第20話 九十九
20話目にして初のメタネタ挑戦。
『ふむ、なるほどね。鎌鼬——随分と模範的な妖怪が出て来たもんだ』
あらかたの話を聞き終え、通信機の先のヒラタ主任はそんなことを口にした。
黒江が鎌鼬と戦闘を行い、逃げられた。それから葵と双葉を呼び出し、合流したのがほんの二、三分ほど前のことだ。
鎌鼬というのは、相当に攻撃性の高い化物で、囮作戦の拠点に選んだ裏路地は、既にコンクリートやブロックの破片が散乱し、爆発でもあったのかという状態だった。
「化物のことは私はよく分からないから……そうね、やっぱりヒラタ主任に聞くのが一番早いんじゃないかしら」
遭遇した鎌鼬に違和感を覚えるという黒江の言葉を受けて、双葉が提案したのがこの案だ。
「いや……でも、あの人一応立場ありますし」
「崩れれば良いと思うわ、そんな立場」
「今は一応勤務時間ですし、忙しいかも」
「サボっているに決まっているでしょう?」
「……」
黒江への態度は多少軟化したものの、男嫌いという性質自体は全く変わっていないらしい。もっとも、ここまではっきりと、直接的に嫌われているのはヒラタ主任くらいのものだろうが。
かくして、班長の方針により、黒江は仕事中の悪友に電話をかけることになったのだった。
「本当すみません、迷惑をかけて」
『いやいや、良いんだよ別に。大体君らだって仕事の話だろ?』
「まあ、そうなんですけど……ちなみに何をしてたんですか?」
『ん?いや、つい昨日、レンタルショップでロストジョーズを見つけたからさ。研究室の大画面で視聴中』
「さっきの謝罪返してくれません?」
しかも、ロストジョーズって。真性のZ級映画じゃないか。
ともかくとして。黒江は遠慮なく、ヒラタ主任の映画鑑賞を中断することを、嬉々として決断した。
『はっはっは。それで、なんだっけ?確か君は、その鎌鼬とやらに違和感を覚えたって聞いたけど』
「ああ……いや。違和感っていうか、鎌鼬って妖怪にしてはおかしいところがあるんですよ」
『おかしいところ?ってのは、つまりどういうことなんだい?』
「鎌鼬ってのは——鎌鼬って妖怪は、切られても血は出ないはずなんです」
鎌鼬。カマイタチ。
日本に伝えられる妖怪、またはそれが引き起こす現象——怪異現象、怪奇現象のことである。つむじ風に乗って現れ、人を切りつけるのだ。
しかし、「人を切りつける」化け物——あるいは妖怪というジャンルの中で、とてもポピュラーといえる鎌鼬なのだが、実のところこれに襲われた人間は深刻な被害を被るわけではない。
鎌鼬に切られたら、それは当然切られているのだから、その跡は残る。傷跡——切り傷は、しっかりと、文字通り被害者の体に刻まれる。
刻まれて終わり。刻まれたという「結果」だけ残して、鎌鼬は終わる。
過程はない。だから、血も出ない。
「鎌鼬なんかに切られても、大量の出血なんてことにはならないはずなんですよ、だから」
実際、四人の被害者は入院までしているのだから、大量の血液を失ったのだろうし、なにより黒江は出血するどころか、手首そのものが切り飛ばされたのだ。
切り傷を残すだけの化け物では、まさか体の一部分が切断されるなんてことはあり得ないだろう——もっとも、手首が切り飛ばされたことなどはヒラタ主任には話していないが。
『ふーむ……なるほど。いわばその鎌鼬は、従来の——本来のものとは違うわけだ。完全じゃない、のかな』
「不完全、不完成で、そのうえ不純、でしょうか。だいたい単純な概念としての化物なら、そもそも武器が置き去りになるなんてことがあります?」
黒江がその手でへし折った二本の大鎌は、その場に残ったままだった。あの後に確認してみたが、触った感触も重さすらも、おそらく相応の現実的なものだ。
『確かに無いね。君がどういう風に戦ってたのかはよくわからないが、魔力で消したにしろ自発的に逃げたにしろ、化物が何かを残していくことなんてありえない』
