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傾世の暗殺者異世界に物申す  作者: 伊賀良太郎
第1章〜魔王暗殺〜
90/107

90禅問答。敵に打ち勝つ前に先ず己に打ち勝ちなさい

ちょっと短いです

――――イテナ視点――――――――


ギィ……。と金属と土が擦れる音がする。扉を開けると一瞬洞窟にしては明るく外に出たかと錯覚するが良く見ればそうではない。単に天井の一部分だけ穴が貫通し、外の光が漏れているだけの様だ。


「どうぞ入って下さい。そこで見ていても何も起きませんよ?」


その差した光は中央にある青銅の像へと注がれ、その像に向かって一人の男が祈っていた。その男は祈りの姿勢を崩さないまま入り口近くの俺達に告げた。


「どうしました?」


一向に入ろうとしない俺にユウトが不思議な顔で聞いた。だが、そんなこと俺には全く聞いている余裕が無かった。


これは……。やっちまったかも知れん……。


異世界、そして初めて来る場所、初めて会う人物の筈。だがどうして……。“俺はこんなにも既視感を抱いて”いる?


「つかぬことを聞くが……。その像の元になった人物だが……。バルサム、とは言わないよな?」


まさかな。違うよな?頼むから違うと言ってくれ……。

そんな細やかな願いは男に届くことは無く、男はにこやかな顔で振り向くとイテナに向かって声色高らかに応じる。


「おお!良くご存知で!もしかすると知人か何かで?」


何ということだ……。

まるで地獄への同行者を見付けたような純粋な喜びに満ちた男の態度に絶望を深くする。


「いや、俺の知人ではない」


むしろもっと近い。


「どうしたんですか?そんなレイプ目をして」


ユウトが俺にそんなことを聞くが、深い溜め息を吐きながら何でもないとしか返すことが出来ない。


「はぁ〜……。何でもない」


そうだな。何でもないな。高があの銅像のモデルが俺の変装に良く使う姿で、それに祈っている男の姿から洗脳魔法を使われていることが想像出来るというだけだ。それ位何でもないな。

そんな風に自分の言ったことに自分で皮肉りつつ現状、今ある情報を精査する。

あの銅像。確実に元になったのは父に変装した俺、則ち分身か本体のどちらかだろう。父は俺が最も長く見てきた人であり、一番変装がし易い人物だ。血が繋がっている訳ではない為恰幅などは少々違うが、背格好を変えるなど魔力の塊である分身にとっては朝飯前だ。それに異世界だ。現実的にあの人物を知り得るのは俺くらいのものだ。

つまり男はバルサム=俺に祈りを捧げている訳だ。しかし、俺にはその様なことをされる心当たりは全く持って……いや、在ったな。

今思えば懐かしい……。イグマとかいう奴は俺に決闘をする時に何て言った?「アンタ、あの時の“盗賊”だろ?」だ。そう、イグマはあの襲撃を掛けて来た奴は盗賊に変装していたと言った。この時にもう気付いておくべきだった。俺は元になる人間の居ない変装はしない。ミスが出やすいからだ。

例えば1から作った変装の場合細部にズレが生じてくる。例えば何国の農民の癖に上着はどこどこ産で下履きはどこどこ産と異なっているのはおかしい、といった具合だ。そんなミスを犯す可能性を残すくらいなら元から居る人物をしっかりと観察し、本人を殺すなりしてすり変わる方が遥かに楽だ。少なくとも俺はそう思っている。昔の仕事仲間には変態扱いされたがな。

それに従えば、俺の本体は盗賊に関わり合いを持ったってことだ。“どういう形か”解らないまでも“頭の隅に留め置く”べきだった。

そうすれば、冒険者ギルド長の「この辺りで最近は“盗賊”の噂を良く聞く」という話ももっと違う形で捉えることが出来た筈だ。ああ、嫌な方向でパズルのピースがハマって行く。もしこの状況を総評するのであれば。


