少年―4
「そこまでよ」
ヒーローが来てくれた。
考えるまでもない。背中からでもわかるその美しさと強さ。
「ああ!まさかここで会えるなんて!日本一強く美しい美少女ヒーローに!なんて、なんて幸運なのかしら…!」
そう言って異人は、みんなの死体がある方に歩き出した。
「真の美少女の前ではあなた達はごみくず同然。いらないわ、消えてちょうだい」
異人は足をおもむろに上げた。
おい、おい。何をする気だ。やめろ、やめろ。
「やめろ!」
途端、異人が吹っ飛んだ。そして異人がいた場所には美少女がいた。
「最高よ!その力!美しさ!欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい!」
異人は血だらけだった。それでもその顔からは苦痛ではなく歓喜の色しかなかった。
狂気そのものだ。
「その美しさを私の物、がはぁっ」
異人は最後まで言うことは出来なかった。
美少女が一瞬で間合いを詰めその腹に拳を埋めた。
「かはっ、ごほっごほっ」
異人は後ろによろよろと後退していった。
美少女が構える。
「ヒーローは助けを求められて、助ける者」
そう言って異人に最後の拳をくりだした。
「私はあなた」
ぱんっと異人が弾けた。
最後に異人がなんと言ったかはわからなかった。
終った。終わったんだ。
へたり、とその場に崩れおちた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
美少女に心配されてしまった。大丈夫、僕は大丈夫。でもみんなは…。
「これから警察に連絡するのだけれど……」
警察!?警察はだめだ。そしたら、そしたら。
「警察への連絡はやめて下さい!」
僕は叫んだ。
「うわっ!いきなりどうしたの?警察に連絡する野をやめろだなんて」
美少女が僕を訝しみながら訊ねてくる。
「それは……」
それは。
「……みんな離ればなれになっちゃいます。警察に連絡がいったら遺体は回収され遺族の元にいっちゃいます!ここのみんなは家族なんです!でも血は繋がってない。……でも、でもみんなにとっとてはここが本当の家族なんです!みんな一緒のところにしてあげたいんです!」
無茶な事を言っているのは重々わかっている。でもみんなは家族なんだ。離ればなれになんて絶対に嫌だ。
僕が言い切ると、美少女は少し考え込んだ。そしてゆっくりと。
「……あてはある?」
「?」
「みんなを埋める場所のあて。どう?」
そう訊かれて僕は一生懸命記憶を探った。
「もちろん人があまり来ない場所ね」
人が来ない場所。どこかなかったか?
僕は歩きながら考えた。そしてふと、みんなの顔が目にとまった。
あ、あった。みんなで行った、あの場所が。
僕は美少女の方を向いて言った。
「ありました。とっておきの場所が」
それを聞いて美少女は笑顔を作った。
「じゃあ、みんなをそこに運ぼうか」
そうして僕達はみんなを運んだ。
「これで全員かしら」
みんなを埋め終えて辺りを見渡すと既に日が暮れていた。
あの後、みんなをここに運ぶのが大変だった。いや、僕は血の処理をしただけだけど。
運んだのは美少女だ。
「でも、よくこんな場所知っていたわね」
「あーはい。昔みんなで一緒にここに来たんですよ」
僕がぽつりと、みんなと一緒にどこかに行ってみたいと言ったら、一週間後、突然ここに連れてこられた。
みんなでご飯を食べて、遊んで、楽しかったなあ。
『また、みんなで来たいですね』
『ああ、そうだな』
そう約束とも言えないものだったが、普通の会話で言ったことも叶わなくなってしまった。
そうだカノジョにお礼を言わないと。これは立派な犯罪なんだ。
「あの……」
「なに?」
「ありがとうございました。こんな犯罪に付き合わせてしまって」
「……確かに、私達がしたことは犯罪よ。でもあなたが彼ら――家族のことを思ってのことだったから私は手を貸したの」
「本当に…ありがとうございました!」
僕は頭を勢いよく下げた。
手を貸してくれたこと、そして、僕と彼らを家族と認めたことに対して。
「顔を上げて。……ひどい顔、泣いていいんだよ」
「泣いても、泣いたところでみんなは!」
「戻つてこない。でも悲しいんでしょ。だったら泣きな。彼らのことを思っての涙なんだから――思いっきり泣いていいんだよ」
「ぐっ……って……だってなんでみんながっ、僕がもしあの異人にっ、会って、いなかったら。もしかしたら、もしかしたら、うわあああああーーー」
僕があの異人に会っていなかったらきっとみんなは殺されなかった。そんな気がする。
でも、もう過ぎてしまったこと。後悔なんて意味がない。
でも、でも今だけは。
「ちくしょー!うわあああああー」
僕は泣いて、叫んで―――泣き続けた。
「すみませんでした。ぐすっ」
「すっきりした?」
「はい、とても」
彼女は僕が泣き止むまでその場を離れることなく、ずっとそこにいてくれた。
なんて優しい人だろうか。もうヒーローの枠を超えている。
でも彼女はヒーローとしてではなく、ただの一人の人として僕に手を貸してくれたんだ。
よし。決めた。
今から僕が言う事は滑稽でおこがましいものだ、でも、彼女がしてくれたことに何か恩返しをしたい。
そう決意して言う。
「もし、あなたがこの先困ったことがあったら僕を呼んでください」
「いきなりどうしたの?今日のことは気にしなくていいよ。いつものことだし」
僕はかぶりを振った。
「あなたはヒーローとしてではなく人として僕のことを助けてくれた。みんなを埋葬したのはヒーローのあなたじゃなく、人としてのあなただから。僕はあなたに恩返ししたいんです」
彼女は少し目をまたたかせた後、にっこりと笑って。
「わかった。じゃあ困ったら君のことを呼ぶ。約束するわ」
彼女はそっと小指を出した。
「はい、約束します」
僕はその小指にこたえた。