ヒラタ主任は、そう言って黒江の考えを肯定した。
『君の言う通り、『星の意思』が生み出した概念そのものである化物は、遺留物なんて残しはしない。なかなかどうして頭が回るじゃないか、黒江くん』
「頭が回っても——『おかしいことに気付いただけ』じゃ意味がないでしょう。どうしておかしいのかに、辿り着かないと」
『そんなことはないよ。君は新人なんだから、おかしいと気付けただけで大したもんさ』
ヒラタ主任の率直な賞賛を受けて、しかし黒江は面白くなさそうに目を細めた。
「お世辞は結構ですよ。それより、何か心当たりみたいのってあります?」
『……どうしたんだい?何か、不機嫌なようだけど』
ヒラタ主任が怪訝そうにそう尋ねる。通信機越しでも分かるくらいに、黒江の声は低く冷淡なものになっていた。
不機嫌な声。面白くなさそうな声。どちらにしろ、低くくぐもった声であり、鎌鼬という敵を撃退した後の声ではない、と——ヒラタ主任はそうして、疑問を表明した。
「撃退したんじゃない。逃げられたんです」
『……さっきも聞いたけど、やっぱり僕は状況を聞く限り、『撃退した』と思う。どうして君は自分の功績をそうまでして卑下するのかな?』
「卑下?卑下なんかじゃありませんよ」
あの時。
つむじ風が吹雪く、あの瞬間。
あの一瞬、文字通り刹那の間だけ目に映った、鎌鼬の顔は——笑っていた。
ほっこりと、笑っていた。
安心して笑っていた。安全を噛み締めて笑っていた。
目の前の敵から逃げられることを安心して、確信して、笑っていた。
そして、自分をまんまと取り逃がす——獲り逃す黒江を見て。
ほくそ笑んでいた。
「俺は——逃したんです。まんまと逃げられました。それだけが事実です」
『……よく分からないねえ』
それはきっとそうだろうな、と黒江は思う。
あの表情を見たのは、当たり前のことながら、目の前にいた黒江だけなのだし。
あの表情に隠れた、その業腹な感情を感じ取ることが出来たのも、また黒江だけなのだろう。
黒江にしか分からないのだろう——あるいはそれが、黒江一人の歪曲した解釈だったとしても。
やはり、黒江の心持ちは黒江にしか分からない。
『まあ、君が悔しがるだけだし、他に困ることもないからもう口は挟まないけど……うん、それじゃあ話を戻そう』
「お願いします」
『うん。それでその化物なんだけど、多分前例のあるものだと思うよ』
「ぜんれ……って、じゃあ、正体が分かるんですか?」
『分かるとも。分かるけれど、うーん、そうだな』
ヒラタ主任は、そう言って言葉を濁す。かと思えば、今までと何ら変わらない飄々とした声のまま、
『黒江くん。今回の任務、とりあえず銃は絶対使っちゃ駄目だ』
厳令するよ——と。そう言った。
「銃は駄目って……住宅地の中だからですか?」
『いやいや。仮に一般人の多くいる住宅街でも、必要に迫られたと判断されれば罰せられることはないよ。けどね、今回はどんなに必要に迫られても発砲は許可できない』
「前の事件みたいな場合でも、ですか?大量の屍人に囲まれて、今にも死にそうな場合でも?」
『ああ』
ヒラタ主任は語調を変えずに答える。
『銃を使わなければ死ぬのなら、死んでくれ。少なくとも、化物退治の局員としてはそれが正しい』
死ぬのが正しいよ、と。
ヒラタ主任は言った。
飄々と——軽々と、ヒラタ主任は言った。重みなんてものはないようなその言い方だ。
黒江はその言葉に、反発というよりはむしろ——命を捨てろと暗喩したその言葉への反発、というよりはむしろ、疑問を覚えた。
「何故ですか?俺たちの仕事は、化物を倒すことなのに……それが完全に至上命令なんでしょ。なのに銃は使うなって」
『ああ、その通りさ。いや、その通りと言うには、ちょっと語弊があるけれど』
「語弊?」
『語弊というか、誤解かなあ。そのね、『駆逐第一優先』っていう考え方は、歴代局長ーーまあ清美さんとその先代の二人だけなんだけど。彼らの考え・方針なんだよ』
