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正義狂いと妹狂い予備軍


「すまないね、相馬くん、鮎川さん。学校を早めに上がって貰っちゃって。勿論、学校の方には評価を下げないように言っておくよ」


「ありがとうございます。それで、緊急の要件ってなんですか?」


時間は一時になろうかという時間。あの後1時間の仮眠をとり、すぐに登校したために相馬はかなり眠そうだ。鮎川はこれから言われる事に少し不安そうな様子である。魔術師の才能はもあり、自分で志願して始めた仕事であったが自分でも分かるほど向いていない。特に人を疑うのが根本的に出来ないの人なのだ。


「いや、相馬くんは昨日いたからわかると思うけどね。鑑識から結果が届いたんだよ。人質とされていた女性は町田朝日という女性で以前の被害者の者だと分かった」


「……そうですか」


安堵の息を吐く相馬と鮎川。学校で相馬から話を聞いていて、しかも美紗希も史人も休みなのでもしかしてと心配であった。スマホで何度も何度も連絡を取ろうとするがそれも繋がらない。今日学校が終わったらすぐに史人の家に向かうつもりだったのだ。


「そして、あの男を殺した犯人も分かった。なんと驚くべき事に()()いたんだよ、犯人は」


結果が書かれた紙を見て無感情にそう言う義正。どろりとした目の濁りに相馬は言いしれない不安を感じて、言葉の続きを待つ。







「貴方は…何者なんですか?」


「魔術師に決まってんだろ?って、お前の場合は昨日今日の話か、分からねぇのも無理は無いのかね。説明って面倒なんだよなぁ」


面倒くさそうに頭をかく男。名を大井武蔵(おおいむさし)というらしい。


「ま、お前を見つけたのは偶然だ。悪魔堕ちした魔術師が随分と悪さをしていたから()()してやろうとしててな。でもよ、中々見つかんねーんだ、これが。見つけた頃にはお前が骨共を蹴散らしているもんで、()()()()()()()()向かいのビルでずっと観戦してたぜ?」


「……悪趣味な人だってのはわかりました。それより、手遅れって?」


「お前は選択の余地なく俺達の仲間になるしかねぇってことだ。それか、お尋ね者の仲間入り。これからのお前の人生、捕まったら死刑のデスゲーム。どれがわかりやすい?」


「全部分かりたくないです。……あの男を殺したことですか?その罪は負うつもりでしたが……死刑?」


「あぁ、犯罪を犯した魔術師は翌日全員死刑。しかも、首吊りではなく、首チョンパの方な。リアルギロチンあるぜ?」


「…………」


この大井という男。本当の事を言っているのであろうかと、少し疑わしくなる。捕まったら翌日死刑?そんな事がありえるのであろうか?


「あ、疑ってんな。別に信じたくなきゃ信じなくていいぞ。そんときゃ死ぬだけだからな。()()()()()()()()()()()()()


「!?それは…どういう。美紗希は被害者だ、殺しにも関与していない」


酷く動揺する史人。そんな事ありえない。ありえない?昨日まであんなことをやって、ありえないなどあるのか。


「俺に言われてもなぁ。俺は経験則として、これから起こることを伝えているだけだ。これから起こることは、お尋ね者としてお前とお前の妹が指名手配されて捕まったら翌日死刑になるってことだけ。言っとくが、ニュースにはならねぇよ?なったとしても理由をでっち上げてやるしよ」


「………………」


嘘だ。そんな事この日本ではありえない。上手く言いくるめてどこかにつれていこうとしているだけだ。……そう思いたいが、どうしても嘘を言っているように思えないのだ。


「どうする?来るか?あと、言っとくが俺の所は小さいからな。お前も働いて貰うぞ?タダ飯食らいはこっちから追い出すからな。ま、他の所に行ってもいいが…お前の能力見た感じ弱いからなぁ…」


働くとは何を?情報量が多すぎて処理しきれない。何から聞けばいいのか、どのような決断をすればいいのか。どちらを選んでも最悪の結果が死、だ。


「あー、俺が待てるのはあと10分だ。それが過ぎたら俺は帰るぞ。経験上そろそろ()()()からな」


家の時計を見てそう言う。やばい?何が?


「もうすぐ、()()()()()()()()()()。いやだよ俺、あいつに会うの。しつこいから疲れんだよなぁ」


決断の時間は少ない。進む秒針に冷や汗をツーと垂らすのであった。







「………何かの…間違いでは…ないのですか?」


「そ、そうですよ。何かの間違いに決まってます」


義正が聞いた犯人の名前に相馬と鮎川の二人が、酷く動揺する。


「ふむ?二人のお知り合いですか?しかし…このように()()()()()()()()()()()()()()()()()。私にはどうしようもないですね。しかも、この二人それぞれが別の事件を起こす魔術師ですね。今回の1件で()()しました」


これが義正正義が掲げる正義だ。


魔術師による事件数は新たに2件増えて、このままいけば検挙数も2件。


魔術師の犯罪が急増する中、新設された魔術師課は慢性的な人手不足である。


これに対して義正はこう考えた。このままでは、増える事件に対処しきれなくなると。ならば、至急速やかに課を大きくする必要がある。その為にはより多い事件数と検挙を。それが結果的には少ない犠牲で多くの人が幸福になると。


冤罪で捕まり、死んだ人には申し訳ないと思う。が、大義の為の悪は善だ。()()()()()()()()()()


