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ねじれた少女

作者: 続木パン

「助かりました博士。博士のお陰で未曾有の災害を事前に防ぐことが出来そうです」


 スーツをキッチリと着込んだ初老の男が、隣に立つ若い女に言う。


「私は私の職務を全うしたまでです。礼に及びません。それに………災害はまだ防がれた訳ではありませんから」


 ここはとある場所に秘密裏に建設された秘密の施設であり、想定外に対応するための拠点である。

 女が見つめる先には巨大なモニターが設置されており、そこにはおそらく高校生であろう一人のセーラー服を着た少女が映し出されていた。

 モニターには素人目には理解できない数値が並んでいるが、それは通常ではありえない異常事態を知らせる数字であるらしいが、男にはよくわからない。


「このような施設が本当に必要なのか私にはよくわかりませんでしたが、地震などの二次災害や隣国の戦争の流れ弾の処理あたりが妥当なところだと思っていました。それがまさか、時空をねじれさせている少女への対処とは……よくわからないものですな」

「よくわからないのに、対処するのですか?」

「仕事ですからね」


 そう言って男は微かに微笑む。


「作戦準備! 整いました!」


 男の部下と思われる者からそう声がかけられる。男は頷くと側にあるマイクに話しかける。


「総理。準備は整いました。後は総理のご決断があれば、すぐにでも作戦を開始します。ただ一人の少女に軍による攻撃、本当によろしいのですね?」

「くどい。対象を生かしておけば歩いてるだけで空間が歪み、周囲を崩壊に導くのであろう? ならばこの国を守る総理として出来る決断は一つだけだ」

 

 総理の声にわかりましたと頷くと、今度は室内に居る者たちに向かって声をかける。


「総員、作戦を開始せよ!」

「了解。作戦を開始します」


 施設の中では様々な声が聞こえ始める。出撃した旨を告げる声や、ミサイルの射撃準備が整った声、そしてそれに応答する声。着々と少女への攻撃の準備進められていく。一方のモニターの中の少女はそんな事は露知らずに歩いている。時折、周囲をきょろきょろと見回したり、青い空を見上げたりしながらなので、初めての土地に遊びに来た子供のようにも見える。


「攻撃準備完了。これより目標への攻撃を開始します」

「了解。攻撃を開始せよ」


 モニターの中の少女へ大量のミサイル、砲弾が着弾し、煙や炎に塗れて一瞬で見えなくなった。

 そんなモニターを見つめながら女は呟く。


「果たして空間をねじれさせるなどという、冗談みたいな現象を発生させている少女がミサイル如きで死ぬのだろうか……。 いや、そもそもミサイルそのものが届いていないという可能性だって……」


「そんな…!」

「馬鹿な! 全段着弾したはずだ!」


 煙が晴れた向こう側では、少女は蹲りこそしたもののまだ存在していた。

 女は「やはり無理か……」と呟く。


「博士! あれは一体どういうことだ!」

「我々の理解の範疇を超えた存在であるということだけは、今はっきりしましたね」

「誰もそんな事は聞いていない! 何か対策は……!」


 女は両手を上げる。


「なんですか、それは……?」

「お手上げです。彼女にコンタクトする方法がありません。核兵器でも使えばひょっとしたらという所ですが……。彼女の周囲の空間がねじれている以上、その熱が届かない可能性の方が高いですね」

「くっ! なんてこった!」


 男が机を叩くと同時に、対象に動きありとの報告が入る。


「なんだ……」

「……泣いているのか」


 少女が泣き出すのと同時に、その向こう側にある壊れた建物が歪む。


「空間が歪んだ!?」


 それも視認出来る範囲で…! 女はその後に起こる事態を考え、顔を歪める。

 すると、少女の側にある空間からにょきりと手が飛び出してきた。次に足、そして身体。少年である。

 どこからともなく現れた少年は少女の肩をぽんと叩き、立たせ、何やら言って後でそのまま来た場所にまた入っていった。今度は少女と一緒に、であるが。


「この後処理をどうすればいいんだ……」


 残されたのは、机に蹲る男と呆然とモニターを見つめる人々。そして知的好奇心に目を輝かせる女が一人。

 モニターの中には、建物が小さくなって久しく見る事のなくなっていた地平線が見えていた。


3点お題。


ねじれた少女。

青空。

地平線。


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