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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
91/107

91裏切られた

――――正也視点――――――――


「もっと向こうか!?」「ああ!」


ダダダダダ……。


何人かが俺の前を通過して異音が起こった場所へ急ぐ。何とか見付からずに済んだ俺は額の冷や汗を拭った。


「ふいー、向こうから人が来て一時はどうなるかと思ったぜ。良い感じに窪みがあって助かったぜ」


俺は前から来た盗賊団員を壁にあった窪みに息を潜めて遣り過ごしていた。少し前にあった扉の向こうからわいわいと声が聞こえて来たので咄嗟に窪みに身を隠したのだがどうやら正解だった様だ。


「しかし、あの扉……。臭うな」


刑事的な意味である。決してあの部屋から俺達が監禁されていた時に嗅いだ様な匂いがした訳ではない。それはともかく、見張りの盗賊が居たということはそれが守る物があるってことだ。盗賊が守る財産か……。思い付く限り挙げれば金銀財宝に宝石、そして商品になるだろう奴隷……。そう、咲良(他1名)だ。

性処理って可能性もあるけど、だったら監禁されていた場所は逆になっている筈。


「よっしゃぁああああ!!良くもMrs.Bをバラバラにしやがったな!?覚悟しやがれ咲……」


バン!と半開きだった扉を勢い良く開け、そしてそっと閉じる……。

閉じられた扉の前で俺は頭を抱えた。

え?どゆこと?

ゴメン、情報の処理がおっつかない。

恐る恐るもう一度扉を開けてみる。


「えーと?」


結論から言おう。

咲良(他1名)は盗賊達に奴隷扱いなんてされて無かった。

この惨状を見てもらえればそれが分かると思う。

洞窟内の小部屋に敷き詰められて居たのは燭台に立てられた蝋燭。数え切れないけど多分100本は越える。中央には牛みたいな動物――多分牛に似た魔物だと推測される――の死骸。山羊――悪魔かも知れない――の頭部が黒魔術っぽい魔方陣的なサムシングの上に置かれ、咲良達は大理石に見える寝台の上に縛り付けられている(猿轡アリ)。


「やべぇ。咲良拉致ったの盗賊じゃない可能性出て来た」


生け贄ですよねぇ!?

紛うことなき生け贄ですよねぇコレ!!

あんなヒャッハーしといてコレですか!今俺の中の盗賊の概念が急激に邪教徒と同じになりつつある。

まさか邪教徒があんな盗賊みたいな格好してるとは思わなんだ……。


「取り敢えず助けよう……」


凄すぎるギャップに脳内ニューロンが働かず、完全にショートした俺は何を血迷ったかMrs.Bを殺スライム未遂した二人を助けることを決める。いや、幾ら咲良でも生け贄は可哀想だなって。多すぎる蝋燭を器用に避けながら咲良の下に辿り着くと、さっきの小型鑢で縄を解く。


「ぷはっ、助かった。アンタねぇ!!もっと早く助けに来なさいよ!もう少しで生け贄になる所だったじゃない!」


あ、やっぱし?

いつもなら「んだと!?このアホ面が!テメェが捕まるからこんなことになってんだろうが!殺すぞこのクソアマが!大体俺はお前がMrs.Bを殺し掛けたの許してねぇんだからな!?」と返す所だが、ショートしていたせいもあって猿轡を解いた咲良の言葉に妙に素直に納得すると今度はスーザンの縄を解きに掛かる。


「ぷはっ、助かりました!マサヤ様!私のピンチにササーッと現れてバシュンと助けて!流石は勇者という職業をなさっているだけのことは有ります!やはり古来よりその素晴らしい気性こそが……」


うん、もう一回猿轡しようかな。

ウルセェ……。もっと空気読めねぇのかよ……。盗賊達が猿轡しようとした理由分かるわぁ……。コイツ放って置いたら永遠喋り続けるんじゃないか?狂信者同士仲良くしろよ。


「ああ、これも主の御導き!決めました!貴方を私の伴侶にしますっ!」


「ハァァアアアアアアア!?」


ビシッ!と擬音が付きそうな位綺麗に指差された俺は疑問の咆哮を上げる。コイツの頭はどうなってるんだろうか、とか俺の意思は全無視なのか、とか疑問が湧き上がる前に咲良がスーザンにツッコんだ。


「バッ、バッカじゃないのアンタ!?い、いきなり結婚だなんて穢らわしいっ!」


そうだそうだ!今だけ味方するぞポンコツ咲良!言ってやれ!