その為に手段は選びはしない。それだけの事だ。


「驚くのも無理はありません。魔術師の事件は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。二人は新人でしたね。これは辛いことですが、必要な経験です。行きますよ、清水史人、美紗希という()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()。その言葉は相馬と鮎川の二人に重く、酷く重くのしかかったのであった。








「残り1分。どうするよ、男だろ。お前。決めろよ、自分と妹の運命を、未来をよ」


情報不足が酷い。何もかも分からない。なのに、決断を迫ってくる。頭の中は酷くグチャグチャだ。分かっていることは、このままこの家にいれば死ぬかもしれないということ、付いていって騙されたら殺されるかもしれないということ。


「仕方ねぇなぁ…取り敢えず、妹を運んで来い。俺の車があるからそこに隠れろ。そこで見てればいい、家に来る奴の顔をな」


「……わかりました」


決断が出来ないと死ぬ。そんな状況で、決断出来ない情けない史人への優しさなのだろう。何故かそんな気がして了承したのだった。







「……本当に史人がやったのかな?」


「間違いに決まっている。なにせ昨日僕が…」


眠らせたのだ。数時間は、起きてこられるはずが無い。きっと美紗希の血痕があって勘違いしたのだろう。何があっても、必ず死刑にはさせない。


そんな青臭い思い。そんな事関係なく翌日に殺されるのだ。裁判などなく、証拠など無い。魔術師に人権は無いと言ってもいいのだから。それを知らないとはいえ犯人ではないと信じた相馬の思いは裏切られる結果になる。


「………留守ですか?学校?……ではないと言ってもましたし…。居留守ですかね。……君達にやらせるのは酷ですね。谷、山下、行ってきなさい」


新人であり、犯人と知り合いだと思っていた義正は相馬と鮎川を突入する人に選ばなかった。谷、山下という壮年の男と若い女性。若い女性の方が後ろに回って谷という男が扉を壊す。


それを悔しそうな表情で見守る相馬と鮎川。暫くして誰もいないことが分かって二人が戻ってきた。


「そうですか……暫く待機してください。帰宅次第確保をお願いしますね。とは、言っても」


土足て家に上がり、美紗希の部屋だった場所に入り布団に手を入れて僅かな温もりを感じ、収納棚を開き下着が纏めて無くなっているのを見てもう戻っては来ないだろうと推理する。


「少しだけ遅かった見たいですね。そう遠くは行っていないでしょうが……見つけるのは難しそうです」


素人が急に逃げる?何もわからないのに、逃げるわけが無い。ならば考えられる原因は一つ。()()()()()()()()()()()()()()のだろう。


「だとすれば……非常に面倒ですね。……しつこく追いかけるのもいいですが…」


()()()()()()()()()()()()()()()()()。義正正義は効率的に()()()()()


「課が大きくなれば、どうせ逃げた魔術師達は捕まります。そちらの方がより多くの人が救われる」


ほの暗い笑みを浮かべる義正。その姿はまさに正義に狂った男。全てを犠牲にしても、己が正義をなそうとする狂人。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


その歩みを止められる者は、まだ誰もいない。






「ホントだったろ?ひでぇよなぁ、見たか?扉を蹴破ってたぜ?」


走り出した車に乗る史人と美紗希。目は覚めているが状況が理解出来ていない美紗希に、先程の見た事を信じられない史人。大井の話など全く入ってはこない。


「あれ……相馬と鮎川…だよな。国家魔術師って……そう言うことかよ…あいつら…俺を殺そうとして…捕まったら死刑だって分かってるのに……鮎川が…クソッ…」


「お兄ちゃん…これ…どういう事…ねぇってば!」


「……大丈夫だ。兄ちゃんに任せな。まだ、眠いだろ?寝てていいぞ」


「………お兄ちゃんも分からないの?ねぇ、おじさん貴方、誰?何処に行くの?この車。…お兄ちゃんを…誑かして…どうするつもり?正直に言って?ここで暴れることだって出来るんだから…」


「おいおい……兄さんと違って随分と気の強いな…。面倒だ…寝てろ…」


「だから!…あ…れ…」


突然意識を失い、史人にもたれかかる美紗希。


「これ…俺が相馬にやられた…」


「あぁ、これが一般人には1番安全に意識を奪える。魔力ってのは慣れてねぇとショックが強いからな。妹はお前が抱えてな。これからも、な」


大事な妹なんだろ?そう言われて初めてスッキリと心に溜まっていたモヤモヤがストンと落ちる。


「………そうだ。何より大事な妹だ。それを守るためなら…何だってやってるさ」


覚悟がやっと決まった。馬鹿だな、鮎川にまだ未練があったなんて。そうだ、守るべきは美紗希だ。敵は相馬と鮎川達、国家魔術師だ。そうなったのだ。


切り替えろ、その為にはどんな悪魔にだって堕ちて見せると。そう言い聞かせろ。じゃないと死ぬぞ、大事な妹が。


……なんでこうなったのか。自分のせいなのだろうか?刺激的な非日常を望んだ罰がこれなのか?その罰が…妹に降りかかるのか?理不尽から妹を守ったら…より大きい理不尽に襲われる未来が俺のせいだとしたら、妹の穏やかな日常を生活を奪ったのが俺だったのなら。


「それなら…俺の全てを賭けて…妹を守ってやる。全てだ…その為なら()()()()()()()()()()()()()


この時から史人の全ては妹である美紗希への贖罪に生きる事を誓った。美紗希が本来得るべきであった幸せを、夢を、ほんの少しでも返せるように。



はい、小説解説の所まで来ました!

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