健室へ向かって歩き出す。なぜ保健室かと言えば、そこの前で宗方君と待ち合わせをしていたからだ。


「浮かれた気分なのが多いから、二番目に安全な保健室の前で待ち合わせだよ」


「そんな心配は無用だよ。私なんかに声掛けるのは宗方君ぐらいだと思うもん」


「そんなことは無いから。知らないだろうけど、クラスでだって未だに『まだ別れないのか』とか言われてるんだからね。もう少し、自分が可愛い女の子なんだって自覚しないと」


 そんな恥ずかしい事を、直接言われていたら倒れていたかもしれない。ラインのやり取りだから何とか正気を保っていられたけれど、たぶんだらしのない顔をしていたはずなのだ。

 その時正面に居た遠藤さんの、呆れた目がそれを物語っていたのだから。


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