「正也は優人と結婚するに決まってるじゃないっ!」


カオス。此処に極まれり。


「このポンコツがぁああ!!穢らわしいのはお前だ!!良いからお前はちょっと黙ってろ!話が余計にややこしくなる!!」


咲良は何処まで行っても安定のポンコツだった。一瞬でも信じた俺がバカだった。


「成る程、衆道ですか、これは矯正しなければなりませんね……」


何かを納得したスーザンが顎を抑えて考え込む。


「ねぇ何するの!?ねぇ何するの!?っていうか何納得してんの!?俺ノーマルだから!そんな性癖ないから!勘違いすんなよ!?頼むから!」


後ろで咲良がえっ!違うの!?みたいな声を上げたような気がしたがこの際全力で無視しておく。つかどうやったらそんな勘違いするんだこのポンコツは。


「なぁに、ちょっと主の御言葉を説教するだけですよ」


俺の台詞の後半部分はガン無視してスーザンが良い笑顔でそんなことを言った。


「恐いよ!?お前が言うとお話がOHANASIに聞こえるよ!?っていうか矯正しなくて良いから!元からノーマルだから!女好きだから!学校のアイドル宮崎さん超好きだから!」


「そんな……。伴侶に酷いことなんてしませんよ……」


お前ならナチュラルにこの部屋の惨状を再現しそうで恐いよ……。


「ガチで断る!!大体何で決定事項みたいになってんだよ!嫌だからな!?空気読めない狂信者なんか嫌だからな!?」


「で、信者同士じゃないと結婚は出来ないので早めに入信手続きを取りたいのですが直近の空きは何時になります?」


「話を聞けぇぇぇえええええ!!」


俺の周りにいる女が地雷ばかりな件について神様に抗議することを検討している。


――――イテナ視点――――――――


完全に物言わぬ死体となった男を見ながら俺は溜め息を吐いた。今回の件については意志疎通の齟齬が起こした不幸な事故だった。どの道本体の利益になるのは確実なのだが、無駄な争いをしたことも確かだ。


「また溜め息ですか?先程から目立ちますが」


隣で見ていたユウトがそんなことを聞く。


「ん?いや、特に意味はない」


「先程の戦いで何か怪我でも?凄まじいスピードでの戦いでしたが」


ああ、確かにユウトから見れば速かったかも知れないな。俺から見ればむしろ力の無駄遣いだったが。


「心配するな。本体なら俺の10倍の肉体能力を持つ。本体の記憶を持つ俺から見ればそれほどの物でもない」


「な、成る程、これの10倍ですか……。それは凄まじい……。所で剣は何処にあるか分かりましたか?」


ユウトは口許をひきつらせながら誉める。何処かで話した様な気もするがしていなかったか?


「先程の戦闘の反響音から察するにその銅像の奥の突き当たりだろう。外部の山肌から推測してもこれ以上は広がってない筈だ」


俺の言い分に目を丸くしたユウトは不審気な顔をしつつも俺の言った場所に赴き、そして驚きの声を上げた。


「有った!」


「当然だ。こんな下らない所で嘘を吐く必要もない」


俺がそう言うと奥からユウトの感心した声が返ってきた。


「目が見えているのにエコーロケーションも使える人なんて初めて見ましたよ……。あ、有った。イテナさんの剣は何処ですかー?」


別に剣は失ったとしても惜しくはない。魔力で創られている物であり、簡単にまた創造できる。だが、節約的な意味で手離したくないのもまた事実だ。特に魔力で創られた分身である俺からすれば新しい剣を創造するのはかなりの痛手だ。無いなら無いで別に困らないが、有った方が良い物なのは確か。探す位の魔力消費は安い物だ。

俺はユウトの下へ行くと、そこには盗賊の仕事の成果が堆く積まれていた。堆金積玉とまでは言わないがそれなりではある。この中から小刀1つを見付け出すのは骨が折れそうだと思いつつ、手始めに手前から探そうとしゃがんだ。

その瞬間。


ヒュッ……。


後ろから幽かな風切り音が聞こえ、その音は着実に首筋に近付いて来た。


パシッ!


