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少年―3

グロい場面が少しあります。

「あら、あなたは先程一緒にお茶した方ではないですか。お久しぶりですね」


  そう声をかけられ僕は初めて気付いた。地の海の真ん中に立つ、先程出会った美女にを


「今から食事を取るところなのよ。あなたも一緒にどう?」

「食…事…?」

「そう、食事よ。人間が生きていく上で欠かせない行為の内の一つよ」


 何を、言っているんだこの人は。ひとを食べるのか。人を食べるのか?いや、そんな人が人を食べるなんて、そんな馬鹿なこと。


「……食べるのってそこの人達ですか?」

「そうよ。当たり前じゃない」


 さも当然のようにぬけぬけと。


「ふ、ふざけるな!人が人を喰う!?おかしなことを!」


 はあ、はあ。こんな大声を出したのはいつ以来だろうか。喉が痛い。


「あははははっ。人が人を食べるのはおかしい?おかしいわよ。でもね私は人間じゃない“異人”よ」

「い……じ、ん?」


 それはもしかして今日読んだ評論の後半にあった…。


「あら?もしかして聞いたことがないのかしら。まあ、知っている人はあまりいないだろうし。私も成ってから知ったからね」

「成ってからってどういう」

「異人ていうのはね……人から怪人になった者のことよ」

「か、怪人だって?だって怪人は」


 人の姿をしていない。明らかに人とは異なる生物で、異常な戦闘能力を保有している生物のことじゃ…。


「ほんとに何も知らないのね。ふーん。じゃあ特別に教えてあげる。まず怪人には二種類いるのよ」

「二種類?」

「そう、二種類よ。まず一つ目はあなたも知ってのとおりの人間とは異なる姿、形をした怪人。もう一つは私のように人から成る怪人」

「人が一体、どうやって怪人になるんだよ…」

「簡単よ」

「欲望のままに生きるだけ。他人は道具。欲望を満たすための手段にすぎない。欲望に身を任せ、欲望と共に生き、欲望を渇望し、満たされることのない欲望を胸にかき抱く」

「それが私達、人から成る怪人―――異人よ」


 目の前の奴は恍惚とした表情で語った。

 人ではない。目の前の奴は怪人―――異人なんだ。


 恐かったでもみんなをここに置いて逃げることなんて出来なかった。


「―――んで、なんで!なんで、みんなを殺したんだ!」

「ふふっ。ふふふ。うふふふ。聞いちゃうの?それを聞いちゃうの?いいわよ、いいわよ。私結構、いや案外?あなたのこと気に入っているみたいだから答えてあ・げ・る」


 異人はにこにこと笑いながら血の池の上で回った。くるくる、くるくると。


「カフェで言ったでしよ。私は美少女になりたかったのよ」


 ?意味が分からない。


「わからない?わからないの?とても簡単なことよ。美しさと若さが欲しかったのよ」

「…………十分綺麗ですよ」

「知ってるわよ。カフェでも言ったでしょ。自己評価ぐらい出来るわよ」


  そ、そうですか。


「この体はいつか老いるのよ。でも美少女は永遠に美少女のまま。美しさも強さも若さも保ったままなのよ!私はそれになりたかった、でもなったのは美女!美少女じゃない!」


 異人はどんどん声を荒らげていった。


「そして私はその美少女になりたいという欲望に身を任せている内に異人となったの!そしたらね!ちょっと見てね!」


 そして異人は横の壁に飛んだ。今度はそのまま別の壁へ飛び上へと登っていく。

 あまりの速さにぎりぎり線で捉えることしか出来なかった。

 僕が呆然としていると後ろから。


「どう?すごいでしょ!」


 と声がした。

 振り向いたが、誰もいなかった。


「うふふ、こっちよ」


 異人は先程と同じ様に血の池に立っていた。


「すごいでしょ!すごいでしょ!私はこの力を手に入れたかったのよ。そしてこの力を使い永遠の美しさを手に入れてやろうってね」


 なんとなく分かってしまった。目の前の異人の行動が。


「エリザベート・バートリー―――血の伯爵夫人。吸血鬼伝説の元となった人物。彼女は美しさを手に入れるため女を大量に殺しその血を浴びた」

「でも私は浴びるだけじゃ意味がないと思ったの。だから美しい人の血を飲むことにしたのよ!美しい人の血を飲めば私は永遠に美しくいられるって!」

「でも、なんで!ここの人達を!」

「美しかったからよ」

「へ?美しい?」

「そうよ。ここの人たちはみすぼらしく見えるけど、みーんな美しかったわ。ここを見つけたのは偶然。すっごく興奮しちゃった。でね!さらにいいことがあったのよ!」


 そう言って異人は死体の中から一つの美少年の首を取った。


「まさかこんなところで特別な―――美少年に出会えるだなんて。それにまあまあ強かったのよ。はあ、愛しい愛しい美少年」


 異人は服が血で濡れるのも気にせず首を抱き寄せ、愛しい人の頭を撫でるかのようにその首を撫でた。


 彼は確か怪人と戦うことが嫌になって路地裏に来た子だ。

 戦うのが恐い。傷つくのが恐いと言いながらも路地裏のみんなを守っていた。

 そんな彼が、彼が、ちくしょう。


「その手を離せ!」

「嫌よ」


 そう言って異人は首を頭上に持ち上げそこから僅かに垂れる血を飲んだ。


「ああ、ああ、ああ!おいっしい!最高よ、最っ高!ああ早くここにあるもの全部―――食べちゃいたい」


 うっとりと言うその言葉に恐怖を感じ僕は後ずさりした。


「ふふっ。大丈夫よ。あなたも食べてあげる。あなたは別に美しいってわけじゃないけど……気に入ったから食べてあげるね」


 彼女は懐から包丁を取り出しながら言った。

 僕は悟ったここで死ぬんだと。そしてゆっくりと目を閉じた。


「ふふふ、素直な子はさらに好きよ。大丈夫、君も一緒にここのみんなと同じ様に私の美しさになるんだから」


 僕は気付いた。このままでいいのかと。このままここのみんなを失っていいのかと。

 そんなのぜったいに嫌だ。

 でもどうすればいい。どうすれば。誰か、誰か助けて!


「どうしたの?私に食べられるとこ想像して興奮しちゃった?」


 そんなわけあるか!

 どうしよう、どうしよう。誰か。


「助けて!!」

「ふふっ。今更助けて?誰も助けてなんて―――」


「そこまでよ」


 美しい声が響いた。

 目を開くと後ろ姿が見えた。後ろ姿は力強く、美しかった。

 ああ、来てくれたんだ。

 ヒーローが。

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