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 二学期が始まったその日、教室に入ると少なからぬざわめきが起こった。

 陰キャな私が容姿だけでも脱却しようと、無様に足掻いた様に見えているのだろうと思っていた。敢えて過去形にしたのは、足掻いている様には見られていなかったからだ。


「水無月さん、おはよう。髪切ったんだね、全然いいよ」


「かわいい、かわいい。前から思ってたんだよ、表情隠すのは勿体ないってね」


「せっかくだから、お化粧もする? なんだったら教えてあげるよ」


 そんな風にクラスの女子に話しかけられたりして、思わず漏れてしまった笑顔にシャッター音が重なる。音の方を見れば、思った通り宗方君がカメラを構えていて、その後も何枚か撮られてしまった。

 女子から非難めいた言葉が出る中を近づいて行くと、彼はカメラを下ろして笑顔を向けてくれる。


「水無月さん、おはよう。いい笑顔をありがとなんだけど、もう一枚いいかな」


 そう言って今度はスマホを取り出すと、レンズをこちらに向けてくる。


「おはよう、宗方君。待ち受けとかにしないのなら良いよ」


 女子に受け入れてもらったのが嬉しくって、笑顔で軽口をたたいてしまうとパシャリと音がする。確認して直ぐしまった事から半目とかではなかった様なので、できれば里香ちゃん達にも見せたいから、後でメールででも送ってもらおうと思う。


「さて、先生が来る前にカメラを部室に戻してこなきゃ」


 そそくさと出て行く宗方君を送って自分の席に着くと、女子たちが集まってきて質問攻めにあってしまった。


「あんなのにいきなり写真なんか撮られて、気持ち悪いとか思わないの」


「思わないよ。写真部なんだから撮るのは部活動の一環なんだろうし、綺麗に撮ってもらえたなら欲しいとも思うけど」


「スマホでも撮ってたじゃない。売りまわるとか考えなかったの」


「私の写真なんか売れないでしょ。それに、そんな事はしないと思うよ」


「解んないじゃない。オタクだって話だし、スマホに猫なんかつけちゃって、何考えてるか分かったもんじゃない」


 教科書なんかを机に入れながら質問に答えていて、写真を撮られることに対する考え方の違いを痛感していた。それに、彼の事を勘違いしている事を訂正する言葉を探していて、少しばかり的外れな回答をしてしまう。


「スマホにネコは変かな? 私も付けてるけど。ほら」


 取り出したスマホを見せると、いきなりピタッと質問が止んでしまった。どうしたのだろうと見回すと、質問の内容が変わった。


「今まで付けていたっけ」


「遅くなったけど、誕生日のプレゼントでもらったの」


「宗方君も同じのを付けていたけど、気付いたかな」


「私の方が可愛いけど、彼のも可愛かったよね」


「パッと見同じに見えたけど、見間違いだったか、な?」


「手作りだから、少~し違うんだよ」


 まだ質問は続きそうだったけど、先生が入ってきてお開きになった。

 残念な事に宗方君はタッチの差で遅れてきて、ホームルームの前に怒られてしまった。


 休み時間は朝の続きを聞かれる事もなく、一学期と変わらないでいたけれど、お昼をいつもの様に外へ行こうとしたら、クラスの女の子に呼び止められた。朝の続きかもとは思ったけど、せっかく誘ってくれたのだから一緒の食べるのも悪くは無いと思っていたら、里香ちゃんがいきなりやって来て詰め寄ってくる。


「なんで写メ送ってくんないのよ」


 なにか写真をお願いされただろうかと首を傾げつつ、里香ちゃんが手ぶらではないのを確認して、一緒に食べるか誘ってみた。周りの子も反対する感じが無い中、私の隣に座った里香ちゃんが、すかさず手を出す。


「とりあえず、プレゼント見して」


「はい」


 プレゼント交換をした事はラインで報告してはいたけど、見せていなかったからスマホごと渡す。

 里香ちゃんは受け取ったスマホを目の高さに上げて、チャームをブラブラさせながら横目で私を見てくる


「ふ~ん。で、あいつも同じのを付けていると」


「うん。一緒に買って、その場で着けたからね」


「てか。お揃いの物を買うって、小学生か!」


「え? そういうものなの?」


 周りを見ると、黙って聞いていた子達は複雑そうな顔で、曖昧に頷いてくる。


(どうだろう、半々くらいの賛成率かな?)


