表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

妹「私は運命も蹴っ飛ばすの」 (一時間半でチャレンジ!)

作者: 起石 隼

*約1時間半で書き上げた自己満足作品です。ご了承ください(-_-;)

 今朝は割と早く目が覚めた。

昨日はあんなに寝付けなかったのに、その記憶はどこかへ失せていく。


起きてしまったのなら仕方ない。

向かうべきはキッチン、成すべきは料理、満たすべきはこの胃袋だろう。




「おはよ、マサ兄」



俺を迎えたのはデザイナーズの椅子、ではなくて一人の少女だった。


「なんか今日早いね? この『らしくなさ』といったら――――――マサ兄?」


彼女の言葉は暫く耳に入ってこなかった。それどころか手足すら震えて固まったまま。

目の前の少女はこちらを不思議そうに覗き込んでいる。


「お前・・・チサか・・・?」


ようやく開いたこの口は乾いている。


「それ以外何だっての? 妹の顔なんて飽きるほどには見てるでしょ?」


しかしながら少女の言葉は到底信じられない。

無理もない。目の前の彼女、市原チサは既にこの世にいない。

つい昨日、通夜が行われたはずなのだから。


「お前・・・一週間前に・・・」


「うん、死んじゃったみたいね」


妙にあっけらかんと返された。


「私はね? ゴキブリだろうが運命だろうが蹴っ飛ばしてやる、そう決めてるの」


そう言ってトーストを頬張る姿は確かにデジャヴで溢れている。

信じられないが、彼女は幽霊でも悪魔でもなく、物体個体としての市原チサらしい。



テーブルについてみても疑念は早々晴れてはくれない。

しかし目の前の少女は顔を掻いたら茶髪が揺れて、目玉焼きにはカルダモンをかけている。

どう見ても俺が知る妹の在り様そのものなのだ。


「本当にチサなのか?」


もう一度尋ねてみる。


「そんなに信じらんない?」


当たり前だろう。あの事故の直後ならまだしも―――こんな奇跡は賞味期限切れもいいところだ。

思考をかき混ぜているとチサは徐に両脚を食卓の上に乗せた。

黒のニーソックスに包まれた二肢が艶やかに組まれる。


「さっきも言ったけどね? 私は運命も蹴っ飛ばすの―――そーゆー能力ちからなの」


「んな唐突に信じられるかよ」


「そう? じゃあさ、もっかいあの事故を思い出そう?」


「なんでまた・・・・・・」


嗚呼、いつから妹は中二になったのだろう?


「きっかり一週間前だったかな? とっても晴れてたと思うな!」


「・・・・・・確かに」


「そんで私がマサ兄に『散歩しよ』って」


「それで大通りに出た・・・・・・」


「その時にトラックが突っ込んできたんだよね? 運転手が飲酒とか、有り得ないよね~」


「なんで知ってんだか・・・・・・」


「じゃあさ、その時マサ兄はどうしたの?」


「それは―――――――」



言葉が絶える。

あの瞬間の記憶が途切れていたのだ。



「助けようとしてくれたんだよね? 私をかばおうとしてさ」



何も言えない。

そうだ、あの時俺はチサを助けようとして――――


「―――なんで、俺もチサも生きているんだ?」


帰ってきた言葉は淡泊に


「まとめて蹴っ飛ばしてやったの」


もう訳が分からない。

この世界に疑心暗鬼を生じそうになる。


相も変わらず妹は吞気にサラダを頬張っている。

いい加減脚は戻すべきだろうに。



「別にいいんじゃない?」


チサは微笑みを浮かべながらに言う。


「例えここが夢でも天国でも、幸せならそれで充分かもよ? まあ現実なんだけれども」


「そんなものなのか?」


「だーかーら! いいんじゃない、こんな奇跡があってもさ」



そう言って脚を組み替える妹は、もしかしたら小さな神様なのかもしれない。

無理やりであってもこれはハッピーエンドなのだろう。

そんなことを思いつつ、俺はホットミルクをすするのだった。



これもまた「日常」に違いない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] よかったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