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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

節足静物門鋼殻類カンランシャ

作者: 枝節 白草

夏のホラー2017投稿作品です。

関連アトラクション観覧車。

「ねぇねぇ、鈴音ぇ、知ってるぅ?」

「橙子!?えーい、くっつくな暑い。で、何がよ?」


鈴音はカメラのレンズを拭くのをやめて親友の話を聞く姿勢に移行する。

写真部の部室には二人だけの部員、大学生だ。

特に写真に熱心な訳でも無く、廃部までカウントダウンが始まっている。


「裏野ドリームランドだよ!廃園になったやつ」

「ああ、ちっちゃい頃行ったねぇ、もう覚えて無いけど」

「あっこさぁ、とうとう取り壊すらしいよ?」

「そうなの?まぁ、土地遊ばせてるのも勿体無いしね」

「うんうん、変な噂もあったよねぇー。子供がいなくなる、とかとか」

「ほんとかどうか知らないけど、人気のある遊園地ならよく聞く噂よね」

「あはは、裏野ドリームランド人気無かったけどねぇ」

「で、話終わりかな?私は忙しいのだよ?」

「カメラ拭いてるだけじゃん…、まぁ、本題に入るけど、壊される前に写真取りに行こうよ!私たちの写真部としての活動のフィナーレを飾ろうじゃないかぁ!」

「不法侵入」

「ははーん、怖いんだな?鈴音はビビリだねぇ」

「よし、上等だ、橙子のビビリ顔を写真に納めてくれようぞ」

二人は遊びに行くくらいの軽い気持ちで日程を決める。



そして約束の日曜日、鈴音は橙子が来るのを待っていた。

天気は曇り、雨じゃないだけ良しとする。廃墟に曇り空も絵になるというものだ。

時刻は夕方、日が沈むにはまだ早い。

うら若き女子大生が二人、夜に出歩く訳にもいかないだろう。

流石にそれくらいの常識は持ち合わせている。


「鈴音ぇー、おまたせー!待ったぁ?」

「遅い!誘った方が遅刻すんな!」

「そこはほら、今来たところだよって言うべきでしょ?そんなだから彼氏いないんだよ。服装だってそんなジーパンで!色気ないなぁ」

「…橙子、それブーメランだから、橙子も彼氏いないでしょうが」

「…この話はやめよう、悲しくなってきた」

「激しく同意する」


二人は裏野ドリームランドの入り口まで移動する、警備員もいないし荒れ放題だ。

キープアウトのテープも薄汚れて所々破れている。

壁にはスプレーで落書きだらけ、治安も何もあったものでは無い。

夜に怖い人たちが集会でもしてるのだろうか、夜に来なくて正解だった。


「…これ、…入るの?」

「橙子フラッシュ!」

急に橙子が鈴音にカメラを向けて写真を撮る。

鈴音はフラッシュの眩しさで目がチカチカして狼狽えた。

「はい鈴音のビビリ顔ゲットー、先制ワンポイントー」

「断りも無く撮るな!」

鈴音のグーパンチが橙子の腹にめり込み橙子が悶絶する。

もちろん振りだ、本気で殴ったりはしないし橙子も乗っただけだった。


キープアウトのテープをくぐり抜け中へと侵入する。

中は思ったよりは綺麗に見えた、さすがに建物が崩れる程の時間経過は無い。

所々で塗装が剥げ錆びが出ている程度、それでも多少は廃墟らしい雰囲気が出ていた。

しかし、やはりと言うべきか下品な落書きが目立つ。


「なんかどう撮っても卑猥な落書き写っちゃうねぇ」

「もうちょっと奥まで歩こうか」


奥まで行くと落書きも少なく中々に良い写真が撮れた。

そうなるともう撮るのが楽しくなってきてしまう、元々写真は好きなのだ。

撮るのに夢中になり日が傾き出しても写真を撮った。

夕焼けに染まる遊園地の廃墟、実に絵になるではないか。


次第に別行動をとるようになり、どちらが良い写真を撮れるかという話に発展する。

そんな中、鈴音は観覧車に着目した、大きな観覧車は遊園地の華だと言える。

子供の頃、親の車で遊園地に向かう時に真っ先に目に入るのは観覧車だ。

それは遊園地が近い事を告げる最大のワクワクポイントだった。


鈴音は色んな角度から観覧車を写真に納める。

真下から撮ってやろうと近づいた時だった、妙な音が聞こえた。

キィィ…

金属が擦れる音、それが妙に気になり音の出所を探るとそれはすぐに見つかった。


「ゴンドラ…開いてるやん」

人が乗る時の一番下のゴンドラの扉が開いて擦れ、キィキィと音を出していたのだ。

おそらく近所の不良か誰かが抉じ開けでもしたのだろうか。


これは良い、ゴンドラの中から夕日に染まる遊園地を撮れば良い絵になるに違いない。

締めの観覧車から帰る前の哀愁感漂う写真。橙子に勝てそうだ。

これを撮ったら橙子と合流して帰ろう。そう思い鈴音はゴンドラに足を乗せる。

鈴音の体重でゴンドラが揺れ、またキィキィと音が鳴る。


ゴンドラに乗り、カメラを構えた、その時だった。

キィィ…カチャ…

「え!?」

ゴンドラの扉が…閉まった。

「え?え?嘘でしょ!なん…、開かない!」

鈴音は必死に扉を揺するがゴンドラの扉は中からは開かない。

「出して!出してよ!橙子ー!橙子ーー!!」

