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化物退治の黒一点  作者: オセロット
第2章 化物退治の吸血鬼
15/28

第15話 二つの事件

 三日後の午前九時半。黒江は素晴らしい晴天の下、全く素晴らしくない気持ちで歩いていた。

 横には葵と、つい昨日に退院した双葉がいる。


 不機嫌。そう、正確に言うなら黒江は心底不機嫌だった。

 来たくもない場所に来てしまった、それだけの理由の不機嫌だ。休み明けの月曜日に学校に行きたくない、それだけの気分。


 実際のところ、黒江はこの学校に二度と来たくなかった。


「はあ……今からでも帰りたい」


「あなた、どうしてそんなに不機嫌なの?母校なんでしょう?」


 あまりにも鬱々とした言葉を吐き続ける黒江に、見かねたように双葉がそう尋ねた。ここまで陰鬱な雰囲気を醸し出されると、双葉たちの仕事への士気にまで悪影響だ。


「いや、母校なのは間違い無いんですけど」


「じゃあ良いじゃないの。昔の思い出なんかを懐かしむのも、卒業してからの……」


「思い出、って言いますけどね」


 黒江は頭をかき、


「良い思い出が一つもないんですよ、生憎。本当に一切」


 そう語る黒江の顔は、「不機嫌」だ。

 面倒くさいだとか、例えば「顔を合わせづらい人がいる」だとか、そんなレベルの不機嫌さではない。本気で、心から機嫌を悪くしている、そんな顔だ。


 流石にそこまであからさまな表情を見ると、双葉でも言葉を濁す。

 そして、それは横で話に耳を傾けていた葵も同じだ。


 黒江には、普通の社会的な集団に溶け込むのが難しい理由がある。その理由が、顔に刻み付けられている。

 本人曰くの、「不良品の顔」だ。


「……まあ、仕事は仕方ないですけど」


 そう言って、黒江はまたため息をつく。


「その『仕事』って、怪我人だか行方不明者だかの原因を排除すれば良いんでしょ?それなら、先に警察にでも行った方が良いんじゃないですか?」


「警察と化物退治(フリークスハント)は仲が悪いの。出来ることなら、彼らの力は借りずに済ませたいわ」


「……仲が悪い?」


 聞き返した黒江に、双葉は「ええ」と頷く。


「根本的な組織意義——(国民の安全を守る』って意味じゃ同じだけど、その実、二つの組織の形態はあまりに違うでしょ?」


「違う——ってのは、まあ、そうですけど」


「警察組織が規律ルールで成り立った組織なら、化物退治(フリークスハント)は武力によって成り立ってるの」


 警察組織は少なくとも表向き、規律ある組織形態とそれに基づく犯罪者への抑制で成り立っている。「規律主義」だ。

 対して、化物退治(フリークスハント)では、化物(フリークス)の駆逐能力が高い順に出世する。まさしく「武力主義」であり、警察組織とは正反対なのだ。


 しかも、警察は独力で化物(フリークス)に対抗することができない。


 化物(フリークス)駆逐のための武器は、化物退治(フリークスハント)独自の技術で開発された機密品だ。また、そもそもの魔力(マナ)適性の性質から、警察組織の人間だけで化物(フリークス)事件に対処することはできない。

 必然的に、事あるごとに頼りたくもない化物退治(フリークスハント)を頼ることになる。


「幸いというか、被害者は全て同じ学校の生徒なんだし、そっちを先に当たった方がまだ良いわ。被害者同士の共通点、なんていうのも調べやすいでしょうし」


「現実的に建前はある、と。先に言っておきますけど、後輩に知り合いとかもいないし、その辺は期待しないでくださいよ」


「大丈夫よ。仮にもきちんとした職務なんだから、私の方から話は聞くわ」


 とはいえ、気が進まないことに変わりはない。黒江はやはり回れ右をしたくなるが、しかし流石にここまで来てそうするわけにも行かなかった。


 と、そんなことを話しながら歩いているうちに、彼らは目的地に到着する。

 

