99何者でもない
――――イテナ視点――――――――
「≪ウィンドプロテクト≫!」
銀髪の青年ハウンドは自分に魔法の保護を掛け、空気抵抗をグンと減らすと、俺の周りを渦巻くように回り始めた。
「腹立たしい。時間稼ぎのつもりか?」
「その通りだ!私は陛下の誇りを守り抜く!!」
何処からか聞こえてくる青年の声には張りがあり、全てを掛ける者の気迫が感じられた。
「愚かしい。此処でお前が幾ら踏ん張った所で、お前と、そこの魔王の死は変わらない」
「その言葉にはこう返そう!愚か者は貴様だ!!
私は、我々は死なぬ為に戦って居るのではない!生きる為に戦って居るのだ!!」
この私が愚か者?狂人とは恐ろしい物だ。いや、先程から考えてみればこの場は狂人の巣窟の様な物だ。この場では私が異端者に分類されるのは致し方あるまい。
「同じことだ。幾らもがこうと生きることは叶わない」
「違う!“私は今生きている”!!生きるとは生命の有無ではない!!
私は陛下に支えられ、陛下を支え、陛下に守られ、陛下を守る。魔王軍は今、繋がりの中にある!これが生きると言うことだ!!
私は死なない!魔王軍という繋がりの有る限り!!魔王軍に終わりは無い!!」
大分見切れて来た。動きは直線的、青年でも自分の速さを制御出来て居ないらしい。撹乱したと思ったのか後ろから襲い掛かってくる。
「鈍い。狂人の戯れ言だな。繋がりの中に生き続ける?幻想だ。もしそれが本当だとするならこの半身をもがれた様な苦しみは何だ?死んだ後に残るのは痛み、そして孤独だけだ。そんな物、弱者が独りよがりの末に縋り付く妄言の類いに他ならない」
小刀で深々と差し貫くと、ハウンドは顔を苦痛に歪めた。
「ぐぁ!!……未だ未だぁ!!陛下を生かさねばっ……!今ここで通せば、ロレック様との繋がりが途切れ……!陛下は本当に死んでしまうっ!!」
ハウンドは鮮血を散らしながら再び俺の周りを回り始める。そこからは本当に鬱陶しかった。
「ハエか。鬱陶しい。もう手遅れだと分からんのか!」
何度斬られても、何度殴られても。何度も何度も俺の周りをブンブン回る。そしてハウンドのスピードが落ち、漸くハウンドを捕らえる。
「終わりだ」
俺が羽織の襟元を掴んで小刀を振り上げるとハウンドは透明な顔で笑う。
「終わらない。これは臨界点。陛下は出来うる限り生きられ、我等はその生き様を見た。もう退路はない。もし私も生き残ったならば、選択せねば。良くも悪くも、今、歴史が変わった」
この期に及んで終焉ではなく臨界と言い張るハウンド。イラついた俺は黙らせようと怒りを露に口を開いた。
「戯れ言を……」
「その証拠に、聴こえるか?ニンゲンよ」
しかし、その途中で当の本人に遮られる。
「何が?」
ハウンドの目は焦点が有っていない。それでも宙を睨み笑った。
「魔人の怒りの破裂音が」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!」
魔王の死体の辺りから壮絶な唸り声が轟く。声だけで空気の流れが変わりそうなその慟哭に思わずハウンドを取り落とした。
急に悪寒に晒された俺は咄嗟の直感で小刀を構える。
バキン!!
次の瞬間俺の愛刀は砕け、代わりに目に怒りを灯した副官ロレックがそこに居た。
「殺ス!!!!!!!!!!」
≪魂食ライノ妖刀が破損しました≫
≪攻撃が813に下がりました≫
攻撃力が下がり、筋力が低下したことで押し負ける。吹き飛ばされた格好になった俺は上手く体勢を整えるとノーダメージで着地した。1度ダメージが入れば死ぬからな。一瞬足りとも気は抜けない。
ニ゛ュルニ゛ュルニ゛ュルニ゛ュル!!
魂食ライノ妖刀が壊れてから暫くすると、まるで生き物であるかの様に蠢き出し、ものの数秒で元の形に戻る。終ぞ使ったことは無かったが、この妖刀を作った時に付けておいた能力だ。中に溜め込んだ血や魂のエネルギーを使って自動的に回復する。勿論、見掛けだけの物で、切れ味は先程の魂食ライノ妖刀には劣る。
散らばった破片を全て集めれば攻撃もまだ幾何かは戻るかも知れないが、そんな余裕はないだろう。
「何故だぁ!!陛下は、お前ら下等種族にも慈悲を与えて居られたと言うのにっ!!何故貴様らはソレを裏切ったぁ!!答えろっ!!」
血走った目で此方を睨み付けるロレックに、俺は肩を竦めた。
「知らんよ。ただの依頼だ」
俺に聞くな。依頼人にでも聞いたら良い。
「ただ、魔王という存在は誰かにとって生きているより死んでいる方が都合が良い。それだけのことじゃないのか?」
俺が極々当たり前のことを言えばロレックはプルプルと怒りに打ち震えた。
「そんなことの為に……。そんなことの……為にっ!!陛下は殺されたというのかっ!!」
「そうだ。魔王を殺したのも。これまで世界を動かして来たのも。全てがそれに尽きる。この世に悪など居ない。誰もが自分以外に悪を作って生きてきたのだ」
人間は弱い。そうでもしなければ生きていくことなど出来はしない。
「イテナァァアアアア!!私は貴様を許さない!!貴様はっ!!貴様だけは私が殺す!!この手で八つ裂きにしてやるっ!!」
鬼の様な形相で俺を睨むロレック。この仕事をしていれば慣れた物だが、長くやっている程に逆恨みの様な気もして来るから不思議な物だ。
「好きにすると良い。ただ、実現不可能なことを口にするのは止めることだ。バカに見えるぞ」
「私のことは……幾らでもバカにすれば良い。だが、貴様はっ、陛下を汚した!!陛下を貶した!!陛下を殺した!!
