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「宗方君もそうだったんですか?」


「秀正は読書に走っていたな。伝記や神話だとか小難しいものを読んでいたよ。そう言えば、自分でも書いていたっけ。すんごい駄作だったけどね」


「小説を書いていたんですか! え? ジャンルは何ですか? ちょっと想像が出来ませんけど、機会があれば読んでみたいかも」


「なんかファンタジー系のストーリーだったけど、中二病丸出しのセルフに笑いが止まらなくって、最後まで読ませてはもらえなかったっけ」


 ちゃんと覚えておこう。部屋に行く機会があったら、見せてとお願いすれば渋々でも見せてもらえるだろう。たぶん、黒歴史だと思っていても大事に残しているだろうから。


「あなたはどうなの? 過去に好きだった子とか彼氏がいたとかさ」


「えっと、彼氏がいた事は有りません。男の子は意地悪をしてくる人としか見ていなかったので」


 中学から男の子とは出来る限り接点を持たない様にしていたし、年齢的なものもあるだろうけど、からかわれる事も無かった。それでも、小学校の頃は馬鹿にされたり除け者にされたりしていた。幼稚園の時には、当たり前が通じない私に対する言動は激しいものがあった。

 相手にはいじめの意識は無かったのだろうけど、他人との間に壁を作るに有り余る理由となったのも事実だ。


「なら、どうして秀正と付き合う事になったの? 私がいうのも変だけど、顔も頭も良いわけでは無いし、無差別に人を思いやれるほど出来た人間でも無いじゃない」


「顔も悪くは無いと思いますよ、付き合うまでは気付きませんでしたけど。えっと、謝罪の手紙と写真をもらったんです。私に関わっても良い事などないって手紙に書いたのに、無神経な事をしてごめんって。添えられた写真に魅せられて、手紙に有った『僕の切り取る世界と君の見る世界の共通性』に興味が湧いてしまってですね」


 そこまで話すと、プッと吹いて「キザだねぇ」と呟かれる。それでも火照る頬を意識しつつも話を続ける。


「それまでの私は色とは不変なものだと信じていて、それを理解できない私は人より劣っていると思ってました。それなのに『色なんて不確定なものなのに、それに囚われすぎて下を向くのは良くない』なんて言われて、今まで誰も言ってくれなかったその言葉に、私は物凄く救われたんです」


 そう、救われた。

 初めて人として対等なのだと認めてもらって、沈んで持て余していた気持ちを救い上げてもらったのだ。それだけでも嬉しかったのに、可愛いだの勿体ないだのと持ち上げられて、舞い上がっていたのかもしれない。


「じゃぁ、恋愛的な気持ちではないんじゃないの? 途中で重くなったりはしないかな?」


「ちゃんと恋愛的な好きだと思います。一緒に居たいと思いますし、話をするのも楽しいし、好みが一緒のところがあると嬉しいです。それに、手を繋ぐだけで幸せな気持ちになれますから」


「いきなり惚気られるとは……」


 一方的に支えてもらいたいわけでは無くって、彼とならば価値観を共有していけると思った。一方的な憐みとかではなく、彼ならば場面場面で選択肢を広げてくれると思った。障碍者として見られるのではなく、同じ人間として接してくれると思った。

 なにより、自分で作ってしまった檻から救い出してくれた、私にとってのヒーローなのだから、惚れないわけは無い。だから、この感情は恋だと信じている。

 そして、別に惚気たつもりは無いのだけど、惚気と捉えられてもおかしくない事を言った覚えがあるので誤魔化す。


「惚気とかではなくてですね。そもそもは先輩が聞いてきたことに、素直に答えただけじゃないですか」


「じゃ、これも言っていいかな。色が不確定だってのはね、ちょっと前に私が言った言葉なんだよ。頼まれた通りに絵を描いて色を付けたのに、『こんな色では頼んでない!』なんて言われることが多くってね。モニターの設定とかもあるんだろうけど、『数値的基準が出せない以上は不確定だよね』って秀正に愚痴った事があるんだ」


 それでも、その言葉を選んで私に伝えてくれたのは彼だ。


「それでも、伝えてくれた言葉は気持ちが傾く切掛けだっただけです。結果として殻を割って救ってくれたのだから、私にとっては掛け替えのない王子様? ヒーロー? みたいな人なんです。だから好きだと、特別なんだって言えるんです」


「だってさ。嬉しい? 恥ずかしい? 重い? でも気分は最高でしょ」


 そう言った美空先輩の視線は私の上を通り越していて、まさかと振り向いた先には宗方君が立っている。ブワッと顔から火が出るほど恥ずかしい私をよそに、頬を掻きながら答えを返してくれた。


「嬉しいです。恥ずかしいです。でも重くは無いです。僕の独占欲の方が重いと思うんだけど、水無月さんはどうですか」


「重くは無いです。そう思ってもらえて、嬉しいです」


「ふふん。じゃ当番までの一時間は、お互いのその独占欲を満たさせてあげようじゃないか。私は消えるから、二人でお昼食べておいで」


 ガタッと椅子を鳴らして立ち上がると、美空先輩に頭を下げて挨拶をする。


「失礼します。あの、今日はありがとうございました、いろいろと」


 笑って手を振り答える先輩を残し、宗方君とどちらともなく手を繋いで、メイド喫茶を後にする。


「姉貴に呼ばれて行ってみれば、こんな事になっていてビックリした」


「仕組まれたのかな? 新手のいじわる? でも、反対されていない様で安心もできた」


 思う所が無い訳ではないけれど、反対されることが一番こたえるのも事実なので、正直なところホッとした。


 明日は両親が学校にやって来る事になっている。

 娘の初めての高校での文化祭を見に来るのだけれど、宗方君が挨拶したいと言うので引き合わせる予定だった。宗方君の方は、仕事が忙しいそうでお母さんしか来ないそうだけれど、私もちゃんと挨拶をさせてもらう事になっている。

 お姉さんと同じように受け入れてもらえると良いな、なんて考えるだけ無駄かもしれないけれど、不安はあるのだからしょうがない。


 でも、だからこそ両親にはちゃんと紹介したい。

 こんな素敵な人を好きになれましたと。こんな素敵な人に好きになってもらえましたと。そして、認めて応援してくださいと、はっきり伝えようと思った。


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