……完全に身内の潰し合いだなコレは。


恐らく本体は行き掛けの駄賃レベルでの気軽さで盗賊団の支援を取り付けようとしたのだろう。それで近くの内1つの盗賊団の団長に洗脳魔法を掛けたのだ。因みに、洗脳魔法の概容などについての説明は割愛しておく。未だに昔試しに掛けみたたことについては思い出したくもない。

自らの支持者を作ることを目的としていたのだろうな。完全に企みを踏み潰してしまった。まぁ、やってしまった物は仕方ない。現状からの最善の手を取るとしよう。


「所で、この盗賊団には後どれだけ人が残っている?」


現在この男は俺をバルサムの知人だと思って好意的に接してくれている。謀る様なことはしないだろう。念の為観察はしておく。これで人数が残っていれば何とか盗賊団を建て直して……。


「私を含めて5人ですね」


詰んだな。

5人じゃどうしようもないな。この男、どうも嘘を吐いているとは思えない。こんなことならバカスカ殺すんじゃ無かった。


「仕方ない。殺すか」


目的はどちらもアンダーカバーの作成。ならず者の盗賊と社会的地位のあるらしい勇者とではどちらが有用かは火を見るより明らかだ。ならば此処はこの盗賊団を潰して勇者の名に傷が付かない様にするのが吉。そう結論付けた俺はナイフを抜こうと腰に手を宛がい、既に取られたことを思い出す。チッ、と舌打ちすると袖口に巧妙に隠した棒手裏剣を取り出す。


「殺す?私を?ご冗談を。この私は!バルサム様にお力を頂いた!貴方達ごときに負ける筈が無いじゃ有りませんか!」


まぁ、そうだろうな。目の前の男は全体的に細い。力でも貰ってなければ盗賊団を統べるなど出来ないだろう。


「戦闘経験、お前、無いだろう?」


「確かに私は司祭の出です。しかし、それがどうしましたか!?そんな物、圧倒的な力の前には無意味です!」


ブォォ……。男の体から噴き出す魔力が巨大な威圧感を持って俺に迫る。


「魔力的には俺の倍程か。身体能力も相応に強化されているとなると……。成る程、これならS級でもなければ手は出せんだろうな」


イグマと戦った時も此れくらいの力だった。アレがS級の平均だとするならば目の前の男はそれに該当するだろう。俺とて一撃でも貰えばタダでは済まないだろう。ギルド本部の真横で勢力を伸ばしてしたのも頷ける。


「だが、所詮はその程度だな。大きな力を持っていた所で使えなければ宝の持ち腐れだ。心技体、3つが各々作用し合って力は生まれる」


「貴様!バルサム様に向かってなんたる侮辱!!私はバルサム様に見出だされたのです!!力に弄ばれるなんて有り得ません!!」


怒りでまた一段と男からの魔力の圧が増す。これだから洗脳魔法を使うのは嫌なんだ。話が通じない。


「恥を知りなさい!!」


男は地面が陥没する程の力で踏み込むと、俺との間合いを一気に詰める。ゴウゥ!という凄まじい風切り音がその速さを物語る。


「遅いな」


元々本体の記憶を有している俺だ。この男の最速でさえ欠伸が出る程だと言うのにわざわざ力の伝達率の悪い方法で“スピードを抑えて”来てくれている。なめるな、と大喝したい気分だ。確かに今の能力はこの男の半分程度でしかないが、わざわざ相手が1歩で飛ぶように距離を詰めて来てくれたのだ。こうなってしまえば最早速さは関係無い。到達地点が分かっているのだからそこで待ち伏せしてしまえば良い。自ら戦闘に於ける利点を手放すなど愚の骨頂だな。俺は棒手裏剣を高めに構えると、到着する瞬間に素早く体を前に押し出し、互いのスピードを利用しつつ、男の首筋を切り付けた。


ガキンッ!