許し難い大罪だ!!どれを1つ取っても万死に値する!!消えろっ!!」
一言下飛び掛かって来たロレック。それはかなりのスピードだったが、先程のハウンドと同様直線的で少々不自然だ。自分で制御は出来ては居る様だが、明らかにスピードの出方が可笑しい。技でもなく、スピードの上がり方が突然だ。初速とトップスピードが変わらない。あれでは身体に負担が掛かるだろう。
いや、成る程、アレは作り物か。ならばあの違和感も納得が行く。
だが、所詮は直線的であることには変わりない。速さの読みが少々厄介だが、来る所が分かっていれば何ということはない。其処を切り付ければ終わりだ。確かあの男は全自動迎撃の剣を持っていたな。それに引っ掛からない様直前に、鎧の無い顔や首上部を狙って小刀を振り下ろす。
ガキン!
「何!?」
何も覆って居ない筈の顔に刃が跳ね返される。
「フハハ!エドガル!栄光たる魔王軍の礎(検体)となってくれたことを感謝する!!お前のお陰でイテナを殺すことが出来る!!」
成る程、肌にも刃は通らない、と。これは厄介だな。これでは含み針も肌を通るまい。
魔法も、斬撃も、打撃も効かないとは面倒な奴。弱点を探している暇もないと来た。
ならば気は進まないが、毒殺する他あるまい。アレは確実性に掛けるからあまり好きでは無いんだが。
俺は懐から煙玉を取り出し、床に叩き付け、部屋に結界魔法を掛け直す。
「逃げるかっ!」
俺を睨み付けながら大喝するロレックを安心させようと宥めてやる。
「いや?お前を逃がさない様にしただけだ」
「貴様を殺すまでどうなろうと知ったことか!」
プシュー!
睨み付けるロレックを尻目に煙玉より紫色の煙がもうもうと噴き出し、あっと言う間にこの部屋を紫色に変えていく。
俺特製の煙玉だ。煙の代わりに毒霧が噴き出す。野性動物撃退アイテムに持って来いだ。野性動物は死ぬ。
懐からもう2つ煙玉を取り出す。
「さて、俺は毒には滅法強くてね。一緒に浴び比べと行こう」
ポロリと手の中から落とせば、プシュー、プシューと軽快な音を立てた。
≪猛毒耐性を入手しました≫
≪余剰経験値を発見しました≫
≪猛毒耐性が209になりました≫
さて、これだけ投げればどれか当たるだろう。因みに、これらは全て俺の致死量内に収まる様に調合している。俺ごと食らっても被害は精々動きが鈍くなる程度のことだ。さもなければこんな危ない賭けには出ない。
「グッ!クソッ!!貴様っ!!イテナァァアアアア!!許ずものがぁ!!」
毒に対する抵抗力はまるで無かったらしく、直ぐに苦しみ始める。
「吹くなよ。弱者が言って良い台詞じゃない」
ガスリと小刀で小突いてやれば、ロレックはもがきながらどうと倒れた。
「ぐおあっ!」
「さて、止めを差している余裕は無いな。さっさと魔王の死体を運ばねば……」
随分と騒いでしまった。何時また部下が侵入して来るかも分からない。早く依頼条件である魔王の死体を持ち帰らねば。
俺は魔王の所まで行くと、亜空間の中に死体を放り込んでおく。
「さて、残りの用事は“後1つ”。俺に喧嘩を売ってタダで済むとは思わないことだ」
主神だか何だかが、消えた場所へと移動すると、何もない空間に手を置く。
「ナメるな。これでも俺は時空間魔法開発者。この程度の追跡なら難無く出来る」
暫く感覚を集中させ、細かな痕跡を浚う。
「見付けた。『次元相転移扉』」
目の前に1メートル程の小さな扉が現れる。
ソレを勢いを付け、一気に蹴破る。
ガターン!!ガラガラ!!
「えっ!?わっ何よこれ!!誰!?」
中からあの忌々しいクソ生意気なガキの声が聞こえ、怒りが再燃する。
「何者でもない。ただ、お前に殺された者だ」
俺は続いて目の合ったガキに微笑んでやった……。
Quest NO damage clear!
Super stylish!!
難易度変更の記録
イージー→ハード→ヘル→アルティメットヘル!!(←今ココ!!)