彼らの方針という、だけ。そんな風に言われたものの、それだけではやはり、よく分からない。
「……?つまりどういうことです?」
『だからね。化物退治の設立された本来の理由というか、意義というのかな。それはあくまで、『化物から人々を守る』ということにある。最優先は、人民の命だ』
黒江はそうして、自らが所属する組織の本来の意義——というものを聞かされた。
と、あたかも理解したようだが、意義なんて言われても、やはり黒江にはよく分からない。
言っていること、言葉の意味は分かるのだが。しかし、それをわざわざここで言われている意味が、分からない。
「それはまあ、当たり前の倫理として理解はできますけど。だからって、どうして?」
『つまり……いや、そうだね。やっぱり僕って話下手かなあ。また話す順番を間違えた気がする』
「?」
『とりあえずその『正体』を説明するよ』
「はあ……正体、分かるんですよね?」
黒江がそう尋ねると、ヒラタ主任は通信機の向こうで頷いた。
ような気がした。無論、姿は見えないが。
『化物は『星の意思』の故障が生み出した不安定な存在だ』
「はい」
『だからこそ、化物という存在の中には、大量の失敗作が存在する』
「失敗……作、ですか?」
作られるのに失敗した連中だよ。そんな風に、ヒラタ主任は続けた。
失敗作。文字通りの、作られることに失敗した化物。
「星の意思」が、作ることに失敗した物たち。
『具体的なことを言うと、そうだね、色々あるんだけど。例えば、化物として特徴のなってない奴らかな』
「特徴のなってない……つまり?」
『今の鎌鼬なら、切られても本来血は出ないんだろ?それは化物の大元である、人間の創作物としての特徴だ。フィクションとしての、設定だ。そこが欠落している不良品ってこと』
人間が考え出した——見出した、その怪物たちの「本来の特徴」。それを、きちんと備えないままに生まれてきた化物。
人間が生み出した失敗作ではない。人間が生み出したものを、「星の意思」が再現するのに失敗した。そんな代物たち。
「あの鎌鼬は、その類ってことですか」
『いや、その類で間違いはないんだけどね。そいつには、もう一つ、重要な欠陥があると思われる』
「もう一つ?」
『ああ。その女子学生——風切七刀さんだっけ?彼女の特徴が見て取れたって言ってたよね』
「ああ……はい。顔の痣だけですけど」
『その女の子、おそらくだけど化物に取り憑かれているよ』
「は?」
黒江は思わず聞き返した。
というのも、化物は昔話の妖怪とは違うのだ。
幽霊とも、妖怪変化の類とも違う。「その人が信じればそこにいる」などと言われるような、曖昧な存在ではない。そこに確定的に存在するのだ。
人に取り憑く、などという、ありきたりと言うのだろうか、そんな幽霊的で怪異的な状況は、てっきり起こりもしないものだと思っていた。少なくとも、黒江の認識としては。
そんな黒江の疑問の声を聞き、ヒラタ主任は説明を続ける。
『さっきも言ったろ。失敗作の中には色々と種類もあるんだって。設定不足の輩もいるし——存在自体不安定なやつだっている』
「存在自体、ですか?」
『不安定なままにこの世に出現してしまった連中さ。存在が不安定なままだから、そのままでは存在し続けることが難しい。何もしなければ、すぐに消えてしまう』
だからね、とヒラタ主任は前置きをして、
『自分の存在を安定させるために、この世にきちんと存在するモノと同化するんだ。そういう失敗作連中はね』
「同化って……憑依、みたいな?」
『似てるけれど、少し違う。似て非なるね、それは。通常そういうやつらは、近くにあった物質——物体に同化する。コンクリート片でも、落ちていた生ゴミでも、逆にそこに停まっていた高級外車とかにくっつく時もある』
そうやって、何でもいいから無理やり合体して、存在を安定させる。