生身には有り得ない音を立てると棒手裏剣は弾かれ、その凄まじい負荷に堪えきれず棒手裏剣を取り落とす。カランカランと音を立てたそれは見事に曲がっていた。


「ああ……。素晴らしい。見てくだい!これがバルサム様の与えて下さった神の肉体です!先程の強襲でさえ傷1つ無い!」


男は誇るように体を広げる、その首筋には赤くなった後さえ見受けられなかった。


「チッ、面倒だな。物理防御か皮膚強化系か。どちらにしても破るのに時間が掛かる」


まさか戦闘中に解除を行う訳にも行かないから物理攻撃で突破する必要がある。物理防御の場合は容量限界までひたすら攻撃を打ち込み続け、皮膚強化の場合はその装甲を抜ける程の攻撃を仕掛けなければならない。前者はその幾度にも渡る攻撃に耐えられる武器は取り上げられてしまった。物理防御を削ぎ落とすまでの間に武器が全滅してしまう。後者も同様でその巨大な攻撃に耐えられる武器が存在しない。


「『指定爆破』」


魔法により内部からの破壊を試みるが不発に終わる。此方も何者かからの支援がある様だ。これは魔法防御の応用だな。内部に使用する類いの物ですら通さない改良版だ。幸い魔力回復ポーションの買い貯めは未だある。俺の魔力と相手の魔法防御。どちらかが切れるまで続く耐久戦でもしてやりたいことだが俺は賭けはしない派だ。他に方法が無い時ならまだしもこんな運に頼る様なことはしない。それに分身たる俺にとって魔力の有る無しは冗談抜きで死活問題だ。容易く賭けて良い物ではない。


「絶望しましたか?しかし、これが実力です。バルサム様の様な万能なお方でない不完全な我々の限界。身の程を知りなさい!!」


「そう悲観するな。既に攻撃手段はある」


「生意気なぁ!」


男はまたもや一気に詰めると大振りな拳で俺を捉えようと必死になる。しかし、そんな狙いも定まらない様な攻撃が当たる筈もない。難なく避けて、至近距離に近付いくと、男の目を目掛けてプッ、と一息吹き掛けた。


「ぐっ!」


プスッ!という音と共に男は忌々しそうに顔を顰めた。含み針だ。その一瞬の隙を見逃さず、一気にもう一本の棒手裏剣を突き入れる。


ガキンッ!


再びそんな音がして棒手裏剣が飴細工の様に曲がる。


「ハハハ!何度やっても無駄です!!先程だって……みぃ……たぅあ……でしょぅ……ぉぅ?」


男は急に呂律が回らなくなったかと思えば、どさりと地面に倒れ伏す。


「良かった。皮膚強化の方だった様だな。また無駄に時間を過ごさずに済んだ」


俺が無感動に見下ろしながら呟けば、男は口許に黄色い泡を作りながらも必死になって言葉を紡ぐ。


「だ、だでぃをでぃだぁ!」


「ふむ、何を言っているのか分かりづらいが“何をした”という所かな?何、簡単だ。毒だよ毒。その含み針にはタップリと神経毒が塗ってある。直に呼吸さえ怪しくなる。皮膚強化なら目には攻撃が当たるんじゃないかと思ったが正解した様だ」


物理防御ならひたすら殴り続けるしか方法がなく、かなり面倒となる筈だったが、皮膚強化の方で本当に良かった。毒でさくりと殺れる。


「ひぃ、ひぎょぅ……だぁ」


「卑怯?笑わせるな。戦いとは常に生き残りを賭けている。お前と俺と1つだけ違いを上げるとするなら経験の差だよ。お前には人を殺す覚悟が無かった」


お前は人を殺す為の努力をしたか?俺を自分の致死量を毒を飲むことで調べ上げ、それを繰り返して鍛えることで致死量を上げていった。今では大抵の毒薬は効かないと言える。それがただ力を与えられてはしゃぎ回っていただけのお前との差だ。


「ぅあぅあ……。ぼう……しばけ……ごじゃいばぜん……。ばるぅ……ざむざまぁ……。ぜっがぐ……。おべを……がげで……じだだい……だどに……かひゅっ」


「そんな状態で良く喋るな。呼吸さえままならないだろうに。名前すら、覚えられてすら居なかっただろうに……」


男は10分程苦しんだ後息を引き取った。その間中始終謝罪の言葉を口にしていた……。


最近のフリーザ様のかっこよさは異常。

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