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凡人、異世界に行く  作者: 姫神 玲
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第三話

見ているだけでやる気が無くなりそうな雰囲気を醸し出している少年は便所掃除をしながら溜息をついていた。


「はあ〜。面倒くさいな」


ソラがこの世界に来て二年の月日が流れた。

ソラがこの世界で生きていくために選んだ職業は冒険者。


冒険者は僅かなお金さえあれば誰でもなれる職業だ。

この世界での身分を証明できなきソラが冒険者になったのは自然な事と言えるだろう。


冒険者とはギルドと呼ばれる所で仕事を回してもらい働いている者達の事だ。


ギルドは国から、貴族から、商人から、そこら辺にいるお婆さんまで色々な人から依頼を受け、それを冒険者に紹介して依頼の成功報酬の一部を仲介料として貰い受ける事を生業としている組織だ。


冒険者は依頼を受け、実績を積み上げていくとランクを上げることができ、より難易度が高く報酬もいい依頼を受けることができるようになる。

下から10級、9級、8級と数字が小さくなる事にランクが上がっていく。ソラのランクは7級で下から数えた方が早い。因みに一番上が一級だが。その上に例外として特級というものがあるらしい。

そのクラスになると常識では測れない程の強さになるとか。



7級と言うのはなるのが難しいと言うわけではない。

小さな依頼を重ね続ければ半年程で八級まではあがれる事に加えソラは二年という時間を費やしている。



しかし、大体の冒険者は一年程で七級まで上がっていることを考えればソラが二年で七級まで上がっているのは冒険者の中では遅すぎる。七級になるのは簡単だ、しかし6級に上がるのは7級冒険者の中でも半分程でその上はもっと少なく。その上はもっともっと少なくなっている。

冒険者になる者達は7級から6級の者が半分程で占められている。


便所掃除や街中の依頼は九級や十級の冒険者が装備を整えるためにお金を稼いだり日銭をなんとか稼ごうとするために受けるもので大変な割に報酬が安いと装備が整った冒険者は受ける事はほとんどない。


冒険者の中では七級からは一人前とみなされ七級になった冒険者は大体魔物討伐関連の依頼を受けるのが普通なのだが、ソラは街中の依頼を受け、ほとんど街の外にに出かける事はない。



冒険者として活動してる者達は老若男女、種族問わず様々な者達がいる。まだ、年が二桁にも届かないものもいるし、逆に一世紀の半分を生きているものだっている。


色々な人間がいる冒険者という職業には決まり事が二つある。


一つ、全ては自己責任。自分の事は自分で守れ。


これが、ひとつめ。シンプルで単純。誰かが手を差し伸べて守ってくれる訳じゃない。自分の事は自分で何とかする。


当たり前の事だが、元の世界では常に法という限りなく絶対に近いものに守られていた。この世界にも法はあるが元の世界と比べるとお粗末なものだ。

一般の者がその恩恵を受けることは殆ど無い。この世界の法は貴族だけの為にあると言っても過言ではない。



そして、二つ目は。強い者が偉い。

冒険者という強さが物を言う職業では強さが絶対なのだ。

冒険者同士が争ったとしてもギルドは何ら関心をもたないため強いものに逆らえば殺されはしないが身ぐるみを剥がされたり犯罪に抵触しないなら何をされるかはわからないのだ。

だから、単純に強いやつには逆らってはいけないし強いひとを見極める目がかなり大事だ。




ランクは依頼を受けそれを達成しある程度の実績を残せば上に上がることが試験を受けることが出来る。基本的に雑用より魔物対峙の方が実績としては遥かに高い。

冒険者は魔物を退治しその素材をギルドに売却したりギルドからの依頼として魔物を倒し報酬を貰うことで生計を立てるものが多い。

ソラのように魔物を退治しに行かない冒険者は滅多にいない…と言うかそんな冒険者は居ない…ソラを除いて。


故に同じ冒険者内でも魔物退治をしないソラのことを嘲笑うものは多い。



自業自得なのは分かっているがどうにも気が重い話だ。




「溜息をつくと幸せが逃げるのですよ〜」


ソラが自分の冒険者内での評判について少し考えていると頭の上をプカプカ浮いているイリスが、何処から取ってきたのか自分と同じ大きさのりんごを齧りながら呟いた。


「イリスよ、俺は働いていないのにタダ飯を食らうような奴は最低だと思うんだ」


そして、盗みをするような奴も。そのりんご近所の家の人の庭の木から毟ってきただろ。


「当然ですね。働いていないのに人にご飯をたかるなんて最低です。働かぬ者食うべからずです」


自分の事を棚に上げて人を貶しているこのどうも!あたまわるいですよっ!って挨拶してる感じの雰囲気を醸し出しているのが神なのだから世も末だ。


「お前もそう思うか。それじゃあ、今晩から俺の目の前でりんごをかじっている神様の飯を減らそうと思うんだが」


「ま、まま、待つのですよ。なんでそうなるんですか。」


「当たり前だろ!お前は、飯を食わなくても生きていけるのに美味しいから食べるって理由でどんだけ食ってんだ!お前の食費に俺の金の半分が消えてるっつうの!」


この自称神(笑)であるイリスはよく食べるのだ。ブラックホールが胃袋に入ってるんじゃ無いかと思うぐらいご飯をどんどん食べるから食費が馬鹿みたいにかかる。と言っても大人二人分ほどしか食べないが、それでも自分の質量より多い食事をとっている時点でおかしい。


