95悪vs魔王軍vs天使
ちょっと遅れましたすいません!!m(__)m
――――イテナ視点――――――――
「畏まりましたユーピル様……」
2人の天使が恭しく跪くのを一顧だにせず、ガキはサークルの中に消えて行った。天使共は自らの主人が消えるのを見届けてからゆったりとした気品溢れる仕草で此方を向く。
「さぁ、お前の運命は此処までだ」
それはまるで信託の様に部屋に響いた。やはりあのガキよりも余程神らしい。まぁ、その信託の内容には全く同意出来ないがな。
「ほぅ、随分と自信家だな。この死地の突破口を開いてくれたことに感謝しよう」
慢心は失敗の親だ。敵が持っていることに感謝せねばなるまい。
「自信家?今のお前は其処らの蟻と同レベルだ。蟻を踏み潰すのにどんな自信が必要なんだ?」
「力量差を弁えてから物を言うことですね。傲慢に聞こえますよ?」
2人の天使が口々にそう罵る。いや、2人にとってはそれが常識なのか。常識が遥か高みから形成されているせいで端からは傲慢に見えるだけだ。
「ならばその傲慢を打ち砕いて教えてやろう。どちらが蟻で在ったのかをな!」
実に腹立たしい。不愉快だ。こういう輩には挫折という物を味合わせてやろう。
『力の集積∴全』
ギュォオオ……。
俺の周りを膨大な量の魔力が渦を巻く。力の中心に居るようで心地良い。
この魔法は本来魔法とも呼べない単なる力の移動だ。魔力を与えていた分身から全て徴収する。まぁ、正確には最初に与えた魔力量の全てを回収する、だが魔力を増やす手段がない以上然したる違いもないだろう。
俺の今の魔力の器が1なので体に入れることは不可能だが、俺の周りに留めることは出来る。今周りにある魔力はこの世界の尺度に合わせれば総量150000に届かない位だろうか。
器が無い以上このままの状況にしておけばまるで栓を抜いた様に急速に無くなって行くだろう。幾ら魔力操作に長けた俺でも自然の法則に逆らうことは出来ない。これだけの量が有っても30分も持たないだろうな。
サッサと行動に移すに限る。
俺はより不愉快だった男の天使の方に向かって右手を伸ばす。
「な、何だ!?」
驚く天使を他所に俺の右手を追うように膨大な魔力の奔流が天使を襲う。
「かなりの魔力を持っているな。丁度良い。俺に寄越せ。『スナッチ』」
≪魔力浸透を発動しました≫
≪余剰経験値を発見しました≫
≪レベルが416になりました≫
≪魔力構成操作を発動しました≫
≪余剰経験値を発見しました≫
≪魔力操作を発見しました≫
≪魔力構成操作に統合しました≫
≪レベルが197になりました≫
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
多数の天の声と天使の声が耳を掠めるが、一切無視して天使へと集中する。繊細な作業が必要とされる所だ。
今俺がやっているのは魔力構成の書き換えだ。天使の魔力の構成を俺の魔力を用いて天使の魔力構成が俺の魔力構成と全く同一になる様に強制的に上書きする。
勿論、そんなことをされて体が無事である筈がない。天使の体は直ぐにボロボロに崩れ始め、数秒も立たない内に錆とも砂とも取れない物となって天使が生きていた場所に降り積もった……。
「あの天使を倒したのか……?」
魔王が驚いた様子でかつて天使だった何かを見つめている。
天使は倒したが、経験値はどうやら入らなかったな。そういうシステムに組み込まれていないのだろう。折角の大物だというのにかなり残念だ。
まぁ、“魔力が手に入った”だけでも良しとしよう。俺は天使だった物に対して伸ばしていた右手を体の方に引き戻す。それに準じる様に俺の魔力が俺の体の周りに戻り、元通り渦を巻き始める。
ただ1つ違うことがあるとすればそれはその魔力の量だ。その総量800000。先程の3倍以上だ。
まぁ、それも当然。『スナッチ』とはその為に開発した奥義なのだから。スナッチの全容は俺の魔力を用いて敵の体内で擬似的な魔粒子縺れを発生させ、敵の魔力構成の配列を強制的に書き換える。そうやって俺の魔力と同じ魔力構成、つまり俺の魔力とする。その副産物としてこの錆とも砂ともつかない絞りカスが発生する訳だ。
デメリットとしては変換率が80%程度であること、それに魔力の初期投資がかなり必要であること。そして、『ステルス』もそうだが、かなりの集中力と技術を要する為にリソースをかなり割り振らなければならないこと。横からいきなり不意討ちされても防げないだろう。
まぁ、このデメリットを加味してもかなり有用性は高いがな。更に今後は『ステルス』と同様にスキルによる自動補助が期待できる。多少使い易くなるだろう。
「嘘……」
女の天使は呆然と、さっきまで男の天使居た場所を見つめている。
一応右手を伸ばすと、かなりのスピードで反応し部屋の奥まで後ずさった。
そりゃそうか。流石にさっきの今だ。警戒するのは当然だな。あの能力値では最早『スナッチ』を当てることは出来まい。
まぁ、良い。先程言った様に蟻を踏み潰したのは副産物だ。やりたいことは他にある。
「分身創造」
魔法を使うのと同じ感覚で魔力で肉体を作り上げ、俺とほぼ同一存在を誕生させる。
その数、10体。
この大量の魔力は器が無い限りどんどん目減りしていってしまう。