 住宅街の中に隠れるように建っている学校だ。無理矢理に空いた土地に建物を押し込んだようなもので、狭苦しい感覚がある。

 町立白子中学校。黒江がつい二ヶ月前まで通っていた中学校だ。


「随分と、建物は綺麗ですね」


「校舎だけは去年に改装したばかりだからな」


 学校を一目見た葵の感想に、黒江はそう言って答える。

 葵の言う通り、建物は新品の小綺麗なものだった。唯一校門だけは、改装が終わっていないのか錆びついたままだが。


 と、二人がそんなことを考えているうちに、双葉は校門横に備え付けられたインターホンを押していた。

 間も無く、事務室に繋がり、要件を訪ねる声が聞こえる。


「特殊局の者です」


 双葉は簡潔にそう答えた。それを聞いて、葵は首を傾げ、黒江に話しかける。


「特殊局、って」


「ああ……まあ正式名称みたいなもんなんじゃないのか。化物退治(フリークスハント)つてのはあくまで通称なんだろ」


 警察だって、人や施設を訪ねる時には「警察です」と言う。自分たちのことを「サツです」とか「おまわりです」とは言わないだろう。

 それと同じだ。


 と、そうしているうちに話はついたらしく、双葉は二人の方は戻って来た。


「入るわよ。被害者たちのことを聞きましょう」


 そう言って、双葉はくい、と親指を校舎の方へ向けた。

 聞くと、校門の南京錠は錆びに錆びていて、最初から鍵として機能していないらしい。校舎の方は新築でオートセキュリティらしく、問題はないとのことだ。


 やれやれとため息をついて、黒江は双葉の背中を追いかけた。







 校舎内は新築一年の最新式で、土足で踏み込むのが若干申し訳なくなるほどに床は磨かれている。

 ただ、それは葵と双葉の話で、すでに少なくなとも数ヶ月以上この学校に土足で入り続けた黒江は、慣れたものだった。


「どこに来いって言われました?」


「第一面談室。二階職員室の横の廊下に入って——」


「左側ですね。階段こっちです」


 黒江はなんとも慣れた様子で、二人を先導する。今の時間は授業中で、生徒や教師とすれ違うことはなかった。


 すでに負傷者や行方不明者が、校内から何人も出ている状況の上で普通に授業を執り行うのは、どうかと思わないこともないが。

 しかしまあそこは、PTAやら保護者やらとの色々なやり取りの末のことなのだろうし、言及するつもりもない。


 まあ、せっかく生まれた休校の口実をあえなく奪われている後輩たちへの同情くらいはするが。


「……広い、ですね」


 葵は校舎内を歩きながら、感嘆したように息を漏らした。黒江はそれを聞いて、首を横に振る。


「だだっ広いだけの箱だって。箱。ゴミ箱だ」


「ゴミ箱……って」


 ネックウォーマーの上から口元をさすりながらそう答えた黒江の辛辣な言葉に、葵は口をつぐむ。

 建物の中を知り尽くした足の動きと、その辛辣な言葉は妙に対照的だ。


 そうやって険悪なままに、黒江は階段を登り、職員室前にまで到着する。葵と双葉は、小走りにそれを追いかけ、そしてふと立ち止まった。


「——、なに、これ?」


 双葉は目の前に現れたそれ(・・)を見て、純粋に浮き上がった疑問を口にする。疑問と、驚きが入り混じったような声だった。


 職員室に入る扉の横側の壁に、巨大な傷が——というより、ヒビが入っている。


 ヒビ。何か、例えば巨大な鉈などで叩きつけでもすれば、こんな風になるのだろうか。そんな、異様な跡だ。


「く、黒江。これって、前からあるものなの?」


「はい?……って、なんだこりゃ」


 「キープアウト」の簡易的なテープで囲まれているが、その範囲の少し外にまで細かいコンクリートの破片が飛び散っている。誰かに聞くまでもなく、最近に出来た破壊跡だ。

 事実、黒江も首を傾げている。


「黒江がいた時からあるわけじゃないの?」


「無いですよ。無い、ですけど……」


「ですけど?」


「いや。この壁の場所、ちょっといわく(・・・)があって」


「……?」


 感慨深げな黒江の表情に、双葉はどういうことなのか尋ねようとした。しかし、それは横から別の人物が喋りかけて来たことで遮られる。


「——ああ、お待たせしました。特殊局の方々ですね」


 自分たちに投げかけられたその言葉に、双葉はそちらの方向へ振り向く。


 そこにいたのは、若い女性だった。まだ二十代に見える、平凡なスーツに身を包んでいる。