街中での依頼しかしていないせいで、稼ぐお金が少ない事もあり毎日稼ぐお金は宿代、ソラの食事代に半分。イリスのご飯に残りの全てという具合だ。


「それは、報酬が少ない街中の依頼を受けているソラさんが悪いんじゃないですか!」


「俺は魔物退治とかしたくないぞ!そう言うのはやれる奴がやればいい。…めんどくさいし」


「めんどくさがらないでやってください!私があげた魔眼も使ってくれなきゃ宝の持ち腐れです」


「…その魔眼のせいでめんどくさい事になってるんだが?」


魔眼…未来永劫黒歴史になる中学生男子が通るあの病気の時に開眼する想像の産物……ではなくこの世界に来るときに貰った特典のようなものだ。元々あったソラの目と融合させてあるらしい。


何故そんな力があるのに魔物退治に行かないのか、それにはちゃんとした理由があるのだ。


この世界で魔眼と言える物は様々だ。

数キロ先まで見ることが出来ると言われる魔眼もあれば、目で見る事の出来ない魔力を視認することが出来る魔眼。


一度でも見た事柄を全て覚えることが出来るようになる魔眼。幻覚を魅せる魔眼等など本当に様々だが。そのすべてに共通している事はその能力が強力だということ。


そして、その中でも最強と言われるのが今も世界を脅かしている魔族達の頂点に君臨する魔王の魔眼である。



図書館やギルドの情報によると数十年程前に突如現れ小国を単身で滅ぼした魔族という事しか魔王に関する記述はなかった。

それ以外の、例えば魔眼に関係する情報が存在しないのである。


魔王に強力な魔眼があるのは有名だが、詳細は分かってない。


ある者は未来を見通す力だと。

またある者は見たものを滅する力だと。


様々な噂があるが真実は分かっていない。



そして、ソラの持つ魔眼の能力は。

魔王の魔眼と同じ。まるっきり同じものだ。


意味が分からん。どうやったのかは自分も分かっていない。イリスの言葉を借りるなら。

魔王の魔眼をコピーしてペーストした。だそうだ。やっぱり意味分からん。


まあ、イリス…と言うかアイリスは神様らしいしその程度の事はできるのかも?



しかし、問題はそこではない。そんなことはどうでもいいのだ!

魔眼はその能力を使用している時以外は普通の目にしか見えないようになっている…が、能力使用中はその限りではなく目の色が変色するのだ。


白目の部分が黒に染まり。黒目の部分が金色になる。

およそ人とは思えない化け物のような眼になる。

そんなものを使って誰かに見られてようものならどうなることか…。

なんせ、魔眼は本来そこまでの変色することは無く。せいぜい少し色がついたりする程度で魔王の魔眼のみがそこまでの変色をするらしい。


それを見られたらどう成るだろう。好意はもたれないのは確実でありそんなものを誰かの前で使うのも気が引ける。


それに、仮にも魔王と呼ばれる存在が使っているものをそのまま使うという事はその凶悪な能力そしてそれに比例する魔力も必要になる。


ソラは魔力の量はかなり多いほうだがそれでも魔眼を使えるのは魔力を節約して使用して、何とか一日に三回が限度なのだ。


ソラもこの世界にきて間もない頃は魔眼を使いたくて森で試したが数回使っただけで魔力切れを起こしてぶっ倒れるようなものは特訓のしようがない。この世界に来て魔眼が役に立った事は一度もない。

戦闘に使おうにも戦闘中にも魔力は消費するし、戦いで使うとなると1回使うのが限界だ。

なんなら、倒れたせいで魔物に食われそうになったぐらいだ。




唯一魔眼が役に立ってるとすれば色々見えるようになっていることぐらいしか無い。今のソラの視力は数百メートル先の木の葉っぱの数を数えれるぐらいよくなっている。

それに、本来見えるはずの無い魔力なども見える。この能力は他の魔眼の劣化版と言えるものだがこれが能力ではなく眼そのものの性能なのだから充分すぎることがわかるだろう。


だが、魔眼の特性と言うべきものか。ソラは魔物を集めるのだ。

理由は分からないのだが兎に角沢山集めてしまう。近くにいる魔物が光に集る虫のように集まる。そんな状態で魔物退治に出ようものなら魔物達のご飯になるだけだ。


そのせいでこの世界に来てからこの街から出てほかの街に出たことがない。昔は街からでて依頼をこなしていたが最近では魔物に集られて戦うのがめんどくさくなり街から出ることすら辞めた。


この世界に来た時にこの街が近くになければ魔物の餌になっていたかもしれないと思うと恐ろしい。


この魔眼が呪いの装備だと言うこと事を知った俺はその日からしばらくのイリスのご飯を抜いたりしたのは過去の記憶だ。



黙々と掃除を終わらせようやく、今日の依頼の便所掃除を終わらせて依頼人に依頼完了のサインをしてもらい笑顔を作りにこやかな顔で報告をする。


「掃除終わりましたよ。また、お困りのことがあったらギルドまで言ってくださいね。街中での依頼なら出来る範囲でやりますんで」


今日の依頼人は結構いい人らしく便所掃除を受けてくれたお礼に少しだけ報酬が上乗せされた。それでも微々たるものだが。


依頼札を片手にソラはギルドへの帰路を歩く。



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