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少年と妹―1

お久しぶりです。

 今僕はあの路地裏にいる。

 あの日以来誰もいない路地裏に。

 今日来るのが初めてというわけではない。というよりあの日以来誰もいないここに毎日足を運んでいる。

 花の一つでも手向けたいけどここで起きた事は無かったことになっている。

 あの美少女が手を回してくれたようだ。

 いくら隠蔽工作を行ったところで警察はそう甘くはないが、美少女は警察と少なからぬ縁があったようで、ここでのことは無かったことになった。

 人々は皆の事は知らない。でも僕はずっと覚えていく。でもここに来るのは今日で止めにする。

 ちょうど一週間経ったし皆は別の場所で眠っている。明日はそこに行こうかな。

 僕は路地裏から引き返そうと振り向くとそこに一人の女の子がいた。まだ中学生ぐらいの女の子がいた。

 その子は親のかたきを見るかのように僕を睨みつけていた。

 はて、僕はあの子に何かしただろうか、いや、まずあの子とは初対面だ。

 女の子は僕の方へずんずんと効果音が出そうな程の強い足取りでこちらに向かってきた。そして僕の目の前で止まり。


「あなた!私のお兄様はどこにいるの!」


 知らねえよ。





 今僕は先日異人とお茶をした。カフェにいる。そして目の前では女の子がオレンジジュースを飲んでいる。

 なぜこうなっているかと言うと、路地裏でいきなり目の前の女の子がお兄様がどうこうと言い始めたが、僕には皆目見当つかない、というより女の子が興奮気味で何を伝えたいのかさっぱりだったので落ち着いて話しをしようということで、このカフェにやって来た。


「えーっと、まず君は誰だい?」


 僕はそう切り出した。


「私はお兄様のいもうとよ!」

「………………」


 閉口するしかなかった。


「…………妹ちゃん」

「なに?」

「僕は君の言う、君のお兄さんを知らないからまずその人を教えてもらえないかな?」

「嘘よ!あなたはぜったい知ってるわ!だってお兄様があそこにいたということはもう分かっているの。そしてここ数日あそこを見張っていて来たのはあなただけ。となればあなたはお兄様を知っているはず、さあ!さっさっとお兄様の居場所を教えなさい!」


 人の話を聞いてくれないなあ。


「あのね妹ちゃん、僕は君のお兄さんの特徴や名前を知らないんだ。そもそもキミと僕は初対面、どうしたって僕は君のお兄さんが分からないよ?」

「え……と……それ、は」

「せめて特徴だけでも教えてくれないかな。あの路地裏にいたなら僕は知っているはずだから」


 僕がそう訊ねると顔色が少し悪くなった。


「特……徴。――それより、さっきから思っていたのだけれどその“妹ちゃん”はなに?」

「いや、だって名前知らないし」


 目の前の子が名乗ってくれないからね。


「だとしても妹ちゃんはないわ。ああ、でもあなたに名前を教えたくもないわ。そうね――マイ、でどう?」

「マイ?それ絶対妹の漢字から……」

「なに?」


 睨まれた。


「……マイちゃん。とりあえずお兄さんの特徴だけでも」

「知らない」

「え?」

「知らないというより思い出せないの。お兄ちゃんが私を助けてくれたようたこと、話してくれたこと、そういったことは思い出せるのに――お兄ちゃんの顔や特徴が思い出せないの」


 顔を歪めながらそう言ったマイちゃんの声は悲しみに満ちていた。もしかしたらそういう病気なのかもしれない。確か相貌失認という人の顔の特徴が覚えられない病気があったはず。マイちゃんはそれなのだろう。でも名前が覚えられない病気は僕は聞いたことがない。それとさっきから気になっていたこと。


「マイちゃん。“お兄様”が“お兄ちゃん”になってるよ」


 そう指摘するとマイちゃんの顔から血の気が引いた、と思いきや一瞬で元の顔の二倍以上の赤みを帯びた。


「な、な、違うわよ!お兄様を“お兄ちゃん”と呼んでいたのは小さい頃だけよ!今は徹頭徹尾“お兄様”よ!私はずっとお兄様しか言ってないからね!お兄ちゃんなんか!」


 龍頭蛇尾。最後の最後で“お兄ちゃん”。何故だか目の前の子が可愛く見えてきた。


「何にやついてるの?気持ち悪いわよ」


 訂正。かわいくない。それと気持ち悪くてごめんなさい。僕は顔を引き締めた。


「ともかく、マイちゃんはお兄さんの特徴を覚えてないんだね」

「ええ――そうよ」


 このままこの子が諦めて帰ってくれないだろうか。僕としてはそうしてもらいたいのだが。


「ねえ、気になっていたことがあるのよ」


 マイちゃんがお兄さん以外の質問をしてきた。


「なに?」

「あの路地裏にいた人達はどこにいるの?」

「…………」

「あそこはあなた以外に二人以上はいたのでしょう?だったらお兄様の特徴聞く必要なんてないものね。ねえ、お兄様を含めてあそこにいた人達はどこに行ったの?あなたなら知ってるんじゃない」


 僕は答えない。言い出せない。でもなんとかして絞り出す。


「……知ってる」

「なら!そこに連れて行って!お兄様なら、見れば分かるから」

「……わかった。じゃあ明日十時にここから一番近い駅に来て。そこから僕が案内するから」

「ありがとう!」


 僕は目の前の女の子に真実を伝えるのを先送りにした。目の前で真実を見せて言った方が受け入れてくれると思ったから。でも、それは間違いだった。

 僕は後悔する。嘘をついたことを、真実を伝えなかったことを。

 

感想、指摘待ってます。


徹頭徹尾と龍頭蛇尾という語感と字面が好き

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