ゴンドラの中から叫んだところで離れた場所で写真を撮っている橙子には聞こえない。


無駄な体力を消費しているだけだと気付きゴンドラの椅子に座り落ち着いて考える。

良く考えたら橙子が一緒に来ているのだからそのうち探しに来てくれるはず。

その時に備えて座ったまま体力を温存するべきだ。


どれだけ時間が経ったのだろうか、おそらくほんの数分だろう。

しかし鈴音には何時間にも思えるような耐え難い恐怖感だった。

観覧車という巨大な生き物の腹の中にいるような気分。

いや、巨大な食中植物に捕まった虫の方がしっくり来るかもしれない。

鈴音は自分でゴンドラに乗ったのだから…。


鈴音が椅子の上に手を着いた時、妙に湿ってる事に気付いた。

夏なのだから湿気はあるだろう、現に今もゴンドラの中はジメジメと暑い。

椅子に乗せているお尻まで湿ってきている。…気持ち悪い。

湿気という言葉で片付けて良いような湿り具合では無くなってきた。

鈴音がもう一度椅子に手を着いた、その時だった。


…ネチャァァァ


まとわりつくような粘着性の液体が手の平に付着する。

「きゃあっ、なに…これ、気持ち悪い」

手の平は赤く爛れて薄皮が捲れる。

「いやぁ!痛い!痛いよ!」

慌てて粘着性の液体を服で拭うと服の繊維が溶け始めた。

「ぅぅぅ、助けてよぉ、もう嫌だよ…、…いっ!痛い!熱い!お尻が痛い!」

鈴音は慌てて立ち上がる。あの液体がジーパンの生地に染み込んで溶けていた。

鈴音はジーパンを脱ぎ捨てる、どっちにしろもう履けはしない。


「橙子ぉ…、早く、早く来てよぉ」

ゴンドラの中で発生した液体はとうとう床に溜まり靴の底が浸かる。

靴から嫌な匂いがする、ゴムが溶けるあの匂い。

橙子、橙子はどこにいるの、…早く。もうそれだけが頼りだった。

しかし橙子は来ない、見える範囲には見当たらない。


靴が溶け、足まであの液体が染み込みだした。もう靴も無い方がマシだ。

上着を脱ぎ椅子の上に敷く。そして裸足でその上に乗った。

液体の溜まった床よりは椅子の方がマシ…、下着姿で椅子の上に屈みこむ。

上着が溶け終わるまでに橙子が来ないと…、考えたくも無かった。


考えたくは無くともその時は来る、その時を待つしか無いのだから当然だった。

足の裏が熱い、痛い。皮が…溶ける。


その時だった、ゴンドラが大きく揺れて鈴音は椅子から床に落ちてしまった。

謎の液体に浸かった部分が赤く爛れていく。

「あ!あああああ!!痛い!痛いよ!!」


キィィィィィィ……ガタン…ガタン…ガタン


観覧車が、ゆっくりと、…回り始めた。

錆びが擦れてギィギィと大きな音を出しながら、ゆっくりと、ゆっくりと回る。


「なんで!?電気なんて通って無いでしょ!どうして回ってるの!?」

地面が少しずつ、少しずつ遠ざかる。助かる希望も少しずつ遠ざかる。


鈴音が床から椅子に這い上がると何故か回転速度が落ちた。

その時、鈴音は気付いてはいけない事に気付いてしまった。

それは電気の来ていない観覧車が回るためのエネルギー。


「この観覧車、私を栄養分にしてるんだ…、この液体…、消化液なんだ…」

あり得ない、あり得ない、あり得る訳がない。

しかし現に今、観覧車は自分を回すために鈴音を溶かそうとしている。

「嫌だぁ!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出して!出してよ!」

鈴音は持っていたカメラで力いっぱいガラスを叩くがカメラが破損するだけだった。


椅子の上に居てもじわりじわりと溶かされる。

観覧車はゆっくり、ゆっくりと回る。回る以外の事はしない。

それが自分の仕事だと言わんばかりに、ただ回る。

鈴音という客が乗っている限り、自分の仕事をまっとうする。


「出して…」




女子大生二人の捜索願いが出されたのはその日の夜中だったが見つかる事はなかった。

それと同時期に、廃園になった裏野ドリームランドの観覧車が夜中に勝手に回り出すという噂が広まり肝試しスポットとして有名になる。

女性の声で「出して…」という言葉も聞こえてくるそうだ。



…キィィ…キィィ


「あれ?観覧車のゴンドラ、扉開いてる?」


応援してくれると有難いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夏のホラー2017より参りましたっ カメラのフラッシュと聞くと つい〇竹フラッシュやら光△部やらラプラ◇スの魔などを思い出してしま… 行方不明者2名と言う事実、栄養補給で回り、次の被害者…
[一言] 最近忍び込んだ某テーマパークを思い出しました・・まあ、私は二人より良識のある朝に行きましたけどね!朝日サンサンですよ。忍び込むまでの描写が好きです。自然な仲良しやり取りがいい感じでした。無事…
[良い点] 夏のホラーで検索し、タイトルが気になったのでお邪魔しました。 観覧車の正体、面白かったです。観覧車の中で、必死にもがく描写が丁寧で、怖かったです。 [一言] 二人行方不明ということは、も…
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