「何の真似だ?」


片手で、“ユウトの剣を受け止める”とユウトに圧を掛ける。しかし、当の本人は涼しい顔でこう返した。


「決まってるじゃありませんか。裏切りです。しかし流石ですね。まさかロングソードを片手で、しかも掴み取るとは。全くの想定外です」


そんなことは分かっている。はぐらかしてわざわざ手間を取らせるな。


「俺が聞いているのはどうして今此処でお前が裏切ったか、だ。俺は何か裏切ることによるお前の益を見逃していたか?」


此処で裏切った所でただの犬死にだ。得などない。奴がそんな愚かなことはしないだろう。そう思っていたからこそ安心していた。だが、何か見落としていた利益が有ったのだろうか。そんな思いで発せられた問にユウトは静かに首を振った。


「いいえ」


「では、何か勝機でもあったか?成る程、剣が変わっているな。良く見れば装備も。審眼で見ればレベルも高まっている。どこぞの冒険者相手に追い剥ぎでもしたのか?だが、“その程度”で俺を確実に倒せると踏んだのか?もしそうならば頭が切れると言ったのは取り消すことになるぞ」


バキバキッ!!


手に力を込めて、握力だけで剣を破壊する。幾つにも砕けた刃が手の隙間からポロポロとこぼれ落ちていく。


「やはり、届きませんか……。単なるケジメですよ。貴方はまだ正也と咲良を傷付けるかもしれない“脅威”でしか無かった。しかし、今は別です。あの咲良を誘拐した男は貴方の仲間でしょう?貴方は咲良に危害を加えた明確な“敵”です。敵は排除しなくてはなりません」


バレていたのか。こうなるかも知れないと思って一応隠していたのだが。絶対に気付く筈はないと高を括って雑に嘘を吐いていたかも知れないな。


「何処で気付いた?」


「あの男が“バルサム”という言葉を使い出した辺りから、ですかね。王城で姫様にその名の話を語っていたでしょう?侍女に聞きました。彼女らは暇ですからね。ロマンスには目がないんですよ」


「チッ、一応人払いはした筈なんだがな。俺の方でも探ったんだが……腕が落ちたか?」


そんなことは有り得ないレベルで自信を持っていたんだが……。


「まぁ、何処にでも目はあるということですよ」


「そういうことにしておくか」


情報ソースはどこか別の所に有りそうだが深くは追求するまい。


「敵、か……。ならば停戦協定を申し込むとしようか……」


俺がそう言うとユウトはにっこりと微笑んだ。まるでその一言を待っていたかの様に……。


「そう言うしかありませんよね。お受け致しますよ。此方の出す条件さえ呑んで頂ければ」


やられたな。ここまで規定路線だったか。確かにこんな所で勇者が死んでしまえば元々危うい勇者の地位は一気に下落し、勇者としてのアンダーカバーの意義もなくなる。だが、裏を返せばたったそれだけのことだ。ユウトはそのたったそれだけのことに命を張った。“ケジメをつける”ためだけに。何とも頭のイカれた男だ。


「良いだろう。条件を言え」


「正也、咲良両名を全力で庇護すること」


「お前は良いのか?」


「二人さえ無事であれば」


そう言うとまたユウトはにっこりと笑った。その笑みは先程殺した男の笑みに良く似ていた。


「良いだろう。イテナの名に於いて全力で両名を守ることを誓う。分身だがな?」


「ええ、それで十分です」


二人はねばついた様な裏の笑みを交換し合う。どうにか裏を突けないか、二人ともそう考えて……。

そうした中、俺は膝を叩いて立ち上がる。


「さて、さっさとマサヤを回収に……」


その瞬間だった。


『力の集積∴全』


「ぐぅああああ!!」


俺の体から力が抜けていく。正確には俺を構成している魔力そのものが、何処かに強引に回収されつつあった……。慌てて魔力回復薬を2、3本空にし、その力の奔流に耐える。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


息荒く膝ま付く俺にユウトは心配そうに声を掛ける。


「どうしたんですか?」


その言葉に俺はこう返した。


「本体が……危険だ」

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