 教師ではなく、事務員なのだろう。


臼井(うすい)です。こちらで事件について説明をしますので、どうぞ」


 女性——臼井事務員はそう言って、先導するように歩き出す。黒江たちは顔を見合わせて、それから追いかけた。


 そうして、案内されたのは先に言われていた通りの第一面談室だ。


「どうぞ、こちらに」


「ええ、失礼します」


 臼井事務員が示した椅子に、双葉は率先して腰掛けた。それを見て葵は、一瞬逡巡するような動作を見せる。

 というのも、椅子はあと一つしかなかった。


「ん、座れよ」


 自分の顔と椅子を交互に見る葵に気付き、黒江はそう声をかけた。


「で、でも黒江さんは?」


「立ってるよ。外部者待遇ってのも、正直落ち着かないからな」


 黒江はそう言って、腕を組みながら後ろの壁に寄りかかった。

 葵はそれを見て、少し迷ったような仕草を見せたものの、躊躇いがちに椅子に腰掛けた。


 臼井事務員はそれを確認して、双葉の方へ顔を向け直す。


「お若い——ですね、皆さん」


 若干微笑みながら、臼井事務員はそんなことを言ってきた。

 その、化物退治(フリークスハント)内では聞くことのない平和的な挨拶を聞いて、双葉もつられたように顔を綻ばせる。


「新人の集まりでも、仕事はきちんとしますから。心配しないでください」


「いえ、そういう意味じゃなくて。特殊局の人って、なんていうか……軍人、みたいな人ばかりだと思ってて。緊張していたんです」


 化物退治(フリークスハント)のイメージなどそんなものだ、と黒江は話に聞き耳を立てながら考える。


 警察と違い、やることといえば「化け物殺し」の一点だけ。しかも、その内部形態や使用技術は完全な内部機密状態。

 公務員組織ではあるものの、「謎の傭兵集団」という認識で見られる、特異な組織なのだ。


「私たちはあくまで国民を守るための組織です」


「そうですよ、ね。失礼しました」


 そう言ってはにかみ、それから臼井事務員はこほんと小さく咳払いをした。


 ここからは仕事の話。


「一週間ほど前から、この学校の生徒が被害に遭っています。重症の生徒と、それから行方不明者が」


 そう言って、臼井事務員は説明を始めた。


 事件の始まりは一週間前の夜だった。

 最初の被害者は、木村直人(きむらなおと)という中学二年生の男子生徒。

 

「夜十一時ごろ、帰宅途中に被害を受けたらしいんです。今も意識は戻らないらしくて……」


「その、被害というのは?具体的にはどんな目にあったんですか」


「それは……」


 臼井事務員はそこで、少し答えを口にすることを躊躇った。躊躇う、口にするのを躊躇うような、その答えなのだ。


「背中に、切り傷を——」


「切り傷、ですか?」


「切り傷、というか、切られていた(・・・・・・)、と言うんでしょうか。切られて——切断、されかかっていたらしくて」


「切だ——なんですって?」


 言葉を選ぶように話す臼井事務員に、双葉が焦れったいというように聞き返す。それを聞いて、臼井事務員は焦ったように、


「背中の皮膚から、横にぱっくりと切れ込みが入っていたそうなんです。内臓が損傷するほど深く、切りつけられた……」


「……切断って——そういう」


 確かに、それほどの惨状だったならば、「切断されかかっていた」と表現するべきだろう。それも、主語は「胴体そのもの」だ。


 口にするのを躊躇うのもわかる。生身の人間にそれが起きているのならば、想像することすら——他人に想像を喚起することすら、するべきではない。


「確かにそれは、人間のやったことには思えませんね」


 グロテスクな想像に眉をひそめていた双葉に代わって、黒江が立ったままそう口にする。

 その淡白な口調に、双葉は冷静さを取り戻した。


「その……凶器などは?何も分かっていないんでしょうか」


「え、ええ。警察の方も色々と調べてはいらっしゃったんですが、今のところは何も……と」


「あの、ちょっと良いですかね?」


 不毛。話の流れが完全に停滞している。

 そもそもの話、今更被害者の詳しい被害状況などどうでもいいのだ。


 化物フリークスが絡むような、あるいはその可能性のある「異常事件」であることなど分かりきっている。そもそもその異常性がなければ、黒江たちがこんな場所まで遣わされることはなかった。