そして、そのまま化物としての役割を果たす。
人間を——傷付け、殺そうとする。
『僕はツクモって呼んでるんだけどね』
「つくも——九十九神、ですか?」
『その通り、では無いのかな。神様なんかじゃないし』
それに、長く使われたものに——長年の愛着が意思として宿るという九十九神とは、本質的にまったく違いすぎる。
物に何かの意思が宿る、という意味では的を射ているが。
しかし、そうして人々を傷付け殺すために存在している化物なのだから、やはり九十九神になぞらえて呼ぶのは的外れな気もする。
的外れで、的を射ている。
『そして、今回のケースなんだけど……要するに、ツクモが人間にくっついてしまったんだね』
「人間に取り憑いた、ってのは……ますます九十九神なんかじゃないですね」
『だから違うんだって。まあ要するに、今回君がやらなきゃいけないことは、素体になってる風切七刀さんを傷付けずに、鎌鼬を撃退するってことだ」
銃を使ってはいけないというのは、つまり。そんなものを使えば、結構な確率で取り返しのつかない怪我を負わせてしまう。
『まあ、警棒使って魔力を流せれば、上手いこと化物の部分だけを消せるはずだから。そういう方法をとりなよ」
「……その、今回みたいなことは、よくある事なんですか?」
『珍しいよ。かなりの珍事だ。多分、過去にも片手の指で数えられるくらいにしか起きてないと思う』
珍事。珍しい事、であるらしい。今回のケースは。
前の事件もそうだが——大量の屍人といい、謎の吸血鬼といい、その上この珍事だ。なぜ入局して一ヶ月の自分たちに、こうまで妙なことが降りかかるのかと、黒江は憮然として思った。
しかも、ほぼほぼ三十日間は訓練ばかりしていたのだが。
「まあ……とりあえず、分かりました。怪我はさせないように、化物だけ消す。『無傷で捕らえろ!大切な被験体だ!』って感じですよね?」
『まあ、そんな感じだけど……うん。それってゲームやら映画やら、どっちにしろ一番高難易度のミッションだからね?』
「頑張りますよ。最優先で人民の命を守ります」
『理解してくれたみたいで何よりだ。頑張りたまえよ。僕は映画見る』
「仕事しろ研究主任」
『あの、一応言葉使いの体裁くらいは保たない?今まではちゃんとしてたじゃない』
「あ、失礼。では改めて。仕事しやがれ、研究主任」
『君ってそんなキャラだったっけ……?」
ヒラタ主任の悲壮な声が届いた。なるほど、いつも自分が受けている仕打ちというのは、逆に加害者からすればこんな感覚だったのか、と黒江は思う。
双葉のことをまた少し理解できた気がした。
『キャラ崩壊著しいけども……』
「いいじゃないですか。作者の気まぐれですよ」
『やめなよ君。やめなよっていうか、そこはちゃんとしとこうよ』
閑話休題。
黒江とヒラタ主任は、最後には割といつものようなノリで通信を終えた。ヒラタ主任はそのまま映画鑑賞の続きに戻ったのだろうが、黒江はそうはいかない。
通信を切って、息を吐き、そして後ろで聞き耳を立てていた葵と双葉の方へ振り返る。
「終わったの?」
「はい。大方、これから何をすればいいのかは分かりましたよ」
これから何をするべきなのか——捜査初日にしてだが、おそらくこれで、切りつけ事件の方に関しては目処がついたと言って良いだろう。スピード解決の類になるかもしれない。
黒江は、ヒラタ主任から聞いたことのあらましを、簡潔に二人に説明した。
それを聞き終えて、まず最初に口を開いたのは葵だった。
「その……つまり、私たちはこれから、風切七刀さんのところに行けば良いんですよね?」
「行けばっつーか、どうだろうな。まずは、そいつがどこにいるのかを調べないと。班長、住所とかは聞いてないんですか?」
「顔写真も見れなかったのに住所が分かるわけがないでしょ。とりあえず、あの学校にもう一度戻って詳しい話を聞かないとね。今度は、風切七刀個人について詳しく」
