妹「私は運命も蹴っ飛ばすの」 (一時間半でチャレンジ!)
*約1時間半で書き上げた自己満足作品です。ご了承ください(-_-;)
今朝は割と早く目が覚めた。
昨日はあんなに寝付けなかったのに、その記憶はどこかへ失せていく。
起きてしまったのなら仕方ない。
向かうべきはキッチン、成すべきは料理、満たすべきはこの胃袋だろう。
◇
「おはよ、マサ兄」
俺を迎えたのはデザイナーズの椅子、ではなくて一人の少女だった。
「なんか今日早いね? この『らしくなさ』といったら――――――マサ兄?」
彼女の言葉は暫く耳に入ってこなかった。それどころか手足すら震えて固まったまま。
目の前の少女はこちらを不思議そうに覗き込んでいる。
「お前・・・チサか・・・?」
ようやく開いたこの口は乾いている。
「それ以外何だっての? 妹の顔なんて飽きるほどには見てるでしょ?」
しかしながら少女の言葉は到底信じられない。
無理もない。目の前の彼女、市原チサは既にこの世にいない。
つい昨日、通夜が行われたはずなのだから。
「お前・・・一週間前に・・・」
「うん、死んじゃったみたいね」
妙にあっけらかんと返された。
「私はね? ゴキブリだろうが運命だろうが蹴っ飛ばしてやる、そう決めてるの」
そう言ってトーストを頬張る姿は確かにデジャヴで溢れている。
信じられないが、彼女は幽霊でも悪魔でもなく、物体個体としての市原チサらしい。
テーブルについてみても疑念は早々晴れてはくれない。
しかし目の前の少女は顔を掻いたら茶髪が揺れて、目玉焼きにはカルダモンをかけている。
どう見ても俺が知る妹の在り様そのものなのだ。
「本当にチサなのか?」
もう一度尋ねてみる。
「そんなに信じらんない?」
当たり前だろう。あの事故の直後ならまだしも―――こんな奇跡は賞味期限切れもいいところだ。
思考をかき混ぜているとチサは徐に両脚を食卓の上に乗せた。
黒のニーソックスに包まれた二肢が艶やかに組まれる。
「さっきも言ったけどね? 私は運命も蹴っ飛ばすの―――そーゆー能力なの」
「んな唐突に信じられるかよ」
「そう? じゃあさ、もっかいあの事故を思い出そう?」
「なんでまた・・・・・・」
嗚呼、いつから妹は中二になったのだろう?
「きっかり一週間前だったかな? とっても晴れてたと思うな!」
「・・・・・・確かに」
「そんで私がマサ兄に『散歩しよ』って」
「それで大通りに出た・・・・・・」
「その時にトラックが突っ込んできたんだよね? 運転手が飲酒とか、有り得ないよね~」
「なんで知ってんだか・・・・・・」
「じゃあさ、その時マサ兄はどうしたの?」
「それは―――――――」
言葉が絶える。
あの瞬間の記憶が途切れていたのだ。
「助けようとしてくれたんだよね? 私をかばおうとしてさ」
何も言えない。
そうだ、あの時俺はチサを助けようとして――――
「―――なんで、俺もチサも生きているんだ?」
帰ってきた言葉は淡泊に
「まとめて蹴っ飛ばしてやったの」
もう訳が分からない。
この世界に疑心暗鬼を生じそうになる。
相も変わらず妹は吞気にサラダを頬張っている。
いい加減脚は戻すべきだろうに。
「別にいいんじゃない?」
チサは微笑みを浮かべながらに言う。
「例えここが夢でも天国でも、幸せならそれで充分かもよ? まあ現実なんだけれども」
「そんなものなのか?」
「だーかーら! いいんじゃない、こんな奇跡があってもさ」
そう言って脚を組み替える妹は、もしかしたら小さな神様なのかもしれない。
無理やりであってもこれはハッピーエンドなのだろう。
そんなことを思いつつ、俺はホットミルクをすするのだった。
これもまた「日常」に違いない。