 話すべきなのはそんなことじゃない。詳しい被害状況など知ったことじゃない。

 黒江はそんな、「面倒くさい」に近い感慨を持って、臼井事務員に質問をした。


「吸い殻壁のところ、随分と壊れてましたよね。あれはなんなんです?」


「……スイガラカベ?って、何よ黒江?」


 双葉は、聞きなれない単語に首を傾げ、後ろで話す黒江にそう尋ねる。

 それを受けて、黒江は淡々と説明を開始する。


「いわくがあるっていったでしょう。不良生徒なんかが、あの辺りの壁一帯に吸い終わったタバコの火を押し付けていくんですよ」


「タバコを——灰皿の代わりってこと?」


「多分ね。で、あの辺りは本来焦げ跡だらけのはずなんですよ。ぶっ壊れてましたけど」


 そう言いながら、黒江は臼井事務員の方へ目を向ける。


「ありゃなんです?まさか、不良中学生にコンクリの壁を粉々にする力なんてないでしょう」


「え……は、はい。確かに、あれは生徒のしたことじゃありませんけど……」


 当然である。あれが生徒の仕業なら、本気でこの学校の不良生徒は少年院にぶち込むべきだ。

 そもそもの話、チェーンソーなんぞを持ち出さない限り、あの破壊跡は生まれないはずなのだ。


 しかし、黒江が口にしようとしたその疑問は、臼井事務員の言葉によって遮られた。


「あの、どうして『吸い殻壁』って呼び名をご存知なんです?それはこの学校内での、通常のようなものだと聞きましたが」


「この学校の卒業生なんですよ」


 黒江はそう言って、それから眉をひそめ、


「失礼ですけど、この学校に勤め始めたのって今年からですか?」


「え、あ、はい。私は先月から……」


 その答えを聞いて、黒江はため息をついた。


 ため息、というか。

 嘆息というか——嘆きの含まれた、そんな息を吐き出した。それは露骨なまでの、不機嫌と不穏さの象徴だ。


部外者の対応(面倒な仕事)は新人に、か。変わらねえな……ここの体質」


「……え?」


「白石班長。どうもここにいても話の腰を折りそうなので、外で待っています」


 「え?」。臼井事務員と双葉の表情の、表現の仕方の共通点。


 え?というか、双葉の方は「は?」という感じだったが。しかし、文句を一つ言う前にももう、黒江は面談室の扉を開けて廊下に片足を踏み出していた。


 葵は何かを言おうとしたが、その前に面談室の真新しい引き戸は閉まった。


「……えっと」


「……いや、その。すみません、うちの局員が」


「いや、それは良いんですけど……いえ、私何か、気に触るようなことを言ったのかな」


「……分かりません。分からないっていうか……」


 臼井事務員は当然混乱しているのだが、それはそれとて双葉も同じことだ。


(本当、いきなりどうしたっていうのよ……?)


 この学校に入ってから——というより、この学校を訪ねることが決まった時点で、黒江は不機嫌だった。しかしだからと言って、ここまで唐突に職務を放棄するほど情緒不安定でもない。


 しかし双葉は、とりあえずその思考は横に置いておくことにした。

 黒江本人が言ったように、確かに彼がこの部屋にいなければならない理由も無い。それよりも、仕事の話を先にしよう。


「……それで。その、『吸い殻壁』ですか?あの傷は何があったんです?」


「あ、はい。いえ、何が——というか、何があったのか(・・・・・・・)は、私どもにもよく分からないんですが」


「と、いうと?」


「三日前の朝に、突然ああなっていたんです。その前の夜にも宿直の先生と、それから警備員の方はいたはずなんですが……」


「……その人たちは、何も気付かなかったんですか」


「はい。セキュリティにも変わったことはありませんでした」


 おかしいな、と双葉は思った。


 コンクリートの素材で作られた壁に、あそこまで派手な破壊跡を残すのなら、少なくともチェーンソーや小型重機でも持ち出す必要があるだろう。

 だが、そんな痕跡はなかった。警備員も、宿直の教師も、そんな破壊音すら聞いていないらしい。


 ——ありえない。「不可能性」の高さだ。


(じゃあ、それも化物フリークスの仕業——?)


 その、男子生徒の「切りつけ」事件が化物(フリークス)の仕業なら、あるいは。あの壁も、同じ「切りつけ」の被害物品である可能性はある。


「……。被害者は一人だけですか?」


「え?」


「その『辻斬り』の被害者。一週間で一人だけってわけでは無いんでしょう」


「あ、ああ……はい。確かに、木村直人はあくまで一人目です」


 臼井事務員はそう言って、手に持ったファイルから一枚の資料を取り出した。


「えっと……この一週間で、四人が被害を受けています」


「四人……四人、ですか」


「はい。氏名は割愛しますが、全員男子生徒です。学年はそれぞれバラバラなんですが……」


 一週間、七日間で四人の被害者。かなりのペースと言える。双葉は自分の担当する事件が、思っていたよりも面倒なものになりつつあることを感じながら、ため息をついた。


 しかもこの事件、事前情報だけで判断しても、「被害者」というのが負傷者だけではない。

 