黒江は、双葉のその案にとりあえず頷いた。
あの学校にはもちろん足を運びたくなどないが、まあそこはもう、我慢しよう。
それに、化物事件の情報提供の合間の雑談として聞いた前回とは違うのだ。流石に「風切七刀が最重要の鍵」とまで言われれば、必要な情報くらいは与えてもらえるだろう。
そのあたりは、説明が面倒なところでもあるが。風切七刀が犯人、というわけでは厳密には無いのだから、「犯人なので居場所を教えろ」という言い方は出来ない。
そんな事を言えば、取り憑いた化物から解放された後の風切の生活に支障をきたす可能性がある。
「その辺は、私に任せなさい。社会人としては紛れもなくあなた達よりも上なんだから」
「そこは、まあ……お任せします。あ、それと」
「何よ?」
「さっき言いましたけど、戦闘になったとしても今回は銃を使えないんですよね。そしたら、具体的にはどうするんですか?」
ぶっちゃけ、という言い方をすれば、ぶっちゃけ黒江が一番心配しているのはそこだった。
何しろ、黒江だから良かったものの(決して良くはないが、まあ他の二人がああなるよりは良かった)、鎌鼬の攻撃の威力は一撃で手首を切断するほどのものだ。
初見殺しというなら、あれほどに嵌るものはそうそういないだろう。
出会えば最後、瞬きの隙に手首を切り飛ばされるなんてのは、はっきり言ってただの人間が相手取るべき敵では無い。
増して、今回は近接での戦闘を強いられることになる。
どうにかして、自分一人で戦い倒してしまいたいというのは、黒江としては当然の考えだった。
「その鎌鼬と戦うのは……申し訳ないんだけど、あなたに一任できないかしら」
「……え?」
しかし、予想外に返ってきたのは、黒江が最も求めていたそのままのような返事だった。
「私は、その……警棒での立ち回りが少し苦手なの。小村にしたって、全体的な戦闘訓練の成績は決して褒められたものではなかったし」
「それは……はい」
痛いところというか、実際自分でもひしひしと感じていたのだろう。葵は苦笑いなのか、本気で落ち込んでいるのか判断に困る表情を見せた。
「その点、あなたは——優秀も優秀なの。私の目から見ても、私を含めたこの班で一番。危険な役回りを押し付けようとしているのは分かっているけど……その」
「一人で——というか、俺主軸で鎌鼬を相手するんですか?」
「……そう」
双葉は、本当に心から申し訳なさそうな顔をしていた。
申し訳なさそう、というか——悔恨の念が感じられる。後悔というか、悔しさのような。
それは果たして、部下に危険な役回りを押し付けてしまう自分の不甲斐なさへのものなのか。
それとも、黒江に頭を下げてへりくだって頼まなければならないこの状況への屈辱だったのかも知れない。
はてさて、しかし。
はっきり言って、この提案に関しては願ったり叶ったりだ。
というか、願ったら叶った。そんな都合の良い状況とすら言える。
「構いませんよ。構いませんし、了解しました。元々俺が逃してしまったんですから、その尻拭いくらいは一人でこなします」
「あ——」
非常に心強い——少なくとも、客観的に状況を鑑みれば心強いと表現して遜色ないであろう黒江の返事を聞き、双葉は微笑んだ。
微笑、した。ように、見えた。
「——ありがとう」
と。双葉は僅かながらの、誠意を口にした。僅かながらの、温かみを含んだ言葉を吐いた。
誠意と温かさ。それは、ほんの一週間前までの双葉なら、絶対に黒江に向けることのなかったものだろう。それを真向から、微々たるものながら受けて、黒江は、
「班長が……デレた?」
「デレてないわ。デレていても、今ので帳消し」
「おぶっ!」
デリカシーに欠ける——というよりは、黒江の能天気な発言に、双葉の冷たい拳が鳩尾へと打ち込まれたのだった。
駄目だなー。
仕事回だとなー。双葉のセリフが多くなってなー。
メインヒロインが喋れないんだよ(・ω・`)




