番外 送り出した者
「無事にあの世界に行けたようですね」
真っ白の空間でぽつんと佇む一人の女性が安堵したように呟く。
「私のミスで危険な世界に行くことになってしまいました…」
今度は自分を責めるように。自分の行動を悔いるように。
「私があんな事をしなければ…ソラさんをちゃんと輪廻の輪に載せることが出来たのに。私の分身がちゃんとサポートしてくれていればいいのですが」
誰に言うでもなく唯々自分を責める為だけに紡がれる言葉。
その目には涙が溜まっていく。
「確かに、君のせいである事は疑いようの無い事実だね」
女性一人しか居なかったはずの空間にいつの間にか新たな人物が現れた。
その人物は見た目は幼女、声も幼女、果実も幼女。幼女のゲシュタルト崩壊が起きそうな程の黒髪幼女である。
幼女が女性を責めるように言葉を発する。
「ミラ様で御座いますか。私を罰しに来たのでございますか?」
「その通りだよアイリス。僕は君に罰を与えに来たんだ。君のミスは神として有るまじきことだ」
ミラと呼ばれた人物が一歩、また一歩とアイリスに近づいていく。
そして、それに合わせるようにアイリスも一歩、また一歩と離れていく。
ミラは眉をひくつかせながら近づく速度を少しあげる。アイリスも近づかれまいと更に速度をあげる。
暫く同じ事をして、息が上がってきた頃にミラは一度止まりアイリスに向かって怒鳴った。
「さっきから、何してんのさ!なんで逃げてるのかなぁ!」
「に、逃げてるのではありません。こちらの方向に用事があるだけなのです」
「そっちに行っても何も無いと僕は記憶していたけれど?一体そっちの方向になんの用事があるのかなあ」
「うっ」
今度こそ動くなと視線で命令して、ゆっくりと追い詰めるように距離を詰めていく。
アイリスも今度は観念した様にその場を動かずに大人しく待っていた。
「アイリス…君がしたミスは絶対にあってはならないことだ。君のせいであの人間は世界を渡ってしまった。それだけに飽き足らず力を与えてしまった。この意味が分からない君じゃないだろ?」
「…はい」
「でも、僕も鬼じゃないちゃんと理由を聞いて仕方ないと判断できたら罰も軽くなるようにするよ。だから」
その後に言葉は続かせなかったが何故そんな事になったのか…と問うているのは誰の目から見てもわかった。
「…あ……ん…」
「あん?あんって何のことだい?」
「あんぱんを食べていたら輪廻の輪の管理を忘れていたんですぅ!!!」
一瞬の静寂。少し上擦った声が二人だけの空間で木霊する。
実時間では大した時間はたっていないのかもしれない。しかし、アイリスには何時間にも何年にも感じた静寂。
そして、ミラが呟く。絶対零度の声で。断罪するように。
「10年間食事禁止ね」
「い、いやああああああああ」
ソラは自分が異世界に行くことになった原因がアンパンだと知ることは無いのであった。