「『辻斬り』被害者だけでなく、行方不明者もいるって話でしたよね。そっちはどうなんですか?」


「行方不明者、ですね。被害者は打って変わって、全員女子生徒なんです。この一週間で、こちらは三人……学年も皆バラバラです」


 辻斬り被害者は男子生徒。しかし、行方不明者は全て女子生徒。


 さあどうなる。双葉は内心で、シャーロック・ホームズよろしく手を顎に添えていた。


 そもそも、同じ学校の生徒ばかりが被害に遭っていても、この事件は二つに分かれている。

 「辻斬り事件」と、「行方不明事件」。それは最初から分かっていることだ。


 聞かされた事件の異常性を考えると、少なくとも前者は化物(フリークス)事件で確定、で良いだろう。問題は、その辻斬りが行方不明事件とどう関わってくるのか、ということだ。


(あるいは、関係性なんてないのか……)


 被害者が同じ学校に集中したのはただの偶然であり、二つの別の事件である。その可能性も大いにありえる。


「……その、被害者の男子生徒と女子生徒には、何か共通点は無かったんですか?みんな兄弟がいない、とか眼鏡をしている、とか。些細なことで良いんですが」


「共通点……ですか」


 共通点、というか。なんというか、この事件の「ルール」というものが分かれば、解決に繋がる可能性も高い。


 化物(フリークス)とはフィクションの産物だ。その多くは、「吸血鬼」やら「悪魔」やら、漠然とした有名な怪物として出現する。

 しかし、マイナーな化物(フリークス)も、いるにはいる。


 例えば、影の名作ミステリー小説、のようなものに出てくる殺人鬼なども、立派に化物(フリークス)として出現する可能性を孕んでいる。

 今回のような、なんというか影から人々を襲って、しかも一定の周期性とルール性が認められるケースであれば、そんなタイプである可能性が高い。


 小説も映画も古今東西、星の数ほどある。

 フィクションは無限だ。


 例えば、「眼鏡をかけた少年少女」を狙い撃ちに通り魔事件を起こした殺人犯だっているかもしれない。そして、それが化物(フリークス)として出現しているのかもしれない。

 些細でも、共通点さえ見つかれば、それが化物(フリークス)へのヒントになるのだ。


「共通点……そうですね。男子生徒の四人は、なんというかその……」


「なんですか?」


「不良生徒、と言うんでしょうか。一人目の木村直人は、いわば夜遊びの最中に狙われたようなものですし。他の三人も、遅刻・暴力沙汰・喫煙事件の常習犯です」


 それを最後まで聞いて、双葉は考え込む。確かに、「二つの事件の」ではないものの、辻斬り事件に関しては完全に「被害者の共通点」だ。


「不良……不良生徒ばかりが。行方不明のほうは違うんですか?」


「え、ええ。女子生徒三人は、平均的な——うん、平均的な生徒だったと思います。少なくとも、停学などの措置がとられたことはありません」


 男子生徒の共通点、アリ。

 女子生徒の共通点、今のところナシ。


 頭を悩ませる。そもそも、双葉は黒江たちの先輩ではあるが、決して経験豊富ではないのだ。

 化物(フリークス)——要はフィクション。それらについて詳しいわけでもない。むしろ化物(フリークス)の正体を探るのなら、そういう知識の多そうな黒江に聞くのが手っ取り早いはずだ。


 外に待機している身勝手な部下を呼び戻そう。双葉は最終的に、そう結論を出した。


「小村。悪いんだけど、黒江を呼んできて——」


 今のところ、話に参加出来ていないもう一人の部下にせめて仕事を与えようと、双葉は隣を見た。そして、「え?」と少し間の抜けた声を出す。


 隣に座っていたはずの葵は、いつのまにか居なくなっていた。


「あ、あの。隣に座っていた方なら、さっき外に……」


 と、臼井事務員の追撃。双葉は目の下の筋肉をぴくりと動かした。


「あの子達……職務中に、勝手が過ぎる……!」


 心行くまま怒鳴りたい双葉だが、しかし目の前には臼井事務員が苦笑いをしている。部外者というか、情報提供者の前なのだ。


 というよりそもそも、ここは授業中の学校の中である。大声で怒鳴れるはずがない。

 社会人としての常識と、部下の粗相に荒れ狂う感情に挟まれ、双葉は拳を震わすことしか出来なかった。

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