だが器が有れば話は別だ。分身を作るのに使えば良い。ただ全部分身を作るのに使ってしまうと俺が動けないので残りは簡易分身用の金属版に貯めておいて何時でも引き出せるように用意しておく。
これで魔力は確保出来た。
3級主神の呪いと言ったか。この呪いの厄介な所は俺の今着けている装備ごと能力値が1になっていることだ。今は戦場なので装備の総取っ替えが出来ない。武器だけで我慢する他に無いだろう。
それに防具を変えた所で焼け石に水だ。鎧から伝わる衝撃だけで死んでしまう可能性もある。それに能力値がそれほど上昇する訳でもない。ただの金属など纏うだけ邪魔だ。
だが、敵にダメージを与えられる手段を持ってるかどうかは冗談でなく命を左右する。
異空間に仕舞っておいて運が良かったな。コレも呪いを受けていたらどうなっていたか分からない。
俺は異空間から小刀を2本取り出すと、付いていた鞘を投げ捨てた。
≪血吸イノ妖刀を装備しました≫
≪攻撃が612上昇しました≫
≪魂喰ライノ妖刀を装備しました≫
≪攻撃が612上昇しました≫
両手の中でクルリと一回転させて手中に納める。鞣された皮の柄が手に良く馴染む。
刀身を見れば、1本は紅く、1本は紫色に鈍く光る。その刀身がまるで生きているかの如くブルリと震えた様に錯覚した。
しかし、久し振りだな。この2本を持つのは。最近は元居た世界でも前線から離れていた俺は人を殺す機会はあまり無かったし、有ったとしてもこの刀を使えば俺が殺したとバレるので一切使わなかった。
永らく放置していたが、切れ味については全く問題ないだろう。何せ俺が直々に鍛え上げた刀剣の中で両方とも過去最高傑作だ。その程度で錆びる様な生易しい作り方はしていない。
「何ですか……。その禍々しい剣は……」
美しい天使の顔が憎々し気に歪み、まるで親の仇でも見るかの様に俺の刀を睨み付ける。
「まぁ、今に分かる」
大分辺りが騒がしくなって来た。あのガキが騒いでから2分も経ってない。正確な情報が一切無かったんだ。通常なら十分誉められる時間だろう。
バカン!!
「陛下ぁっ!!御無事ですか!!」「そこに居たか侵入者っ!!」「陛下を守れっ!!」
そして扉はブチ開けられた。
1人の魔人が部屋に侵入したのを皮切りに、続々と魔人の男たちが部屋に入ってくる。余談だが、誰一人曲者とは言わなかった。
俺は2本の小刀をぶつける。キンッ、という甲高い音が小さく響き、俺はそれに眼を閉じて集中する。
「下がれグズ共!!」
「え?」
魔王フォルダが声を張り上げるが、魔人達はその忠誠心からか、命令を遵守するか命を守るか行動を迷い、そこに一瞬の隙が出来る。
「遅い」
俺の声はその集団の中から発せられた。
『瞬間移動』、空間魔法による一切筋力を問われない移動方法だ。失敗すると岩や木等にめり込んでしまうので目の届く範囲しか使わないが。通常は莫大な魔力を使う為使用は控えるが、今回は天使のお陰で膨大な魔力が手に入った為に魔力残量を気にせず使うことが出来る。
魔人の男は驚いて振り返ろうとするが刀を振り上げた俺の方が速い。
ザシュ!!
「ぐあっ!!」
鮮血が飛び、喉元をかっ斬られた男が悲鳴を上げるが、事はそれに収まらない。
ジュルン……。紅い光に鮮血が付着した刀はそんな音を立てたかと思うと、表面に付着した血液を“飲んだ”。それに合わせて紫色に妖しく光る刀は男から目には見えない何かを吸収する。
≪攻撃が2上昇しました≫
≪攻撃が2上昇しました≫
もう一度瞬間移動で元の位置に移動した俺は即座に刀の力の上昇を感じた。
「クク……。アハハ……。流石は魔人、といった所か……。今までにない力の上昇を感じる。これまでチマチマと人間を殺して上げていたのが馬鹿らしくなるな」
この刀を過去最高傑作と言ったのはつまりはそういうことだ。この2振りは成長する。血吸イは血を、魂喰ライは魂を取り込んで切れ味を増していく。今まで、この対の刀には10000を越える命を与えて来たがその中で一番の上昇率だ。たかが雑兵でこのレベルとは、魔王軍の水準はかなり高いらしい。
「キサマァッ!!」
後ろから大喝が聞こえ、何かと振り返れば、それは魔王の怒りの発露であった。
怒髪、天を衝く。正しくその言葉に相応しい程に顔を怒りに染め、そして弾丸の様に此方に突っ込んで来た。
魔王は空中で身体を弓なりに曲げると叫ぶ。
「≪ボルケーノナックル≫!フンッ!」
大きく振り上げた大上段の拳を右手に納めた血吸イで受け流す様に受け止める。直撃すれば能力差が大きすぎる。吹き飛ばされてそれで終わりだろう。
ボカァン!!
巨大な衝撃と摩擦に、炎系魔法による爆発。幸い、爆発そのものが当たることはなく生き永らえることが出来た。今はHPが1しかない。どんな些細なことでも死に直結する。
「何だというんだ全く……」
粉塵で見えなかった魔王の顔が漸く見えた時、その顔に浮かんでいたのはやはり怒りだった。
「キサマァ!!アレは私の部下だ!!幾らグズで無能だろうが守るべき家族があり幸せがある!!私の命令以外で死ぬことなど許せるものか!!
≪身代わり≫!私は全てを支配する!!不幸など全て淘汰する!!もう何も奴等には失わせはしない!!」
「ご苦労なことだ。やってみると良い。俺はお前の命を奪いに来た」