 それにしたって、本人同士が良いと思っているのだから、そこには突っ込んでほしくない。里香ちゃんから彼氏ができたって話、いままで聞いたことが無いんだから。


「もしかして、水無月さんは宗方君と付き合っているの?」


 それまで黙って成行きを見守っていたクラスメイトから聞かれて、今の会話からよく判ったものだと感心する。答えるのは恥ずかしいけれど、誤魔化す話でもないのでハッキリと答えを述べる。


「うん。夏休み中に公園で偶然出逢って、聞きたい事も有ったから少し話をしてね。ちゃんと前を向いた方が良いよってアドバイスを貰ったから、こうして髪を切ってみたの。それで休み中に何度か会ったりして、こうして付き合う事になったんだ。でもどうして?」


 登校してから今まで、話をしたのは朝のアレだけだったし、特に意識したりはしていなかったと思っている。それなのに、付き合っている事や相手が宗方君だなんて、どうやったら解るのだろうか?


「だって同じ物を持っていて。思い返せば、朝のやり取りだって自然だったし。後ろから見てても、席替えが終わった辺りから随分嬉しそうだったなって思っていて。今の話を聞かされたら疑いようが無いなって、腑に落ちた感じ?」


 そう、新学期になったので席替えをした。

 人目を気にせずに居られるので、本当は窓際の後ろが良かったのだけど、一番前の席になってしまった。それでも隣が宗方君だったので、場所の希望なんか吹き飛んでしまって、たしかに午前中はウキウキしていた。

 それがバレバレだったのなら、物凄く恥ずかしい。


 ふと気付くと、教室がずいぶんと静かだ。人はそれなりに居るのに、皆がこちらの話に聞き耳を立てている様な感じを受けてしまう。

 いや、自意識過剰になっているだけなのだろう。こんな地味な私とオタクと言われている宗方君との恋バナなんて、興味を抱くのは幼馴染の里香ちゃんくらいだろうから。

 そもそも食事中なのだから、こんなものなのかもしれない。今まで外で食べていたから雰囲気そのものが分っていなかったりする。


「宗方君には、私みたいなのは似合わないかな」


「え? 逆じゃないの?」


「ほんと? 似合っているって言われるのも恥ずかしいけど、なんか嬉しいな」


 あんたなんかじゃ不釣り合いだ、なんて言われたらどうしようかと思っていたら、お似合いだなんて言われてしまって、頬が熱くなってしまう。


「いや、あの、向こうがって……。ま、いいか。嬉しそうだから」


 お昼休みの終わり間際に戻って来た宗方君は、教室に入ったところで数人の男子に背中を叩かれていた。なんだかんだ言って、宗方君は友達が多いのだなって感じた。


「遅かったね。いつもはもう少し早いよね」


「それがさぁ。顧問が先輩たちにバラしたみたいで、『部室に女の子を連れ込んでいるんじゃねえよ』って絡まれてね。予鈴でやっと解放されたんだ。でも、彼女のいない人のやっかみだから、水無月さんが気にすることは無いからね」


「うん、ありがとう。こっちは里香ちゃんが来ていて、いろいろ聞かれていろいろバレちゃった。でも、お似合いだって言ってもらえたの」


 お昼のやり取りを聞かせると、彼はチラッと後ろを確認してため息交じりに小声で呟く。


「逆って言うのは、僕が水無月さんに釣り合わないって意味だと思うよ」


「そんな事ないよ。いろいろ背中を押してもらって、私うれしいもん」


「僕の方こそ、ありがとうなんだけど……。嬉しいやら恥ずかしいやら、皆の視線が痛いやらで、少し居た堪れない」


 痛い視線って誰からだろうと後ろを見回すと、大半の視線が私たちに集中していて、確かに居た堪れないかもしれない。

 柄にもなくはしゃいでしまったので、迷惑だったのだろうな。気を付けるようにしないとね。


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