表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
97/107

97魔王

ちょっと短いです。

――――魔王フォルダ視点――――――――


「陛下ァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


耳をつんざく様な悲鳴がどこか遠くで聞こえている。ザシュリと異物が引き抜かれて行くのを半ば他人事の様に見詰めていた。

腹から噴き出す赤い血が、私の命が失われ行くのを模していた。

私は1、2歩下がるとガクリと崩れ落ち、止まらない出血を抑えようと激痛を無視して血を手で無理矢理止めようとする。

大分特殊な物で切られたな……。血が止まらない……。

冷静に、冷酷な程に頭が冴え、真っ先に自らのステータスを覗き、残り2桁とかなり少なかったHPが刻一刻と減っていくのを目にし、そして理解する。

私は死ぬ。

それは、単なる客観的事実であり、逃れる術など有りはしない。ただ、命の刻限を知れただけだ。


「フム、もう一撃か……」


止めを刺そうと侵入者が1歩此方に踏み込むが、私がそれを許す筈もない。


「≪フレイムジャベリン≫!!」


炎の中級魔法だが、私の膨大な魔力に物をいわせて数十発創造し、侵入者に向かって一斉に掃射する。


「チッ!『邪悪なる帝撃』!」


侵入者は先程見た真っ黒な光の奔流で凪ぎ払うと、警戒したのか後ろに下がる。


「滑稽だな。こうまでして死を拒否をするとは。いのちなど好きなだけくれてやると言っていた先程までの威勢はどうした?」


血は止まらない。心臓の鼓動に合わせる様に血が噴き出して来る。血の気が引き、顔色が悪くなっていくのも自分で分かるが、それをおもてには出さない。余裕綽々の侵入者を睨み付けてやる。


「貴様の方こそ、天使の一撃でとっくにくたばったのかと思ったぞ……。死に損ないが何を言う」


私の挑発が気に入らなかったのか、フン、と眉を顰める侵入者。存外綺麗な顔をしている物だと場違いなことを思った。


「減らず口を……。大体今更死を遠ざけることに何の意味がある。もう暫くもしない内に死ぬと言うのに。死ぬということに然したる違いは在るまい」


違いは、在るのだ。大きな違いが。


「私は、命をムダにはせん!私は騙ったのだ。皆を野望ユメの果てに連れて行くと。皆が平和に暮らせる、誰もが生きることを邪魔されることの無い世界を創り上げると。

私は大嘘つきだ。だが!嘘つきであるが故に!嘘であるなど認めることは出来ん!!

命が数瞬でも有る限り、野望を実現するべく私は足掻く。命を諦めるなど、私の野望うそに付いて来てくれた部下に、申し訳が立たん!!」


私が命を諦めることは、私の為に死んでいった者達への侮辱だ。


「『支配権の強奪』ッ!!」


私のありったけの寿命(命)を賭け、能力を発動させる。どうせ数分も生きてられないのなら侵入者だけでも……。私は殴り掛かるが、侵入者は私の拳が到達する直前に消え失せ、遠くに現れる。


「天使の一撃を避けたのもそれか……。カハッ」


私の最後の一撃は空を切り、発動の副作用が一気に襲い掛かり、その凄まじい激痛に吐血した。


「危ないな。今のはマトモに当たれば全快だろうと死んでいた。やはり手負いの獣には近付かないでおくに限る」


手負いの獣か……。言ってくれる。侵入者の生きる上での当然の選択を苦々しく思いながら俺は倒れ伏した。


「陛下ァ!!」


私の言葉に呆然としていたのが私が倒れたことで我に返ったのか、ロレックが即座に私の倒れた横に駆け付ける。

ロレックの叫びに他の2人も我に返ったのか、侵入者の迎撃に向かうのが横目にチラと見えた。


「陛下!!申し訳御座いません!!私が即座に守らねばならない所を……っ!!」


駆け付けた刹那、謝り始めたロレック。こいつは変わらないなとつい笑ってしまう。笑ったことで腹の筋肉が引き吊り、激痛が走ったことで直ぐに顔は歪められるが、気分が良いことにはかわりなかった。


「良い」


「しかし!」


更に言い募ろうとするロレックの言葉を遮る様に私は言った。


「ありがとう」


「えっ?」


キョトンとした顔をするロレックに思わず笑ってしまいそうになる。だが、今は感謝の言葉を言わなければならない。茶化すのはご法度だろう。


「ありがとう。私の闘いを見届けてくれて……。負けはしたが、これで戦士として、誇りの内に死ぬことが出来る」


私は陛下と呼ばれ、王として生きてきたが、それは私の本質ではない。何時まで立っても私は一兵卒気分が抜けんのだ。私の本質は戦士。20年前のあの日、魔王様を護れなかった敗残の将に過ぎない。言うなれば魔王軍残党。所詮、王たる器などでは無かったのだ。

「死ぬなどとっ!!言わないで下さい!陛下に拾って頂いてより十余年、何が足りなかったのですか!?何が至らなかったのですか!?言われれば直します!!死ねと言われれば死にます!!

