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 吹奏楽部の演奏は、在校生を意識したからなのかポップスやアニソンが多かった。

 それをカルテットやクインテットで演奏するので、メンバーが入れ代わり立ち代わりして、気軽に楽しめるものになっていた。遠野さんはメンバーも替えながら五曲演奏していて、緊張よりも楽しそうな感じが伝わってきて、聞いていて気持ち良いものだった。


 ユーフォがよくって、中学まではユーフォを演奏していたそうだけど、高校から始めたホルンは随分と様になっていた。同じ金管だからとは言っても、指使いだって違うだろうし、すごく練習したんだろうなと思ったら、思わず目元が緩んでしまった。

 最初は最前列にいた私に驚いた顔を見せたけど、最後の演奏が終わると笑顔で手を振ってくれて嬉しかった。

 パンフレットを見ると午後はゲリラ的に演奏を行うようで、そろっての演奏は明日の午後にならないと聞けないらしい。目的が果たせた事もあって、このあたりで体育館を出る事にする。


「この後の予定は有りませんので、先輩の行きたいところへお供します」


 お昼の時間も含んでだけど、十三時までは時間が開いてしまったので美空先輩に声をかけると、しばし考えてニッコリ笑う。


「私のクラスで、楽しいお茶でもしましょうか。黒歴史じゃかわいそうだけど、グレーくらいなら教えてあげられるよ」


 願ってもない申し出に二つ返事で即答すると、そのままメイド喫茶へと連れて行かれてしまう。


「「おかえりなさいませ、ご主人様」」


 などと迎えてくれるのかと思ったら、普通に案内されるだけだった。もっとも、お揃いのメイド風衣装に身を包んだお姉さま方は、綺麗にお化粧をしていて大人の女性に見える。美人さんが多くて少し気おくれしてしまった。

 まだお客さんも少ないので、奥の方の席に座って注文は美空先輩に一任してしまおう。


「さて、何から話してあげようかな。あ、スマホみせてよ」


 スマホと言うよりお揃いのチャームを確認したいのだろうと、ポケットから取り出したスマホを「どうぞ」と言ってテーブルの上に置く。

 先輩はそれを手に取り、ケースやチャームを念入りに観察して返してくれた。


「本当にケースの色が違うだけなんだね。ところで、ケースの色は自分で決めたの?」


「はい。一番目につき易い色だったんで、女の子の持つ色として変ではないか、母に相談したうえで決めました」


「チャームもあなたが選んだって聞いたよ」


 確かに三毛猫にしたのは私だけれど、猫のチャーム自体を選んだのは宗方君なのだから、彼が選んだと言った方が良いように思う。


「私はもう少し大人びた物を考えていたんですけど、宗方君が牛だの猫だのを選ぶものですから、それなら三毛猫が良いなって選んだんですよ。男の子が付けるにはかわいすぎると思うんですけど」


「秀正はかわいいものが好きだからね。小学生の頃はかわいい系のガチャポンにハマっていたし、中学ではアニメキャラとかのデフォルメフィギュアにハマってたよ。いまだにタブレットの待ち受けは、そっち系だったはずだけど……。見せてもらった?」


 デートの時に見たそれは、ちょっと前に流行っていたアニメキャラの女の子だったので、苦笑いをしつつ肯定する。


 私にはそっち系の要素など欠片ないのだから、今はそう言ったものから卒業しただろうか? それとも趣味は趣味として、可愛い系の女の子は今でも好きなのだろうか?

 それでも彼からの称賛は『かわいい』なので、彼の眼にはもしかするとかなり補正された私が映っているのかも……。


「そのうち、コスプレとかお願いされないでしょうか」


「無いんじゃないかな。リアルと趣味は分別つくはずだから」


 冗談で聞いてみると、着てくれるなら私が見たい等と笑って返されて、それでも宗方君の性格から否定(っぽい事)はしてくれた。本人には冗談でも言わないように注意しようと思う。もちろん、美空先輩にも。


「彼が写真を始めたきっかけって、知っていますか?」


「私の真似して絵を描いたりしてたんだけど、からっきしでね。見かねた父が祖父の形見だったカメラを与えたのがきっかけだったはずだよ。もっとも、ここまでのめり込むとは誰も思わなかったけどね」


 そんなに古いカメラには見えなかったから、よっぽど確りと手入れをしているのだろうと思う。それだけ愛着もあるのだろうし、物を大切にする精神があるのだろう。

 物だけでなく、思い出とかも大切にする方なのだろうか。たとえば元カノさんとかとの彼是とか。


「その。彼女がいたとか、そういった事は聞いたことありますか」


 すると、プッと吹き出して意地悪そうな顔を向けてくる。


「やっぱり元カノとか気になるんだ」


「それは気になりますよ。二股とかは無いと思いますが、比べられちゃうんじゃないかと思うと、けっこう自信が無くって」


「だよねぇ、気になるよねぇ、不安だよねぇ。でも安心していいよ。つい最近まで人生=彼女いない歴だったんだから。まあ、先を越されてちょっと憎らしいとは思っているけどね。それに、二次元と比べるほどバカではないだろうから、そこも心配しないで良いと思うよ」


 ならば、私が彼とするいろいろな初めては、彼にとっても初めてなのだろう。そうだったら嬉しいなと、思わず顔がほころんでしまった。


「美空先輩が絵を描き始めたきっかけはなんですか?」


「私? うちは母がかなり厳しい人でね、ゲーム機とかは買ってもらえなかったんだよ。昼間の外遊びはさせてもらえたけど、家に帰ったら勉強勉強でねぇ。そんな中、独りで出来る事と言ったら答案用紙の裏なんかに落書きするくらいだったわけ」


 私の家には未だにゲーム機は無くって、スマホを買ってもらってから里香ちゃんから勧められて初めてやったくらいだ。もっとも誘われたから始めただけで、のめり込むことも無ければ課金なんかもしていない。

 クラスの友達なんかは幼い頃からゲームに親しんでいたようだけど、私は興味が無かったので無い事自体に不満を抱いた事も無かった。

 そう言えば、空いた時間に星の本や神話を読むのが好きだったな。今思えば、それが空いた時間の過ごし方だったのかもしれない。


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