ですからどうか……っ!!どうかっ!!生きて下さい!!」


ロレックは顔をグシャグシャにして泣き喚く。有能故に忘れていた。そうか、そう言えば去年20になったばかりだったな。第1次侵攻時の数少ない戦災孤児だったか。あっと言う間に大きくなったな。そうか、ということは魔王様を知らないのか……。

不思議な物だ。魔王様の仰っていた我らの次の世代の者。それがこんな近くまで来ていたのか。老いる訳だな。

「後のことは、お前に託す」


時代に取り残された老兵がのさばる時はもう過ぎた。我ながら駆け抜けて来た物よ。


「どうして、ドウシテ何も仰って下さらないのですか!?まさか本当に……」


ロレックの顔が絶望に歪む。


「人間っ!

ニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンニンゲンッ!!

お前らはっ!!一体どれだけの物を奪えば気が済むんだ!!

私の父母!村!居場所!それだけじゃ飽きたらず、陛下さえ……。私の生きる意味さえ奪おうと言うのか!!

お前らは鬼だ!!悪魔だ!!この世で何よりも許しがたいっ!!言ってみろ!!私が!私達が一体何をしたと言うんだ!!

私達は何もしていない!!陛下のもと、平和を望み、静かに暮らしていた!!

私達は!!ただ生きることさえ許されないと言うのか!!」


烈火の如く怒り狂うロレック。私は最後の力を振り絞り、ロレックの肩に手を置いた。


「ハッ、へ、陛下!」


血がべっとりと付いてしまったが、ロレックはそんなことを気にする様子も無く、真摯に私に顔を向けた。

そうだ。私は、導いてやらねばならない。それが、この数瞬に遺された命の意味だ。野望を諦めない唯一の方法だ。

そうして私は言った。

それは奇しくも、第一次侵攻時、魔王様が死の間際に言い放った言葉だった……。


「人間を怨むな」


「は?」


信じられない物を見る様なロレックの顔。ロレックは暫く呆然とすると、ぽつりぽつりと言った。


「何故ですか?何故その様なことが出来るのですか?陛下とて、ニンゲンに被害を負わされたのに、ニンゲンに難癖付けられたのに……。どうして、怨まないことが出来るのですか?どうして!?」


ああ、鏡の様だ。私とてそこまで聖人君子という訳じゃない。

恐らく、この世で最も人間を怨んで居るのはこの私だ。

叶う物ならば、奴等を、この手で八つ裂きにしてやりたい。

奴等は我が父を殺し、母をなぶり、妹を市中引き摺り回し、原型を留めない程殴られボコボコになった頭を晒し首にした。身寄りを無くした私は、恐怖に怯えながら残飯を漁り、震えながら夜を明かし、何時しかそれに耐える為のスキルさえ得た。

魔王様に拾われることで得た居場所もまた、人間共は奪い去っていった。この人の為に死のうと誓った魔王様まで奪われた。

人間の非を水に流し、融和さえ考えていらっしゃったと言うのに、その返答が侵攻。挙げ句の果てに、魔王様の死体は高値で取引され、薬として金持ち共の腹の中に収まった。

私は、人間という生き物に吐き気すら覚える。正直、魔王様のことが無ければ何度でも根絶やしにしていた。

ただ、私がそれを踏み留まることが出来たのは、ある1つの事実が在ったからだ。

その歴史の皮肉が、辛うじて私を踏み留まらせたに過ぎない。

伝えねば。伝えねばならない。

私は遠くなる意識を何とか繋ぎ止め口を開ける。


「それは……。魔、王様は、イサハヤ・ヨウスケ様が……」


――人間だったから。

私の全てを奪い、必死で築き上げた物さえ奪っていったのも人間。

そして、私に、全ての亜人に光を与えてくれたのも人間。

「人間も悪い者ばかりではないのだよ……。本当は」そう悲し気に仰る魔王様が瞼の裏にチラ付いて怨みきることが出来なかっただけだ。

それがこの世のたった1つの真実。

しかし、それを伝える事が出来ぬまま、泣きじゃくるロレックを前に私の意識は遠退いて行った……。


やっぱイテナさんきったねぇ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